第二話 【空の向こうと】
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第二話
教室の窓からは瑞々しい青い葉の数が激減し紅く茂った葉の方がよく目につくようになった。秋の兆しを感じられるのが少しだけ嬉しくも悲しさが胸に募る。
雨の件から俺は藤川さんと一緒に帰るようになった。録音のテープが抑止力となったおかげで藤川さんへのイジメもピタリと止み、8日が経つ。
「今日は割と涼しいね」
なんて唯一は言って彼女は頷く。行動を共にするようになり、唯一は彼女の出来る事と難しいことについて、まじまじと観察するように心がけるようにした。
喋るだけが簡単じゃない。日常生活で機微でしかない支障でも本人とっては喉を焼かれるような苦しさがそこにはあると理解した。
そこで話すという行為の選択肢を狭める解決案を思いついた。やっと藤川さんとの会話が成立する。
藤川さんがどんな人なのかを知れば知る程、彼女が歩み寄ってくれる。信頼が着々と深まっていくのが楽しくなっていた。
藤川さんは自転車を持っていないらしく、俺は自転車から降りて歩く。時々だったが綾瀬と3人で帰るときもあって、この2人が意外と早く打ち解けていたのには意外で俺は驚いた。
どうやら元々、転校前に通っていた小学校で同級生だったらしい。藤川さんに綾瀬を紹介した時に彼が打ち解けた。
「実は俺たちさ青八木小学校で同じクラスだったの覚えてる?」
藤川さんは首を左右に振る。
「あれ綾瀬って転校生だったんだっけ」
俺が横槍を入れると
「そりゃ忘れるよな。小5の時だったしさ。あっそれでさ〜」
担任とクラスの出来事、校内の雰囲気等を話し出す。何個か当時のエピソードを話すがどれもピンときていなかった。綾瀬は両目を左上に寄せる。
「あれ覚えてる?誰だったけな・・・・・・絵の具の付いた筆を洗い落とす用のバケツをね捨てようとしたら、転んじゃって先生にぶちまけてさ全員が怒られたやつ」
藤川さんは目を見開いて鼻から笑った。どうやら覚えていたらしい。
この瞬間から2人は会話に華を咲かせた。俺はこの二人の話の輪に入れないせいで疎外感を感じて寂しかった。
でも久々に綾瀬が高らかに笑っていた。藤川さんが控えめにも笑っていて、そういうのを俺は微笑んで眺めていた。
色とりどりの屋根がある住宅街で各々の家に着くまでの道のりが居心地の良い時間であり、最も長く続いてほしい時間だった。
そんなこともありつつ藤川さんは俺たちに緊張せず、関わってくれるようになった。まだ声を出して話せられる程ではないが藤川は頷いたり、俺達二人の話に興味を持ってくれたりした。それとあまり俯かなくなったような気がした。それが彼女の本来の性格なのかもしれない。
そうやっていろんな藤川さんの一面を知れるそんな時間。
土砂降りだった翌日の朝に俺は藤川さんとの話を説明した。そして、もしものことがないようにいじめから守りたいと告げ、3人で帰れる時だけでいいから協力を願った。
綾瀬の黒目は濁った。そしてうすら笑いながら「是非させてくれ」と了承してくれた。
誰だって苦笑いになる内容だ。平然を取り繕うのは下手だな綾瀬は。