それぞれの戦争 もう1人の〇〇〇候補編
木下光太郎の戦争
「コー君早くゴールして戻ってきて~」
「コー君」とはオレ、木下光太郎のニックネームであるん。身長170センチの中肉中背で特に特徴がなかったオレは思い切って髪を茶色のツンツンに、言葉の語尾に「ん」を付けることで女子の人気者になることが出来たん。高校デビュー成功であるん。
そんなオレは赤組として体育祭に参加していて、まさに今競技に出場しているんだよん。
校庭には1週400メートルのトラックが白線で引かれており、9本引くことで8本のレーンが作られているん。そのうちの1番内側がオレのレーンだよん。
競技は徒競走。トラック半周の200メートルを走るだけの単純な競技で、赤組と金組から各4人が選出されるん。もちろん体育祭なので着順でポイントが違うん。1位が8ポイント。そこから順位が1つ下がるごとにポイントも1下がっていくん。つまり最下位は1ポイントしか手に入れられないんだよん。
もうすぐオレの番となるんだが、現在とある悩みを抱えているん。それは
(心の声まで「ん」つける必要ないんじゃないかなん?)
誰かが聞いているわけじゃないんだしん。自分でも疲れるしん。
というわけで心の声限定で「ん」を解除します。
そんなこんなであっという間にオレの番になる。一緒に走る相手は男子3人女子4人だ。各組の男女比の問題から赤組(男子)対金組(女子)の形となる。
「位置について」
審判である先生の合図で選手がスタートの姿勢をとる。オレは1番内側のレーンなのでスタート位置が1番後ろとなる。
「よーい」
もうすぐレースの火ぶたが切られる。だが集中できていなかった。なぜなら
(透けてるよ、背中のあれが。白黒緑赤っ)
何が透けているとは言うまい。だが体育祭に参加する生徒の服装は上は白の体操着、下は黒の短パンである。長袖ジャージは競技に出るときは脱がなくてはならない。つまり無防備だ。それになぜだか今日は目の調子が良い。なんでも見えてしまいそうだ。
パーン
そんな思想に耽っている最中、スタートの合図が放たれた。そのせいでほんの少しスタートが遅れた。慌てて走り出す。今はいち早くゴールすることにだけに集中しなければ。
「コー君早く~」
また、オレに対する声援が聞こえてきた。同じクラスであり赤組の女子だ。女子から声を掛けられるなんて中学生の時では考えられない。まさに高校デビュー成功である。声援がオレに力を与え、走る速度が上がる。
(さようなら、白黒緑赤…)
色とりどりの何かに別れを告げトラックを一気に駆け抜ける。そして
「コー君、1着おめでとう。速かったねー」
見事に1着になった。その足で女子たちの元へと戻っていた。
「いやー、君たちの応援のおかげだよん」
平然と女子と話すオレ。だが内心ドキドキである。
「はい、それじゃジュース…」
貰えるのかな。確かに喉が渇いているのでちょうどいい。
「買ってきて。私は炭酸。みんなは~?」
そんなこんなで自販機に走り出す。女子にモテるってつらい。
その光景を目撃していた女神が1人。
「アイツ、いずれ私のパシリとしてみてもいいかもしれない」