1・旅の始まり
自己紹介
旅の目的
必要事項
「人類でいちばん幸せだった人を探す旅」
ろひもと 理穂
序章 1・旅の始まり
自分でいうのも自慢げに聞こえて何だが、私は21歳にして世界的に有名な「天才推理探偵」だ。
年収は3億ドル。現在1ドル115円20銭だから、円で計算すると年収は約350億円になる。これで活躍ぶりはイメージしてもらえることだろう。
月に数件、難事件を解決してほしいという要請が国からくる。その難事件をこれまですべて解決してきた。すると今度は他国からも高額の依頼料で要請がくるようになった。
別にすべての依頼を引き受けているわけではない。報酬も考慮に入れて選りすぐった事件ばかりを取り上げている。だから、年収3億ドルといっても自分のプライベートの時間をかなり確保しての話というわけさ。その気になれば5億ドルは稼げる。
ただ、ここ最近、私の頭脳を悩ます怪事件は起こっていない。
約二ヶ月はまともに働いていない。実に退屈な毎日だ。退屈になると妄想にふけるのが私の趣味である。
妄想といっても内容は限られている。もし私が犯罪を犯すとしたらどのような犯罪を、どのような計画で実行するのか、というものである。頭のなかで繰り返しシュミレーションしてみる。時に憎らしい人間を殺してみたり、まったく無関係な人間を殺してみたりしてみる。どのような筋道を辿っても警察に捕まる結果には至らない。私のほうが国家警察よりも優れているからだ。こうなると妄想の面白さは半減してしまう。緊迫感がまるでない。
妄想は横道にそれていく。
これまで、人類はいったいどのくらいの人間が死んでいったのだろうか。
桁は億ではすまないだろう。兆だろうか。京だろうか。数え切れないほどの人間がこの地球で生まれ、死んでいったに違いない。
無念の思いで死んでいった人間もたくさんいたはずだ。
犯罪や戦乱に巻き込まれて死んでいった人間はどれほどいるのだろうか。逆に、犯罪を犯しても捕まらずに生涯をまっとうした人間もいるはずだ。そういった人間は死ぬ間際まで罪悪感にかられていたに違いない。
それでは、犯罪にまったく巻き込まれずに生涯を終えた人間もいるはずだ。温かな家族に囲まれて楽しい生涯を送ったことだろう。果たしてどのくらいの数がいるのだろう。
そんな幸せな人生を送った人間は……。
そんな妄想にかられていると、ふと、この人類で一番幸せだった人間はどんな人間だったのだろうかという興味にかられた。どんな生活を送ったのだろうか。それは男かそれとも女か。仕事は何をしていたのだろうか。寿命はどのくらいだったのか。いつの時代の人間なのか。どこの国に生まれ、育ったのだろうか。
真実を知りたくなった。
無論、幸せの定義など人によって違うことはわかっている。わかってはいるが、客観的に比べて順位づけたときに一番になる人間について知りたいのだ。誰が客観的に見れるのかという問題もある。それは神でいい。神が見ていて一番幸せな人間について詳細を知りたい。
一度好奇心に火が付くと止まらないのが私の性分だった。
西方に世界のすべてを知っているという大賢者がいることを思い出した。
私の疑問に答えられるとしたら、この大賢者しかいない。
私は早速、旅をする支度を始めた。
西方の大賢者を訪問する旅だ。
簡単なようでいて、これは実に難行である。昔に比べて科学の力に頼れない世界になってしまっているからである。理由はいずれお話することにしよう。とにかく飛行機もなければ、鉄道もない。大型船もなければ車もない。交通網は原始の時代に戻っていた。
しかも森や山、海には異常発生した獣や虫たちが縄張りをつくって人間の侵入を許さない。まさに命がけの旅行になる。とても単独ではゴールにはたどり着けないだろう。
私はギルドで旅の仲間を募集した。
頭金に1億円。旅が成功した暁には報酬でさらに3億円を払うという好条件だ。もちろん経験不足の仲間など必要ない。一流のスキルをもっている人材が必要だった。
私が求めた人材は以下になる。
①最強の武勇を誇る傭兵
②最強の知略を誇る参謀
③最強の魔力を誇る魔法使い
④最強の交渉術を誇る営業マン
⑤常に一団を和ませる最強の芸人
⑥サバイバルのプロの冒険家
⑦身の回りの世話をしてくれる一流の家政婦
人件費で約30億円近くかかってくる計算になるが、私の年収から比べると微々たるものだ。その他、旅の諸経費で10億円は必要になるだろう。
これで私の疑問を解決してくれるのならば安いものである。
わずか二日で850件の応募があった。
選考には時間がかかりそうである。
まずは経験・実績を踏まえた書類選考。そして集団面接。個人面接で絞っていく。なるべく早く決めたかったが、焦り過ぎて選択を誤ると命取りになりかねない。納得がいくまでしっかり見極めたい気持ちが私にはあった。
このパーティ募集は「旅人の常軌を逸する仲間集め」と呼ばれて世間の関心を集めることになった。
申し遅れたが、私の名前は旅人。姓は捨て、名前だけが残っている。超一流の推理探偵である。
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