月日
「ふふ」竜はこのところご機嫌です。
体調が良く、それに伴い気分も良いのです。最初は訳が分かりませんでした。
やがてそれはカリカリのおかげだと気づきました。
カリカリが毎日、竜の体の隅から隅まで駆け回っているためらしいのです。
カリカリの毛並は出会った時にはボロボロでしたが、今では全身艶のある薄緑色で、額からしっぽの付け根までの黒いしま模様もくっきりしてきました。
毛並もすべすべで人間の世界にある絹の糸のようです。しっぽもすべすべで先っぽがちょっと毛羽立って硬めの筆のようです。
爪もしっかりして竜の体を駆け回る時にも転げ落ちることもありません。
ただちょっと裂けてしまった耳の先はそのままになってしまいました。
カリカリは少しそれを気にしているようですが、竜はその耳もかわいいと思っていました。
カリカリは竜の体のあちこちに行っては、古い鱗を爪で削ってみたり、大きな指の間をするする通り抜けてみたりします。
この「するする」がなかなか気持ち良いのです。
竜の頭には角があります。
カリカリは最近強くなってきた前歯を この角にあててカチカチさせ、さらにしっぽの先をパサパサさせ、最後に角に体を「するする」します。
そしてとても満足そうに、「ぴぃっ」と鳴きました。
竜はもううっとりです。
時が過ぎ、カリカリの体が最近少し大きくなってきました。
それとともに心の方も少しずつ強くなってきたようです。
前は竜から離れるのをすごく怖がっていましたが、今ではほんのちょっとなら離れて藪の向こうをのぞいて見ることができるようになりました。
竜はカリカリがだんだん大きくなってひとり立ちする時が近づいてきたのを感じました。
胸の奥がチリッと痛い感じがします。
でも、カリカリはまだまだ藪の向こうには行けないようで、すぐに竜の足元に戻ってきて竜の集めてあげた魔草や魔樹の実を食べて、最後にデザートのように何やらコリコリ、コリコリ、コリコリ、コリコリします。
その音を聞いているうちに竜の胸の痛みはいつの間にか薄らいで行くのでした。
まだ、このまま一緒にいられる。
一緒にいたい。
もう少しだけ。