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川藻童子~かわもどうじ~

作者: 風連

沼からチョロチョロと、流れ出る幾筋かの水は、泥を含んで濁りながらも、辺りの草木にうるおいを与えていた。

夏でも枯れない沼は、夏草の萌える息吹の中、ユラユラと陽炎を立たせている。

木陰の下の水草の間から、ソッと辺りをうかがうのは、この沼に潜む、川藻童子かわもどうじだった。

暗い緑色の髪は頭をグルリと一周して、首から背中に短く生えている。

河童じゃないので、皿は乗せてないし、鱗は無いが、ヌメッとした感触を感じさせる皮膚は、水に潜むもの、それらしかった。

沼は静かで、訪れるのは鹿や狸や野兎のうさぎや野に住むもの達だった。

騒がしいカケスが来て、世間話をしていくのは、仕方なかったが、それなりに川藻童子は、気楽な暮らしをしていたのだった。

もうすぐ、黄幡山おうばんやまの祭りが来る。

この辺りでは1番大きな夏祭りだ。

川藻童子もそれはそれは、楽しみにしていた。

滅多に出ないこの沼を抜けて、夏祭りに混ざりに行くのは、100年も続く楽しみのひとつだ。

月の大きさで、数えていた頃は、楽だったが、今は違う。

暦の違いが、祭りの日を変えていたのだ。

夜中にコッソリ沼を抜け、グチグチの谷地を抜け、硬い道に出る。

目玉の化け物と思っていた物が、車だと知ってからは、あのギラギラを見つけるたび、サッと路肩の下に身体を隠した。

ここから1番近い学校の掲示板まで行くと、夏祭りのポスターが、貼ってあった。

ウンウン、何度か頭を振って頷くと、川藻童子は沼に帰る道をプラプラと歩き始めた。

『これ、こちらじゃ、こちら。』

低いがはっきりとした声が、闇の向こうから、かけられた。

振り向くと、大きな倉庫の入り口が、ほんの少し開いている。

川藻童子が、そっと覗くと、大きな山車だしの陰影が黒々と中に納まっていた。

『よく来る、河童じゃろうって、おぬし。』

川藻童子はブンブンと手を振り、少し笑った。

『いえいえ、皿も無けりゃ、甲羅もござんせん。

川藻童子と申します。

あの河童さんとやらは、親戚筋ではありょうせんとは、言えませんが、会ったことがないんで、何とも。』

『ははは、ほー、そんなか。

わしはそれ、ここから身動き出来ないので、な。

失礼したな、童子さん。』

眼が慣れると、暗闇の中の黒い影にも凹凸おうとつが現れ出し、何やらキラキラと少しの明かりに光る物も見えた。

年に数日、外を練り歩くだけの山車ではあったが、人の話をかたわらで聞いているので、話は中々面白い。

村だった頃の話に話は変わり、移り行く季節をついつい話し込んでしまった。

「コケー、コケコケ、、コケッコーーー。」

一番鶏いちばんどりが鳴いた。

挨拶もそこそこに、川藻童子は山車との話を打ち切り、住処の沼に急いだ。

農家の朝は早いが、流石に人はまだ出てきては居なかった。

沼への小道が見え、ホッとしたのもつかの間、慌てていたのが、不味かった。

ヒョッイッと出した身体に、ガシャンと鈍い音が走る。

何時もの用心を怠ったせいだ、と思いながら、クルクルと回りながら、土手の下に転げて行った。

咄嗟とっさに、いけないと悟った川藻童子は、身を硬くして、道祖神そっくりに化けたのだった。

これなら、道端に置いて行ってもらえるはず、だった。

だが気付いた時、川藻童子は見知らぬ土間の一角に置かれていたのだった。

たらりと汗が出る。

日が昇れば、術を解く事も、ましてや動くことなど出来ないのだ。

石の眼を閉じて、ジッと固まっているしかなかった。

人がバタバタと横を過ぎ、何かに匂いを嗅がれたりもしたが、そのまま、土間にうっちゃられた格好で、日の沈むまで、我慢だった。

夕闇が辺りを染め出した頃、川藻童子はヒョイっと持ち上げられた。

そのまま、井戸に連れて行かれ、頭からの水浴びをさせられた。

これは、厄介な事になったな、と、術を解くのを諦めた。

夜中になれば、逃げ出す算段も出来ようと、道祖神で、待つ事にした。

ジッと見つめられているのを感じる。

居心地が悪い。

唐突に頭の上から、声がした。

「お前、狸だろう。

うちの爺ちゃんが、昔、くわで、夜中に道祖神を小突いたら、逃げてったって、言ってたぞ。

どう見ても、お前、動いてただろう。

自転車に、道の真ん中でぶつかる道祖神なんてのは、化け狸以外、いるわけが無いし、な。」

そこまで一気にまくしたてられた。

狸じゃないので、返答のしようがない。

ここは我慢のしどころ。

水を浴びて、力も盛り返したが、短気は損気。

その後も、化け狸だとか何とか、色々言われたが、川藻童子はピクリとも動かず、我慢比べに遂に勝った。

相手は、散々、狸の悪口を言って、とうとう尽きてしまったのだ。

悪口は言う方も聞く方もつかれる。

なんと、道祖神はそのままポイと、窓の外に放り投げれたのだった。

『やれやれ、今更ながらの、信仰心は。』と、川藻童子は思ったが、化け狸ではと、頭を下に夕闇の中、土塊や蟻などと静かにそこでジッとしていた。

ガラガラと窓が閉まった。

だが道祖神の川藻童子は動かない。

眼を開けて辺りを見渡す事が出来ないのだから、用心に越した事はないのだ。

そのまま3日が過ぎた。

流石に、この家の者も、化け狸説には無理があったのに気付いたらしい。

道祖神は、その日、ヒョイっと持たれ、何と用水路にポチャンと投げ捨てられたのだった。

『世も末になりにけりか〜。』と、川藻童子は半分水に沈みながらも、用心はおこたらない。

それから2日。

ドジョウやらジャンボタニシやらに突かれながら、待ちに待った雨が、用水路の中の道祖神を巻き込み、流れ出した。

水の勢いに任せたまま、だいぶ流されてから、ようやく川藻童子は術を解き、岸に上がって、住処の沼に帰る事が出来た。

夏祭りは直ぐだ。

宵宮の笛や太鼓の音が、聴こえる。

若竹を入りような程、手折ると、器用に竹の繊維をクリクリと手の中で紡ぎだし、1枚の着物をこしらえた。

筒袖で頭の出る穴が空いている、簡素な着物だ。

それをスポンとかぶり、腰の辺りをやはり竹の紐で結ぶと、アレヨアレヨとそこには、浴衣を着た小学生の男の子の姿が現れた。

拾ってきた手鏡で、変身した姿をマジマジと見てから、川藻童子は沼から田んぼへの道を歩き出した。

ヒョンヒョンと足元から虫が跳ねる。

空の下側を雲が隠してはいたが、消えかけの夕映えの残りが、ほんのりと薄紅を散らせている。

陰の中をソッと歩く。

歩くと、暫く道祖神でいたせいか、何となくギクシャクしたが、そのうち慣れてくるだろう。

足元で、蛙が鳴き出し始めた。

何処か湿った暑い風が、大きな扇子の上から、フワリと煽られて来るかのようで、祭りの宵宮の明かりがその中に滲み出していた。

川藻童子が一生懸命歩いても、祭りの行われている神社はまだまだ先だった。

先だっての、災難があった場所に着いた。

思わず、しげしげとその辺りを見ていると、後ろから無灯火の自転車が走って来た。

道の端に寄った川藻童子を抜き去ると、自転車が酷いブレーキ音を、立てて止まった。

暮れ出していたので、逢魔時はとうに過ぎていた。

それでも、川藻童子は何だか妖しいのは仕方ない。

「どこの子だ、お前。」

あの声だった。

寄りにも寄って、ぶつけられて道祖神に、慌てて化けた時の少年の声だ。

「おまえ、迷子か。」

川藻童子は、フルフルと頭を振った。

「親は、兄弟は、うちは何処だい。」

心配してくれてるのだが、迷惑な話だ。

「し、知らんのとは、口さ、きかねぇー、、、。」

尻切れとんぼの小さな声で、絞るようにそれだけ言うと、サッと田んぼの細い畦道あぜみちに、尻から駆けおりた。

後ろから、何か怒鳴っている様だが、川藻童子は振り返らなかった。

山の陰に入ったので、人の眼では、後は負えないだろう。

それにあの自転車って奴は、畦道を走るようには出来てはいない。

川藻童子は、畦道を駆け抜け、アッという間に、姿をくらますことが出来たのだった。

回り道はしたが、どうにか宵宮で賑わう神社の参道に着いた。

川藻童子は化けを変えていた。

男の子の姿から、女の子にしたのだ。

あの自転車のに、又会ってはかなわない。

この日の為に、あちこちで拾った小銭もちゃんと持って来ていたので、昔ながらのヨーヨー釣りや首から吊るす事の出来るオモチャのパイプに入ったハッカ飴なんかを買い込んで、ブラブラと参道の夜店の中を歩いた。

さっきは小さな子供過ぎたかもと、ちょうど中学生ぐらいの背丈に変えてたので、一人で歩いても誰も気にしなさそうだった。

昔なら、嫁に行ってもおかしくない背上だ。

なんだか、パイプのハッカ飴が少し恥ずかしい。

そもそも川藻童子なのだから、歳は子供どころか、そこらのお婆ちゃんなんかをとうに越えていたのだが。

宵宮の囃子が変わり、鐘が涼やかに打ち鳴らされ始めた。

夜の山車が、明かりをまとって、引き出され始めた。

これから3日間、昼と言わず夜と言わず、山車は村々の家を廻るのだ。

先頭には、庭箒にわぼうきよりでかい松明たいまつが、火の粉をとばして先陣を切る。

これは、神社の外には出ない。

神社の参道を抜けると、サーチライトのような燃える様なライトが夜道を照らすのは、3年程前に、軒下に火の粉が飛んで、大層な騒ぎをおこしていたからだった。

あれは怖かったな、と思い出し、持っていたイカ焼きが、手からホロリと崩れた。

「落ちるって。」

イカ焼きの入った入れ物ごと、手を握られた。

冷んやりした川藻童子の手が、スッと引っ込んだので、イカ焼きは宙ぶらりんとなり、2人の間を音もなく滑って行ってしまった。

イカ焼きは地面に落ち、土まみれだ。

「ごめん、ビックリさせた。」

同じぐらいの背上の女の子が、にっこり笑った。

「あ〜ぁ、これはもう、無理だわ。」

そう言うと、イカ焼きをサッと拾って、近くの露天のゴミ箱に、入れた。

洗えば食べられるのに、と、出かかった言葉を呑み込んだ川藻童子は、コクンと、小さく頷いた。

川藻童子は青い蜻蛉柄の着物。

その女の子は紅い蜻蛉柄の、着物を、着ていた。

「ねぇ、タコ焼き買うから、一緒に食べよう。」

引っ込んだ手を握られ、引っ張られるまま、露天のたこ焼き屋に連れて行かれた。

目の前を、あの山車が、ガラガラと引かれて行った。

お互い、苦笑いだ。

女の子は、結城ゆうき伸恵のぶえと名乗った。

夏休みで、祖母の家に来てると言う。

川藻童子は、川中かわなか奈留なると名乗った。

面倒なので、祖父母の家に来てると、話を合わせた。

川藻童子には、父も母も居ないから、祖父母も存在しないのだ。

伸恵は、友達が出来ないと、愚痴った。

「ここらの子達って、皆、幼馴染じゃない。

挨拶はしてくれるんだけどさ、なんか壁があってさ。

それだけ。」

「はい、お待ち。

400円、なります。」

渡されたタコ焼きは、出来立て熱々だった。

伸恵はタコ焼きと川藻童子の手を握ったまま、境内の奥のベンチに向かった。

引っ張られたまま、座ると、やっと手を離してくれた。

「直ぐは食べられないよね。

少し冷ましてから、だね。」

3つの山車が、大騒ぎで引き回されてるが、暗い森の木々の陰から見えた。

夜目の利く川藻童子には、昼よりも明るく、ライトの光は毒々しかったが、それなりに綺麗だった。

山車自体にもライトが着けられ、そこだけ切り取ったように明るい。

松明だけの時は、道から落ちたりもしたが、あんなに煌々と照らされていては、却ってに田んぼや山が黒々として、怖くはないのだろうか。

ハッと気付くと、伸恵が何か話しかけていたようだ。

バツが悪い。

「いや、そうだよねー。

何処から来たかなんて、関係無いか。

ここらの子の事、言っていて、さ。

来たトコ、聞くんじゃ、同じだね。」

ケロケロと伸恵が笑った。

川藻童子も、ニッコリした。

冷めたタコ焼きは少し硬くなっていたが、不味くはなかった。

山車が出切ってしまうと、人の波も引き出した。

タコ焼きのお礼を言って、川藻童子は帰ることにした。

祭りは明日が本宮だ。

ゾロゾロと、歩く人の波の中、川藻童子はヒョイっと脇の暗闇に身を隠した。

もう、夜店の露天の灯りも1つ消え、2つ消えしだしている。

本殿脇に据えられた松明も、くすぶり出し、いつの間にか、闇が濃く降りていた。

代わりに、空では星が光だし、天の川のくすんだ白さが、さえざえと空を彩っていた。

住処の沼に戻ると、ホッとした。

ハッカ飴を吸い込むと、寝床に潜り込み、化けを解いて、寝る事にした。

今夜は楽しかった。

明日は誰に化けよう、と思いながら、スーッと眠りの世界に吸い込まれて行った。

次の日、川藻童子は祭りに行かなかった。

余程疲れていたのか、目覚めると、遠くから腹に響く太鼓の音が、木霊しながら、届いたのだった。

本宮が終わった音だ。

あぁ、と、上げた頭が垂れる。

本当に楽しみにしていたので、川藻童子の落胆は、側で見ていた鰻が慰める程だった。

後は、順に山車が帰って来るのだが、これは神社の方の祭事で、もう夜店は店じまいしている。

次は、花見の季節まで、露店が、出ることは無い。

ここでは、秋祭りが無いのだ。

黄幡山おうばんやまには、昔からの言い伝えが残っている。

秋祭りにうつつを抜かすと、山の神が降りて来て、娘を拐い、収穫したばかりの穀物を荒らし、あろう事か疫病を撒き散らすと言うのだ。

多分、大昔に山賊がでたり、酷い流行病がここらを襲ったのだろう。

さすがに、そんな大昔には、川藻童子も生まれては居ないから、事の真相はわからない。

それで、ここは未だに秋祭りをしない、変な風習が、幅を利かせていたのだ。

ため息とガッカリで、川藻童子は二、三日、クヨクヨしながら過ごした。

集めているハッカ飴の入れ物も哀しい。

何十年何百年生きて居ようと、こんな悔しい事は、そうそうないだろう。

川藻童子は、悪さをするでもなく、人にちょっかい出すでもなく、本当にノンビリと暮らしていたから、たまの祭りは大好きだったのだ。

そうだ、と、思い出した。

今まで、余り気にしていなかったが、先だって話した、山車と話して来ようか。

あっちも、川藻童子を知らなかったが、川藻童子もつい先ごろまで、山車が話すのを知らなかったのだから、仕方ない。

それでも、今は早いだろう。

散々、村の家々を回ったばかりだ。

誰もが、夏祭りを忘れた秋の初め、川藻童子は寝ぐらの沼からソッと、近くの道の下に出た。

黄昏時に、蜻蛉がスイスイと飛んでいる。

用心して、陰からは出ないでおこうと思った。

地面に耳を当てても、なんの音もしない。

伸ばした首の先に、彼岸花の茎が触れる。

街灯の灯りが、ポツポツとつき始めた。

人が作った路を歩けば早いが、夏祭り前のあの道祖神に化けなければならなかった事が、余程辛かったので、路の下の草わらを、ソッと歩く事にした。

なるべく、草陰に身を沈ませながら、時々耳をそばだだせ、辺りの音も聴きながらだったので、山車が納められてる倉庫に着いた時は、すっかり真っ暗になっていた。

倉庫の扉は、閉じていた。

それでも、隙間から声をかけると、返答があった。

『おや、その声は、童子さんじゃな。

久しい事じゃわい。

それ、錠前なんて不粋なもんは外してやるよって、ようよう、入らっせ。』

『それでは、失礼致します。』

2人は、お互い、挨拶に時間をかけ、それから祭りの話を始めた。

山車は、川藻童子の寝過ごした話に、同情してくれた。

山車自体、意識を持ったのは、あの夏祭りからだったからだ。

ボンヤリしていた頃は、ただただ人に曳き回されていたのだが、意識がしっかりすると、面白い。

アレヤコレヤが新鮮で、そんな中、川藻童子に会ったのだから、動けぬ身としては、色々聞きたかったのだ。

それが、宵宮からプツンと来なくなったので、なんとも気を揉んでいたという訳だった。

『童子さんと居た女の子、次の日、探してた様じゃったな。

丁度、本宮から帰る時、すれ違ったが、なんだか寂しそうに、独りだったわい。』

川藻童子も、しょんぼりと頷いた。

自分も祭りの本宮に来られなくて、どれ程残念だったか。

もう一度、少し冷めた、タコ焼きを食べたかったと。

『来年、会えるじゃろうて。』

川藻童子は、ブンブンと頭を振った。

『あれっきり。

それっきりなんです。

大抵、何時も。』

人は大人になるからと、戸の隙間の星明かりを見ながら、川藻童子はつぶやいた。

『そうかのう。』

山車は川藻童子に、静かに寄り添ってくれている様だった。

川藻童子が、水を向けると、山車はあちこち歩いた家の様子を教えてくれた。

『変なのが、おったぞい。

ほれ、その下側に狸が飾ってあるじゃろうって。』

みれば、山車を引く縄の側に、仔狸の顔がある。

惚けていて、可愛らしい。

『これを指差して、お前か、お前かと、騒いでな。

家のもんに、コッテリと叱られとったわい。』

山車は体を揺すって笑った。

『その上、狸の道祖神とかなんとか、変な小僧じゃっのう。』

そう言うと、山車は又、カラカラと笑った。

これには、アッと思った川藻童子もフフッと笑った。

道祖神に化けた事。

軒下に投げられた事。

用水路に捨てられ、流された事。

『ほんに、神も仏もありやぁせんでした。』

2人は、腹から笑った。

『まあまあ、それでも良しなな祭りじゃった。

と、いう事じゃな。』

『はい。』

山車と話して、川藻童子の気持ちも随分と落ち着いたのだった。

それから、時々、川藻童子は山車と話す為に、通うようになった。

用心は、行きも帰りもおこたらなかったので、無灯火の自転車にぶつかる事はなかったし、人にも見つからなかった。

渡り鳥が空を北に飛んで、桜が咲いたのを、山車に教えた。

暖かくなると、なんだかウキウキした。

花は次々と咲き、田んぼに水が引かれ、田植えが始まる。

今年は、ハッカ飴を買ったら、山車について回ろう。

濁った色の五百円玉が2つある。

そのうち、狸に化けてみようかな、などと、独りごちて、ニヤニヤと笑ってしまう、川藻童子であった。


今は、ここまで。

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