暗黒街の大親分・王蘭(ウォンラン)
皆様、ご存じでしょうか?
何でもこの世界にも血の掟の様なものがあり、
マフィアの者を殺したりすると突然行方不明になって、
数日後に拷問を受けた惨殺体が川に浮かんだりするそうですよ。
へぇーっ(棒読み)て感じですが。
病院から突然行方不明になったルカ・バウアー4歳です。
今回は王都アンツの裏側…流れ者やお尋ね者の集う暗黒街のお話です。
ここは昼間は多くの人で賑わう王都アンツでも大人気の雑貨屋。そのお店の片隅にある古い酒樽のオブジェを横に動かすと、あら不思議、何と地下へと続く隠し通路が現れるのです。
その先には開けた空間がありマフィアの隠れ家となっています。この世界のマフィアは日本の様に『○○組』と看板を掲げたりはしないのですね……。
そして部屋の中央で上半身を簀巻きにされ椅子に座らされているのが私です。
「おぃ、幼児!今から、てめーの処刑を開始するわけだが言い残す事ぁあるか!」
えぇ、えぇ、大ありですとも。!
この地下室には今私を囲むように体格の良いマフィア達が大集合しています。
親分衆が5人とその子分達が更に20人くらいでしょうか、見張りなども入れれば更に多いでしょう。
マフィアと言っても黒服などではなく、野盗風から騎士風に魔女や中国服までいます。
しかも今回は最強のパーティメンバーの妹が居ません。盗賊は死んじゃいました。
盗賊2号の友情パワーに掛けるしかないのでしょうか。
ですが相手の人数を考えると今回はなるだけ謝罪・弁明して許してもらいたいものです。
私はあくまで被害者であり誠心誠意お説明いたしましょう。
まずは目の前の親分衆、そして最後に部屋のすみにいる中国服の彼女に媚びを売りましょう。
最後は『親の七光り』の仲間意識に期待するしかありません。
私は大親分のプロフィールを確認致します。
☆☆☆☆☆☆☆☆
『王蘭』(22歳)
攻撃 :076(C)
知力 :091(A)
職種:大親分
LV29
【プロフィール(962~997)】
19歳の時、かつて暗黒街でも名の知れた父を殺害した当時の闇社会の大親分を血の掟に従い殺害しその組織を乗っ取る事に成功する。その後仲間と共に王都アンツの闇社会に君臨し組織の黄金期を築き上げる……(略)
☆☆☆☆☆☆☆☆
◆王蘭の視点◆
幹部の一人が私の耳元で伝える。
『(姉御、手下の一人が親殺しを殺った幼児をさらってきやしたぜ)』
報告をうけて地下に降りると部屋の中央には大男の腕ほどもない小さな子供が上半身を拘束された状態で椅子に座らされていた。
「(あれがか……予想以上に幼いな…)」
それが私の最初の印象であった。
その幼児は、街中によく居る成犬ほどの大きさもなく町の小娘でも軽く片腕で抱き上げられると思われた。
そんな小犬に等しい幼子に暗黒街でも1・2番を争う豪勇の男が嚙み殺されたのである。
それを思うと幼児に対し一瞬ヒヤリとした気味の悪さを感じる。
先日組織の幹部会で血の掟に従いルカ・バウアーと言う子供を殺害する事が決定したのだが正直、私にとっては親殺しの命なんて最初っからどうでもよかったのだ。
今回死んでなければ何時か私が理由をつけて殺していただろう。
無暗に強盗殺人を繰り返すなど奴の存在は組織にとっても危険でしかなかった。王国騎士団の注意を引いて軍隊を動かされればマフィアの一組織などひとたまりもないのだから。
そもそもマフィアとはあくまでも非合法な商いを専門とする商売人であって、人殺しを商売とする連中と争える存在ではないのである。
血の掟も組織の商売上の約束の一つなのだ。
そして、それが今回この餓鬼が死ぬ事になった理由でもある。
こいつを生かしておく事が組織の商いの邪魔になると幹部連中に判断されたのだ。
この餓鬼は、これから凄惨な拷問をうけて死ぬわけだが。
さてさて…泣くのか怒るのか。本人が自分の運命を理解してるかは分からないが…
若干、下衆な興味で観察していた私だが
しかし私の予想に反してこの餓鬼は笑っていた………。
そう笑っていたのだ!
強がるなり怯えるなり怒るなりと感情を出すなら分かるが
この幼児から出てきたのは感情を殺したような作られた笑みであった。
それは気もち悪いを通り越して不気味なのである………。
例えるなら暗がりで突然日本人形を見たような気持ち悪さである。
そして幼児は上半身を縛られたまま椅子から立ち上がると蝋燭の暗がりの中をヒタヒタと幹部達の方へ行き笑顔で媚びた。親殺し殺害への弁明と自分を生かすことでの商売上の利点をときはじめたのだ。
幼児は何故か幹部の詳細から組織の内情までよく知っていた。将来起こり得るトラブルから組織の裏切り者の存在までまるで見てきた様に語るのだ。最初は小馬鹿にしていた幹部達も次第顔を青くし最後は幼児に対する震えを隠せなくなっていた。
この辺りから私は、どこかこの幼児の事を人とは思えなくなってきていた。
悪魔の乗り移った人の形をした何かである。
幹部連中への一通り媚び説得を終えると幼児は私に向かって一直線に走ってくる。数多いる他の部下を全て無視してだ。
「王蘭様お初にお目に掛かります」
確かにお初である、私の顔も名前も表には出てないのだから。
長年付き従う護衛ですら私が組織のボスである事を知らない者が多いのにである。
世間では子供達相手に護身道場を営む王花老師として通っており王蘭は忌み名であった。
「親殺しは私が殺しました。ですが全て王蘭様の為になのです。」
正にその通りである親殺しは殺すべきであった。だがなぜこの幼児がそれを指摘できるのであろうか、確信しているが如き幼児の言葉には一変の迷いもなかったのである。この幼児は私の素性をどこまで把握できると言うのか?仮に悪魔であるなら全てであろうか?しかも親殺しを殺しえる力を秘めた恐るべき悪魔である。
正業がある我々が裏で顔を見せる時は絶対に相手を殺す時であり顔を知る者は仲間か死体の二択しかないのである。
それを知ると一瞬幼児は真顔になる。私の心は悲鳴を上げていた恐怖は限界に達し刀を握り幼児めがけて力の限り振りぬいていた!
そう思った瞬間……『親の七光り』幼児の微かな声が響き黒い影に襲われた錯覚を受けたのである。
私の刀は幼児ではなく奴を縛っていた縄を斬りさいていた。
今思えば、私はあの瞬間に幼児の恐怖に屈していたのではないのか?
その後、私はおぞましい事に、この幼児に親近感を感じていたのである。まるで親殺しへの罪を寛容に許した様に装い命を救う変わりに幼児を組織の一員に迎えたいと誘っていたのである。
あの時に何か不思議な力が私に働いた気がする…
それは私の恐怖が生み出した錯覚なのかもしれない。
だが今でも確信して言える事がある。
この幼児はまごうなき悪鬼であると。
それが盗賊2号こと新パーティメンバー王蘭の誕生の経緯であった。