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わらしべ長者編 神々の過去 後編 〇の〇い〇〇み

美月とピンクデラマンデラの主神モンローがそれぞれの記憶の中にある学生時代を披露する。果たしてどちらの記憶が正しいのか。どうして男だったモンロー君が今のようなモンローになったのか。そしてピンクデラマンデラの相方、カンサイ弁男の名前も明らかになる...

「では、第3章に入る。心して見ろよー」


 (緑化していたサンネラ・イラサの葉も次第に赤く染まってきた秋頃)

 サンネラ・イラサだ。待ってました!

 

 「ほら、モンロー君、ちゃんとそっち持ってよ」

 「おぉ悪い」

 (私とモンロー君は現在、物置部屋にあった長机を教室に移動させているところだった。なぜそんなものを移動させているのかと言うと)


 「文化祭とかかったるいぜぇ...なぁ美月ぃ、こんな行事バックレて俺と遊びに行かねぇか?」

 「駄目だよ、皆が頑張っているのにサボっちゃ!それに貴方がきちんと更生するまで私、貴方と遊ぶつもりはありませんから」

 (そう、私たちは現在学校行事である文化祭の準備中であった。この長机は私たちのクラスの出し物、執事喫茶に使う食卓である)


 「つーか、何で俺が執事なんかやらなきゃいけねーんだよ、俺は」

 「10パーセントしかいない上神、でしょ。いい加減その口癖やめなよ。感じ悪いよ?」

 (少し前のモンロー君だったらこんなことを言えば機嫌を損ね周囲に当たり散らしていただろう。しかし今は)


 「あぁそうだな。でも治んねーんだよなこれ。昔からしつこく親に言い聞かされて育ってきたからなぁ。お前は上位10パーセントの神、上神の一族、モンロー家の跡取りだって」

 (初めてモンロー君が家のことを話してくれた。このことに私は嬉しくなった)


 (そして文化祭当日)


 「お帰りなさいませ旦那様、お嬢様。席にご案内いたします」

 (モンロー君は燕尾服えんびふくに着替え、他校から遊びに来ていた学生を見事に接客していた。そんな私はと言うと)


 「ねー君可愛いねぇ、名前は?連絡先教えてよ」

 「すみません困ります。仕事中ですので」

 (私も燕尾服に着替え、執事になりきっていた、のだが女性であることを隠し切れずに男の子にナンパされていた)


 「こんなお遊び抜け出して今から遊びに行こうよ」

 「嫌っ」

 (その男の子は私の腕を掴み無理やり連れだそうとする)

 

 「そんなこと言わないでさぁ。俺、こう見えても上神の家の長男なんだよぉ~、上位10パーセントの。言いたいこと分かる?俺様の言うことは絶対、て事さ」

 (目を細め、片方の口端を吊り上げる男の子。周囲の神々はそれを止めようとしない。相手が上神だとわかって止められないのだ。ただ1人を除いては)


 「なぁいいだろー…イッてぇな。誰だお前?」

 「旦那様、当喫茶は引き抜き厳禁でございます。それ以上続けるならばご退店願うことになってしまいますのでどうかお止め頂きたい」

 (モンロー君が私を掴む男の子の手を掴み、止めてくれる)


 「あぁ、お前聞いていなかったのか?俺は上位10パーセントの上神の家の長男だぞ。お前の家なんかすぐに潰せる。それでもこの手を離さない気か?」

 (男の子が言い慣れた口調で言ってくる。それに対しモンロー君は)


 「そうでしたか、旦那様は上神様でしたか。それは失礼いたしました」

 (そう言い、男の子の手を放してしまう)

「はっ、情けねぇな。ビビッてやがるのか。まぁしょうがねぇよな。なんせ俺は上神だ。さぁ邪魔もなくなったし遊びに行こうか」


 (再び私の手を掴もうと手を伸ばしたその時)


 「ワリィな、俺、お前なんか知らねぇや。本当に上神か?名前は?」

 「はぁ何言ってやがっぐぁっ」

 ガッシャーン


 (モンロー君が右手を振りかぶり自称上神の男の子の頬を殴り飛ばしてしまう。男の子は吹き飛び、無人のテーブル席へと突っ込んでしまう)


 「てめぇ、俺に手を出してタダで済むと思うなよ。すぐにお父様に言いつけてやる」

 「だから名前は?あぁ、名前を聞くときはまず自分からってか?俺はモンロー。神の中でも10パーセントしかいない上神の一族、モンロー家の跡取りだ」

 (その名を聞き、男の子の顔はみるみる青ざめていく)


 「ウソだ、ハッタリに決まっている。モンロー家と言えば上神のなかでもトップクラスの家柄だぞ。そんな神がこんな執事の真似事などするものか!」

 (先ほどの余裕の態度が一変、声を大にして取り乱す男の子)


 「ほら、これで信じるか?」

 (そう言いながらモンロー君は自分の左胸のバッジを見せつける。そこには)


 「なんだそれ?名札か…モンロー?嘘だろ」

 (書かれていた名前を見て絶句する。どうやらモンロー家の名前は余程の影響力を持っているらしい)


 「で?どうする上神さんよぉ。このままそいつを連れていくっていうなら俺もついていくぜ。どこまでも。そうなったらお前の家もわかっちまうがなぁ」

 「ちっ、連れてかねーよ。もう2度と来るもんか」

 (捨て台詞を言い、その場を後にする男の子)


 「ありがとうモンロー君、助かっちゃった」

 「いいよ、つーか、他神が言っているの見て初めて実感したわ。実家の自慢程寒くて恥ずかしい事はないってな...なんだ?」


 パチパチパチパチ…

 

 (周囲の静観いていた神々からモンロー君を称賛する拍手が起こった。周囲から拍手をもらい、どう反応していいのかわからないという顔のモンロー君)


 「ふふ、貴方はもう昔のモンロー君じゃない。こうやって他神と繋がりを持てるようになったのよ」

 「何だよそれ?俺はそんなに変わってねーぞ」

 (そうは言うが彼自身が一番分かっているはずだ。必死ににやけてしまいそうになる顔を押さえている。今の彼となら遊びに行ってもいいかな...続く)


 「いやーいい話だったなぁ。私だったらモンロー君に惚れていたね...ゴホン。何か質問があるヤツ」

 必死に取り繕うが俺には聞こえていた。私だったらモンローに惚れていたね、と。つまりこれは美月が体験した話ではない。この物語はフィクションです。実際の地名、登場人物とは一切関係ありませんと。


 「ないな。では次はかっこいいモンロー君の番だ」

 そう紹介されたモンロー君は土下座中で、顔だけ上げて映像を見ていた。本当、あのかっこいいモンロー君はどこに行ったのやら…


 「はい、やらせていただきます、美月様」

 マジで捜索願を出そうかな…涙が出てきた…


 (緑化していたサンネラ・イラサの葉も次第に赤く染まってきた秋頃)

 そのまま引用、待ってました。


 「おいモンロー。パン買って来い」

 「はい、美月さん」

 すでにパシリとして仕上がっていた…


 「以上、第3章もとい最終章終わりです。何か質問は?」

 そして物語も終わった。


 「おいそれだけかぁ、モンロー君?それじゃぁ信憑性もなにもあったものじゃない。判断しようがないじゃないかぁ」

 嬉しそうに言う美月。だが俺からしたらあの数秒で確信した。モンローは嘘をついていないと。


 「では最終章行くぞ。これで終わりだから心して見るように」

 この話が4話構成だなんて初耳だ。モンローの方なんてもう完結しちゃっていたぞ。どうするんだ?


 「周囲が寒くなり、本格的に冬がやってきた頃」

 アレ…サンネラ・イラサは?お約束のサンネラ・イラサがまだ出ていないんですけれど。ウソでしょ!最後の最後で出さないなんてっ!サンネラ・イラサ―!!


 「何でこんな寒い日に遊ぶんだよ?」

 「いいでしょう。こうやって遊んであげているだけありがたいと思ってよね」

 (私たちは学校終わりの放課後、2人で近所のゲームセンターへと来ていた)

 

 「あっ、あれ。あのぬいぐるみが欲しいなー」

 「はぁ、アレのことか?趣味悪いなぁ」

 (私たちはゲームセンター内にある1つのクレーンゲームの前へと足を運ぶ)

 「えーそんなことないじゃない。可愛いでしょ。特にこの部分が」

 (そう言って私はぬいぐるみの耳の部分をガラス越しに指さす)

 

 「そう言われても良さが全く分からん!」

 「えー…」

 (だがモンロー君には分かってもらえないようだ。やっぱり女の子と男の子じゃ考え方が違うのかな)


 水を差すようで悪いんだけれど、何でこのぬいぐるみモザイクがかかっているの?どんなぬいぐるみなのか分からないんだけれど。


 「あー分かった取ってやるから落ち込むな」

 「えっ?」

 (私の沈黙をどう受け取ったのかわからないが、ぬいぐるみを取ってもらえることとなった)


 (30分後)

 「もうやめようよー。お金なくなっちゃうよー」

 「いいや、やめねぇぞ。ここまで来たら絶対に取ってやる」

 (すでに7000円は使っただろうか。それでも目当てのぬいぐるみは手に入ってなかった)


 「クソ、これが最後だ...いくぞ!」

 (気合の掛け声とともにお金を投入するモンロー君。私はただ見守ることしか出来ない。クレーンのボタンを押すモンロー君の指が震える。だがそれに関係なく、クレーンは左横に進む)


 「ふぅ」

 (横移動のボタンを押し終え、一時的に体が自由になる。その間に額の汗をぬぐう。泣いても笑ってもこれが最後のチャンス。後は上に移動するボタンを押すだけだ)


 「よしっ」

 (呼吸を整え、上に移動するボタンを押す。狙いはぬいぐるみの頭部分。頭を持ち上げてそのままひっくり返して落とす作戦だ。もうこれで何十回も失敗しているがやるしかない。そのとき)


 「よぉモンロー家の跡取り君」

 (突如背後から声を掛けられ、驚いてしまいボタンから指が外れる。クレーンは無情にもぬいぐるみの脚付近で止まってしまい、降下を始めてしまう。そして降下が止まり両足を挟み、持ち上げる。だが無情にもクレーンから両足が外れてしまう)


 「あー、最後のチャンスが...」

 (口に出して残念がるモンロー君。だが、そこで終わりではなかった。足から落下したぬいぐるみはその反動で数回上下に揺れ、床を移動していく。そして)


 チャーチャラチャララララー


 (景品ゲットを知らせる電子音と共にぬいぐるみが景品取出口へと落下してくる)

 

 「やった...取ったぞ!ほらやるよ、弁当のお礼だ」

 「ありがとう。大切にするね!」

 (照れくさそうにぬいぐるみをくれるモンロー君。何だか私も恥ずかしくなってきちゃった。だから忘れていたのだ。背後から声を掛けられていたことに)


 「無視してんじゃ...ねーぞコラァ!!」

 

 グチャグチャ


 「う…ぐあぁあぁぁ!?」

 「モンロー君!?」

 (突如後ろに立っていた神物しんぶつが、モンロー君の股間目掛けて蹴り上げてきたのだ。その足はモンロー君の急所を捉え破壊してしまう)


 「ははぁざまぁみろ。お前が悪いんだぞ。あの時、お前が下手な正義感振りかざさなきゃこんな怪我しなくて済んだのによぉ」

 「貴方はあの時の…!」

 (目の前にいたのは文化祭の日、私たちのクラスの出し物、執事喫茶に来店したお客で、私を無理やり遊びに連れ出そうとした男の子だった)


 「うぅぅ...」

 「モンロー君、大丈夫?」

 (今までモンロー君がここまでもだえ苦しむ姿を見たことがなかった。そんなに痛いのだろうか。女の私には分からなかった)


 「大丈夫だ。このクソ野郎ぉぉ…てめぇのも潰してやらぁぁぁ!」

 (声を荒げ、足を男の子の股間目掛けて振り上げようとするモンロー君。だが男の子にそれを避けようとする意思はない)


 「来いよ、どうせ俺はモンロー家の跡取りに手を出した罪で家を取り潰される。もう何も怖くない…あはぁっははははっは!」

 (顔を引きつらせながらも大笑いをする男の子。それを見て更に足に力を込める。そして)


 グチャグチャ


 (モンロー君の時と同じような音を奏でる男の子。それを最後に2人は倒れ込み、気絶をしてしまった)


 「いや…いやぁぁぁぁ!!」

 (私にはただ悲鳴を上げることしか出来なかった)


 数日後の昼休み

「お疲れー美月ちゃん」

 お疲れ…」

 (1人のクラスメイトが私に挨拶をしてくる)

 

 「知ってる?隣のクラスに超かっこいい男の子がいるのよ。このあと見に行かない?」

 「いいよ…」

 「どうしたのぉ美月ちゃん?元気ないわね」

 「そんなことないよ...」

 「そう、それじゃお昼にしましょう。お弁当は…」

 (私はそのひと言に意識を覚醒させ、カバンからお弁当を2つ取り出そうとした、のだが)


 「あった。じゃーん。ワタシもこれを機にお弁当を作ってみましたぁ。どう?上手にできているでしょう?」

 (そう言う彼女の手にはとても初めてとは思えないくらい上手にできたお弁当があった)


 「あれ?美月ちゃんお弁当は?もしかして忘れちゃったの?」

 (一向にお弁当を出さない私を見て心配そうに見てくる彼女)


 「うん...忘れちゃった。2つとも」

 「2つ?美月ちゃん2つも食べるの!?太るよぉ?」

 (目の前の彼女は他神たしんの気も知らないで辛辣な言葉を向けてくる。その言葉で私は何もかも吹っ切れた。もういいや…)


 「でも、お弁当忘れちゃったなら購買にお昼買いに行かなくちゃね」

 (どうやら彼女にお弁当を分けてくれる意思はないらしい。だがそれでいい)

 

 「そうだね...でも買いに行くのは私じゃない…お前だ…!モンロー!!お前は今日から私のパシリだ!!拒否権はない!!分かったら早く買いに行けっ!!!」

 (私の鬼のような形相に恐れを為したのだろう。私の涙と涙声には気付かず、すぐさま立ち上がり、購買に食べ物を買いに行くモンロー。今の彼女に残ったのはリーゼントと色付きメガネのみ。服装は女子生徒用のワイシャツとスカートを着用している。玉をなくし、精神が女性化してしまったのだと医者は言う。その際、男性だった頃の記憶の大半は改ざんされ、女性として生きてきたという虚無の記憶が芽生えてしまったのだとか)


 「あんなに男らしかったモンロー君が...」

 「でも仕方がないよ。両方を潰されたんじゃもう...」


 (クラス中からかつての男らしかったモンロー君を惜しむ声が上がる。周囲を恐怖で支配していた彼は次第に変わり、優しくすることで周囲と繋がりを持つようになっていた。それなのに)


 (男らしくて優しかった彼はもうどこにもいない…完)


 「と言うわけでモンロー君は2つの玉をなくし、現在のモンローになってしまったのです」

 両目に涙を浮かべ、嗚咽交じりに話す美月。


 「うわあああん...辛い思いをしたのねぇアナタ。美月ちゃんって言ったかしら。アナタのこと誤解していたわ。ごめんなさぁい!」

 号泣をしながら土下座に入るピンクデラマンデラ。ウソ?今のを信じたの?


 「そう、ワタシは男だったのね…それなのに潰されたせいでこんな姿に...」

 モンローは土下座のまま号泣しだしてしまった。いやいや、おかしいから。アンタさっき怒り狂った際に男の部分が出ていたから。自分の記憶でも男だったじゃん?普通にいるよモンロー君は。


 「さぁこれでどちらが本当のことを言っているのかわかっただろう?」

 「えぇ、アタシはあなたを信じるわ美月ちゃん」

 「ワタシも。ワタシの中で壊れてしまったモンロー君を治して見せるわ。絶対に!」

 もういいよ。勝手にやってて。俺はもう寝るんで。

 

 再びマンション建設予定地

 「それでピンクデラマンデラ、結局どうする気なんだ?」

 長い物語を見ていたせいで忘れかけていたが、そもそもこれはピンクデラマンデラがカンサイ弁男とお笑いのコンビをやめて女優になると言い出したことから始まった騒ぎだ。


 「アタシは…コイツとお笑いの道を行くことにするわ」

 驚くことにお笑いを続けると言い出した。一体なんの心境の変化か?


 「さっきの映像を見て、信じていた人が急にいなくなる悲しみを知ったの。コイツもきっと今同じ気持ちなのよ。でもアタシがどこにも行かなければ誰も悲しまない。まぁアタシもお笑いは嫌いじゃないし、これはこれで満足しているわ。…さぁいつまで寝ている気?早く起きないとオーディションに間に合わないでしょ!」

 カンサイ弁男の元に駆け寄り、頭に強力なツッコミを入れる。その衝撃で意識が戻る。


 「はっ、ナイスバルク。じゃないわ、何度言ったら分かるんや。ピンクデラマンデラ、お前はボケや、ええなぁ」

 「はいはい、それじゃ早くオーディションに行きましょう。もちろんお笑いのね」

 「ホンマか!アリガトな。お前がいなくなったらどうしようかと思っとったんや…にーちゃんもアリガトな!オーディションが終わったら例の物を渡すから一緒に来てやぁ」

 そう言い、ピンクデラマンデラに担がれて建設予定地を後にする。やれやれ、もう帰りたいのにまだこの2人と行動しなければならないのか…


 そんな大小3つの背中を見送る2つの人影が。


 「全く、この私をここまで動かしたんだ。従者の犯した罪は主神が償えよ、モンローとやら?」

 美月が背中を見送りながら横にいるモンローに話しかける。


 「ごめんなさぁい美月ちゃん。これからはワタシ、貴方の眷属になるわ。それでどう?」

 すっかりオネエ口調に戻ったモンローが美月に提案を持ちかける。


 「ふん、元からお前は私のパシリだ。まぁいいだろう。用があるときは呼ぶからな」

 そう言い残し、その場を去ろうとする。その時


 「そう言えば、あの時取った猫のぬいぐるみ、まだ大切に持ってくれてるのか?美月」

 「お前...記憶が戻っているのか?モンロー君!」

 神々の周囲に人間はもういない。よって偽名を使う必要もないのだが、映像に引っ張られているのか偽名を使い続けてしまう。


 「さぁてね。ワタシももういくわ。マンデラが心配だしね。またね美月ちゃん」

 またもやオネエ口調に戻ったモンローが別れを告げその場を後にする。それを見送る美月の顔には微かな笑みが浮かんだような気がした。


何とかテレビ局にたどり着き、オーディションを受け、俺の元に戻ってきたカンサイ弁男とピンクデラマンデラのコンビ


「ほな、テレビにでたらよろしゅーな。コンビ名はカンサイジンや」

 カンサイジンって。それでカンサイジンにウケるのか。と言うかテレビに出れたとしても恐らく地方の番組だろうな。ここ、地方のテレビ局だし。全国番組に出たかったらトーキョーに行け。


 「そうだ、コレ、渡すの忘れとったわ。アリガトな、にーちゃん」

 そう言いながらカンサイ弁は包装紙に包まれた段ボール箱を1つ渡してくる。


 「それとこれもお土産や、いくでぇ。歯が抜けてもうたー!」

 

 シーン


 俺は黙って踵を返し、自宅へと帰っていった。


 「ところで何と交換したんですの?」

 日和が興味深そうに渡されたものを見てくる。俺も確認せずに交換してしまったわけだがカンサイでは5万の価値があるものらしい。否応なしに期待が高まる。


 「何だこれ」

 包装紙を丁寧にはがすと段ボール箱が見え、表面にはカンサイジンと書かれていた。箱を開けるとそこにはカンサイジンTシャツ。カンサイジンハンカチ。カンサイジンカップ。その他もろもろのカンサイジングッズが詰められていた。そしてそれらにはコンビ名と芸名がプリントされていた。片方は相方に地味だと言われていた全身ピンクの変態、ピンクデラマンデラ。その横に肩を並べて書かれていた芸名は


 「タカハシタカシ」

 あーそういうことか。歯が抜けてもうた―でタカシタカシ。どうでもいい。もうええわ。


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