むかしむかし
大きな竜と小さき者のお話です
とある国の、とても深く暗い森の奥にその竜は座り込んでいました。
その竜はまだその国もずっと小さく、森もずっと小さく明るい頃からそこにいました。
竜は森から出ることはできませんでした。
なぜなら竜の足には とても頑丈な足かせがついていたからです。
昔、竜がとても若い頃、初めて友達になった人間の子どもが 大怪我を負った時に、思わず魔法を使って助けました。
それを知ったその国の王様が子どもを連れ去り、子どもを守りたければ国の守護者となるように命令しました。
竜は友達のことがとても大事だったので、その子が幸せに暮らせることが出来るのならと、守護者になると約束しました。
そうして王様は竜の足に枷を付け、森の奥に鎖で繋ぎました。
その後、友達は大人になり結婚をして子どもが生まれ、年をとり、竜と再会できぬまま精霊の国に去って行きました。
そして、その子どもも、さらにその子ども達もいなくなってしまっても、その国の王様は竜を解放してくれませんでした。
その間に、王様も年をとって次の王様に、さらに次の王様に代替わりするうちに竜の事はすっかり忘れさられてしいました。
竜も魔法で友達や国の事を視ていましたが、長い間のうちになぜ自分がここにいるのかだんだん忘れて行き、ただぼんやりそこに座って、誰も訪ねてくれることのない寂しさを感じていました。
この森はとても深く、暗いので大きな獣や魔獣が棲みつき、人も小さな獣も恐ろしがり寄り付きません。
竜はとても強く魔法も使えるので魔獣など平気でした。
竜はひとりぼっちで座り込み、足の鎖を断ち切る事も出来ずに、ずっと昔、大事な何かと楽しくおしゃべりをして一緒に笑っていた事をぼんやりと思い出しかけては、寂しくため息をついていたのでした。