ルカ・バウアーコード(エピローグ)
幾千もの季節が流れた・・・1999年の冬
ここは、1000年以上の歴史を持つ由緒あるイルディア女学院。
小雪が降り積もる中、レンガ作りの建物の一室に集う女生徒達がいた。
部屋の入口には『歴史・文化研究会』の立て札の上から『アンチ聖誕祭・決起集会』の垂れ幕が掛けられている。
十数人程の女生徒を前に教壇の立つ眼鏡の女学生は、机をバンと叩き熱く語りだす
「えー、本日は独り身の寂しい女生徒の皆さま!カップルが賑わうこの聖夜にワザワザお集まり頂き真に、ま・こ・と・に、ありがとうございます!」
「司会は、この歴史・文化研究会の部長《彼氏募集中》が務めさせて頂きます!」
客席からはパチパチと疎らな拍手がおこる
「私は聖誕祭なるこの悪しき風習に兼ねてより疑問を抱いており、この度の決起集会に至りました!」
「部長!生贄の山羊は必要でしょうか!」
「………断っておきますが。別に黒ミサをしようと言うのでは有りませんよ!そして私はカップル達が羨ましいわけではないのです!」
どう見ても、羨んでいる様にしか見えない部長だが、気を取り直して話を続ける
「第一です!第一!何故、我々が『ルカ・バウアー』なる千年も前の人物の聖誕祭などを祝わなければならないのか!それで何の御利役益があると言うのでしょうか!」
それに対しすぐさま一人の女生徒が手を上げ
「はーい、それはルカ・バウアーが世界を救った神の子だからじゃないでしょうか」
教壇の部長の眼鏡がキラリと光りクィっと上げると、
「論理的では無いですね。教団の言い分以外に何かルカ・バウアーを神の子とする根拠でも有るのですか?」
部長は、ルカ・バウアー教団の設立から説明をし始める。ルカ・バウアー教は、約1000年も昔に大陸に現れた英雄ルカ・バウアーを神と崇める教団であり、設立者は、ルカ・バウアーの妹ニーナ・バウアーとされているのであった。
当時は新興宗教に過ぎなかったこの教団が広く市民権を得るようになったのは、帝国と神聖王国とに起こった古代魔法戦争によって訪れた冬の時代に教団が主な食料の配給源になったからだと言われており。またその時代に帝位についた女帝が、ルカ・バウアー教の熱心な教徒だった事実も大く働いたとされていた。
そして教団の説明では、その後ルカ・バウアーは魔王と悪魔達そして熱心な信徒を連れ異世界に旅立ち世界は人の手に戻ったとされるのである。今ではルカ・バウアー教団は世界最大の宗教団体であり少なくとも、その資金力と軍事力では世界有数なのであった。
「我々の今回の目的は教団の語る、偶像としてのルカ・バウアーの化けの皮をはぎ、人間ルカ・バウアーを陽の元にさらし世の愚かさを示す事にあります!」
「おぉー」驚きの声がおきる、気分を良くした部長は、数年前にベストセラーになった本を取り出し教団の年表の疑問点を読み上げだす。何のことは無い、世紀末を迎え世間ではいま、1999年7の月の大予言や最終戦争など終末思想のオカルト本が大人気なのであった。部長はその流行に乗って会誌を売ろうと言う魂胆なのである。
「まずルカ・バウアーは、ある時は英雄、ある時は世紀の大悪党と余りにも多種多様な人物像が混ざりあっています。この事実は幾人もの逸話が合成されている可能性を示しています!しかも、この本の著者は生誕地の旧王都アンツの民謡まで調べあげていますが面白いのは、そこではルカ・バウアーは暗黒街の大親分として唄われてるのです。そして、あらゆる文献から逆算すると、有名なルカ・バウアーの魔女退治や国王殺害は、何と彼が5歳の時に行った事になるのです。」
女生徒達からはクスクスと笑い声が漏れる。部長は満足とばかりにパタンと本を閉じ。
「勿論、現在ではアンツ国王が病気で亡くなれれたと言う事実がほぼ確定してます」
と補足を加えるのを忘れない。
「では教団の歪んだ記録以外で何を元に人間ルカ・バウアーの真実を暴くのか、そのヒントは当時を描いた数多くの絵画に散りばめられた記号から読み解く事が出来ると思うのです。」
「私は、この計画を『ルカ・バウアーコード』と名づけました」
教室からは拍手と口笛がなる。部長は、プロジェクターに写真を入れると説明を始める。
「では、まず誰もが教科書や銅像で一度は見た事があると思いますルカ・バウアーの姿ですが。これはルカ・バウアー著とされる家族の肖像が元とされています」
そこに映し出された絵画には、勇者ポポスと妻ディアナそしてディアナに抱かれる赤ん坊のニーナにルカ・バウアーが描かれている。それはポポスが旅立った日の朝を描いたものあり、本人しか知り得ない光景の為にルカ・バウアー自身の作とされていたものであった。
「ですが、近年の鑑定でこの絵は、ルカ・バウアー誕生250年後に描かれたと言う事が判明しました。皆の知るルカ・バウアー像のモデルは更に遡らなければなりません。では、950年前に描かれたこちらの絵をご覧下さい。」
そこに映し出された絵画は当時の教団を描いたモノで、集合写真の様に並ぶ人達の中央には教団代表とされる老女ニーナ・バウアーや幹部のジェシカ・エデラーがおり、集団の端の方に居心地が悪そうにする幼児が描かれている。そして部長は、この幼児はニーナ・バウアーの夜叉孫と言う説がある事をつけくわえる。女生徒からは、
「ルカ・バウアー本人と言う可能性は無いのでしょうか!聖書では不老不死の存在なんですよね。」
「不老不死…若い女の子なら誰もが夢見る憧れの言葉ですが、この千年の間に不老不死の存在は確認されておりません。失われたオーバーテクノロジーと言う説も面白いですが、寧ろ千年以上前の真偽不確かな話にしか出てこないと言う所が重要です。最もルカ・バウアーが未だに不老を保持し続けてる可能性が無いわけではないですが……なーんてこと有るわけ無いのです」
そのルカ・バウアーが確認されていない以上不老不死は現存しないと考えるべきなのであった。そして最後に部長は、最新の学術誌を取り上げると。近年、発掘調査が進む神聖王国との国境に有る魔王城の遺跡の画像を映し出す。
「最近では技術の発達により長年不可能であった高度1万メートルの山頂に有る魔王城跡の発掘も進んでるのです、これが当時壁一面に描かれていたと思われる壁画の再現画像です。そしてこの約1000年前に描かれたルカ・バウアーの婚礼こそ最古の彼の肖像でも有ります。何か感じる所は有りませんか?」
そこにはルカ・バウアーと魔王との婚礼の様子が壁一面に生々しく描かれており、まるで当時の空気を肌で感じられるようであった。だが聖書に記され後世の芸術家が描いた宗教画とは大きく趣が異なっていたのである。一人の女生徒が思わず笑い出す。
「ぷっ。この絵は何だか面白いわね。伝説の大賢者であるカール様が、ちょっとやつれてて中間管理職のオジサンみたい。それにルカ・バウアーも随分、悪魔達と仲良さそうにしてるわね。何か悪魔とハイタッチしてるし」
部長は我が意を得たりと満面の笑みで頷く、壁画では人類代表のルカ・バウアーと悪魔達は打ち解け、人間側の出席者は英雄ルカ・バウアーを不信そうに見ている。黒衣の大賢者は胃を抑えながら説明に苦慮している様にも見える。
「そうなのよ!人類の救世主ルカ・バウアーが魔王を打ち倒し和解した直後にしては少し不自然なのよね。倒した悪魔と仲良すぎって言うか。それに、この後にルカ・バウアーは魔猿・聖天大帝を打倒し神聖王国の民を開放するけど、そもそも何故、人類側であった神聖王国と帝国が戦争となる必要があったのかが不明瞭なのよね……例えば実は救世主ルカ・バウアーの正体は魔将で併合されたのは人類だった……とかなら全てが説明がつくんだけどね」
部長の眼鏡が妖しく光る。
「更に現在のルカ・バウアー教団運営の胡散臭さです。この後の古代魔法により大国間の戦争は無くなっり融和の時代が訪れたにもかかわらず巨大な軍事力をそのまま維持しつづけているのです、彼等は1000年もの平和な間、いったい何と戦っているのでしょうか!毎年優秀な者達をスカウトしてまでですよ!」
部長の熱い答弁に最前列にいた女生徒は頭を傾けて答える。
「う~ん、教団の運営については陰謀論乙って感じかしら。警察と同じで平和にも抑止力が必要なのは理解できるし、余り根拠もなく既成団体をたたくのは危険だと思うの。下手したら名誉棄損で訴えられるわね。」
部長はビクリと固まり冷や汗を流すが女生徒は続ける、
「でも……聖者ルカ・バウアー人類の売国奴説は斬新で面白いわね!この壁画も説得力があるわ。ルカ・バウアー魔将説なんてセンセーショナルよ。」
「でしょ!絶対に売れると思うの!」
部長は、女生徒の手を取ると一緒に飛び跳ねて喜ぶ。
その時、教室の奥よりパチパチパチと小さな拍手が起こり、幼く可愛らしい声が響く。
「当たらずしも遠からずと言う所かの……」
何時から聞いていたのか、頭に角のアクセサリーをつけた褐色の幼女が教室の一番後ろの席で拍手を送っている。しばらくし一人の女生徒がプロジェクターの壁画と幼女を見比べ震える声で部長に伝える。
「ぶ、部長、壁画の魔王とこの少女、何だか似てないですか。と言うかそっくりですよ」
部長もビックリし顔を何度も見比べていると
後ろの扉がゆっくりと開き僧侶服にフードを深く被った男が入ってくる。
「あぁ、こんな所におられたのですか魔王様、スカウトの面接はあちらの部屋ですよ」
僧侶は女生徒達にお辞儀をすると名刺を机に置き顔を上げる、その顔は明らかに近年見かけられなくなったアンデットの物でありミイラそのもであった。
「申訳ありません。私、ルカ・バウアー教団の大司祭を務めております。死霊王と申します。この度は教団の関係者がご迷惑をおかしたようで」
そして死霊王はプロジェクタを見つつ溜息をつき、
「ですがお嬢様方、余り教団を詮索されるのはお勧めできませんね。残り少ない時間を学業に異性に青春を謳歌される事をお勧めいたしますよ。」
更に幼女も口を挟み
「そうじゃのう、私も最後の晩餐に寄っただけだしの。そこな女、良い機会じゃ本人に聞いてはどうか?」
幼女は悪戯っぽくウィンクする
その時、部長はスカートの裾を引っ張られる感覚から足元を除き体温が一機に下がる。
先ほどまで散々存在を否定していたはずの幼児が、まるで今絵画より出てきた様に足元に居たのである。
「教団の偶像をしてます。ルカ・バウアーでーす。皆さんのOGだと思ってもらえれば。」
幼児は、先輩っぽく胸を張ってみせる。女生徒達は伝説の神の子の登場に固まってしまっていたがどうにか勇気を振り絞って質問する
「あ、あのルカ・バウアー様の伝説は…、例えば5歳で魔女退治などは事実なのでしょうか?」
幼児は少し迷った後に肯定とばかりに頷き、戦士A・戦士B・盗賊を3人の勇者と持ち上げつつ身振り手振りで熱く語ります。部長は、本人の登場で次々と仮説を否定されていくなか驚きの余り顎をカクンと落としHPゼロ状態とばかりに虚空を眺め固まっている。漫画の世界なら髪の毛が真っ白になっていただろう。その時、後ろから幼女が話に加わるべくやってくる。
「よう、三頭龍!見よ懐かしいモノが映っておるだろ。私とお主の婚儀で。あっこら何をする」
話が長くなりそうな幼女を死霊王が抱え上げ時間が無いとばかりに走りだすと、幼児も頭を下げテケテケと後を追っていく。
暫くの沈黙の後、一人の女生徒が呟く、
「わ、私、神の子と話しちゃった。」
「神様って身近にいるもんなんだ…これって、恋人を作れって言う、お、お告げ?」
「でも……何だか残り時間とか言ってませんでしたか?」
その時、一人の女生徒はハッとして顔を青くして鞄から取り出したオカルト雑誌をパラパラと捲りあるページを開く。
「ここよ!このページよ!」
「今、巷で噂の終末論だけど。『1999年最後の月、神と悪魔の最終戦争』が起こるって!」
「で、でも神の子ルカ・バウアーが戦うべき悪魔なんて、この平和な世界のどこに居るのよ」
「そうよ、1000万の教徒と神の子ルカ・バウアーよ!実在するなら彼の敵なんて居ないわよ。しかも伝説では千の悪魔の軍団と万の神話の軍勢も率いてるって話なのよ。」
「ち、違うのよ。さっきの部長の話だけど……彼等が戦っている相手って……」
真っ白に燃え尽きていた部長だが、どうに気力を取り戻し、かすれた声で話す。
「え、えぇ。ル・ルカ・バウアーがもし神の子でないとすれば……」
かつて魔王と悪魔の軍団を従えた王で…聖書や終末思想に出てくる存在……って
ルカ・バウアーと教団の正体とは…まさか……あ…あ、えーーー!!
女生徒達の悲鳴がイルディア女学園にこだまする。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ここは、星々が輝く異次元。
幾つもの星、幾つもの世界が始まり、また消えゆくなか、
一人の女神の声が響き渡る、
「時空ホールを確認しました!場所は……り・六道界。全てです。全てで亀裂を確認!」
「衝撃波245秒で到達します。超時空が割れます!」
そして轟音が鳴り響くなか、渋い男の落ち着いた声が響く。
「この勢いだと、此度はココまで来るか。」
女神は肯定とばかりに頷く、
「はい、おそらくは。嘗てない規模で、空前絶後の軍勢があの幼児に率いられて襲来するかと」
男の愉快そうな笑い声が世界に響く。
それは、どこまで楽しそうであった。
『では、始めようか最終戦争だ!』
男の、そう神の声が響きわたる。
トイレの落書きみたいなモノにお付き合い頂きありがとうございました。
文章も少しはうまくなったと思いますし色々勉強になりました。ですです。
ちょっとした、幼児の後日談を追加致しました。下記になります。
http://ncode.syosetu.com/n0974dr/




