一方 その2
カリカリ(子ども)サイドです
今日はいつもの硬い実がもらえませんでした。あの実は魔力がたっぷり入っていてとても美味しいのです。
それにカリカリの種族は前歯がとても丈夫で、しかも少しづつ伸び続けるのです。硬い実は前歯を削るためにもかじりたいのです。
竜はカリカリに、藪の外の世界に出て実を探しに行くように勧めています。
でも、藪の向こうには大きな魔獣が待ち構えていそうで怖いのです。竜に優しく鼻先で押されますが、腰が引けてなかなか行けません。
でもいくら嫌がっても竜は実を取ってくれずに、しきりに外に出かけるように勧めます。
もうこれは外に行くしかないようです。
カリカリは決死の思いで藪に飛び込みました。
飛び出した藪の外は自分が思っていたほど怖ろしいところではありませんでした。
が、すぐ側に頼もしい竜がいないのはとても不安です。
恐る恐る魔樹の実を探しますが見つかりません。カリカリの神経はもう焼き切れそうです。
がさっ!
カリカリの後ろで物音がしました。
「ぴぴっ!」
焼き切れました。
実際は樹の実が落ちた音だったのですが、自分の後ろから大きな魔獣が襲ってきたとしか思えませんでした。
カリカリは慌てて竜のもとへと駆け戻りその足にしがみつきました。
カリカリはしばらくは震え続けていましたが、竜のぬくもりを感じてようやく落ち着きました。
でも今日はもう竜の側を離れる気にはなれません。
昨日食べた実が残っていないかと回りを見ると美味しそうな魔力を持った塊が竜の足元に落ちていました。
かじってみると樹の実よりもずっと硬く、魔力も強いようです。
これなら樹の実よりもずっと長くかじっていられそうです。
コリコリ、コリコリ、コリコリ、コリコリ。
カリカリはその日、眠くなるまでずっとコリコリし続けました。
次の日、竜はカリカリのことをじっと見つめて何やら考えているようです。
カリカリは首を傾げて鳴いてみます。
「ぴ?」
じぃっ
「ぴ」
じぃっ
「ぴ?」
………
「ぴ?」
‼︎
竜がとても驚いた顔をしたのでカリカリも驚いてしまいました。
もしかしたら竜から離れないカリカリが嫌になったのではないか。ここから追い出されるのではないか。
カリカリはオロオロします。
竜は少し考えた様子を見せたあと、嬉しそうな、でもちょっとだけさみしそうな顔をしました。
そうして竜はいつものようにカリカリを頭に乗せて喉を鳴らしながら笑いました。
その様子にカリカリはほっとして全身でバランスをとると、すべすべになったしっぽを振りました。
「ぴぃ!」
カリカリは安心すると急にお腹が空くのを感じ、竜の体を滑り降りて足元の塊をかじりました。
コリコリ、コリコリ、コリコリ、コリコリ。
体に魔力があふれてカリカリはとても幸せになりました。