わらしべ長者編 特殊能力 目の前に〇〇が
再び美月のパシリとなりピンクデラマンデラを圧倒する赤矢。しかしピンクデラマンデラは奥の手である特殊能力を使う。
「へーんたい」
突如自己紹介を始めるピンクデラマンデラ。しかし変化はすぐに訪れた。ピンクデラマンデラの体は光に包まれ、姿が見えなくなる。そして光が収まった時、そこから現れたのは...
「さぁボウヤ、アタシの授かった力をっぐほっ」
突如言葉を乱すピンクデラマンデラ。それもそのはず、彼女?の腹部には俺の握りこぶしがめり込んでいたからだ。
「いったい何ごと!?」
俺とピンクデラマンデラの異変に気付き、声を荒げるモンロー。だが気にしない。さらに拳を畳みかける。。
「ボウヤ、さっきとはまるで別人みたいだわっ。いったいどうしたのかし…らぁ!!」
俺の拳の隙を突き、真上から拳を振り下ろしてくる。だが
「何で…何で倒れないのぉぉぉぉ?」
ピンクデラマンデラ渾身の拳を避けるのではなく受け止める。それも腕ではなく頭で。多少は痛かったがまぁ我慢できないほどではない...決してやせ我慢ではない。
「悪いな。さっきまでは俺の言うなれば副神の力だ。だが今は違う。これは俺の主神の力だ。とっても怖くて美しい女神のなぁ!」
頭部、腹部、両腕に拳を叩き込み、両足に蹴りをお見舞いする。もちろん俺は武道の心得はなく、誰が見ても素人の動きだ。だがその素人の動きでさえ、神の力が加わってしまえば恐ろしい威力を発揮する。
(しかし、相手の主神は神界で10パーセントしかいない上神であるモンローだ。なのに美月の力を得た俺はその従者を寄せ付けることのない速度と強さで圧倒している。だとすると美月の身分はどこらへんなのだろう?戦闘に余裕が出てきたからだろうか。頭の隅で物事を考え始めてしまっていた。その時
「やるわねぇボウヤ。アタシも本気を出すわぁ。行くわよ!」
俺と距離を取るためバックステップで後ろに下がる。本気を出させる前にとどめを刺すため距離を詰めようと前へ出る。
「へーんたい」
突如両腕を上に上げ、自分の特徴を言い出すピンクデラマンデラ。大丈夫です。言われなくてもあなたが変態なのは見てわかります。だが変化はすぐに訪れた。
「何だっ眩しい!」
両腕を上げた格好のままのピンクデラマンデラ。だが突如体が光に包まれ、姿が見えなくなる。暫くして光が徐々に収まっていき、その中から人影が見えてくる。そこには特大のアフロヘア―で首にピンク色のシャンプーハットを付け、ピンクの半袖、ピンクのスカートを穿いた男性の姿はなく、代わりにその場所に立っていたのは…
(松岡?)
身長143センチと小柄な体格、学校指定のブラウスにスカート、ハイソックスにローファーを穿き、長めの前髪をヘアピンで8:2に分けた少女、松岡水乃が立っていた。
「どう?ボウヤの目には何が映っているかしら。男性?女性?年上かしら年下かしら。日本人外国人?それはボウヤにしかわからないわ。なぜならボウヤの目に映っている人物こそがボウヤの思い描く美なのだから」
俺が思い描く美?その象徴が松岡だとでも言うのか。
「どうしたパシリ?目の前の変態とやらに何があった」
状況を聞いてくる美月。どうやら美月の目にはピンクデラマンデラはそのままの姿で映っているようだ。
「さぁ行くわよ」
ピンクデラマンデラが松岡の声と姿でこちらに駆け出してくる。だが、美月の力の加護を得た今の俺にとってこちらに向かってくる松岡の姿は止まっているように見える。それほど力の差があるのだが。
「ぐぅぅっ」
ピンクデラマンデラの放った右フックをガードしようとするが一歩遅れ、もろに食らってしまう。だが力の差でダメージは通らないはず、だったのだが
(痛ってぇ)
左頬には小さな拳がめり込んでいて、俺の体は右に数歩よろけてしまった。どうやら特殊能力の使用は使用者の身体能力を更に強化するらしい。その隙を逃すまいと更に左フック、アッパー、ストレート、更に蹴り技を連発してくる。一発一発に重みはないがこう連続して食らうときつくなってくる。
「どうして反撃しない!?」
様子を見ていた美月が苛立ったように言ってきた。だが俺には出来ない。松岡を殴ることなど。
「くそっ、そんな見た目になるなんて卑怯だぞ」
こうなったら自棄だ。目を瞑り視覚を制限し、立ち止まる。松岡の姿が映る前に一気に決着をつける。もし松岡の姿のピンクデラマンデラを殴ってしまうのを見てしまったら後悔と自責の念で押しつぶされてしまう。足音でピンクデラマンデラとの距離を測り、肌で風を感じる。拳が俺の鼻目掛けて飛んでくるのを感じる。首を神速で右に曲げることでそれをかわす。少し首を痛めたがしょうがない。目の前にいるのはピンクデラマンデラ、松岡ではない!自分に言い聞かせ、握りこぶしを前に突き出す。
「やめて!」
だがピンクデラマンデラは松岡の声で悲鳴を上げる。それを聞いてしまった俺の拳が止まる。それを確認したピンクデラマンデラが腹部にカウンターを食らわしてくる。
「優しいのねボウヤ」
声は松岡、話し方はピンクデラマンデラのままで、そのちぐはぐな感じが余計に松岡の声を強調する。こうなったら耳も何らかの手で聞こえなくするしかないのか?
「おい、先ほどからどうした?あの変態に惚れでもしたのか」
本当に嫌悪した声色で聞いてくる美月。そんなわけないじゃないですか。俺はいたって普通の男子高校生ですよ。
「違います。奴の主神の能力です。俺の目にはピンクデラマンデラがまっ…俺が美しいと思う人物の声と姿に変換して見えるんです。そのせいで攻撃が出来ない」
美月に早口で状況を説明する。
「パシリ、お前そんなにフェミニストだったのか。日和が無関係の男子生徒を操ってお前を攻撃してきた際には躊躇することなく切り刻んでいたというのに。てっきり自分の邪魔をする奴は誰であろうとも排除する鬼畜野郎だと思っていたのだが。とんだ見込み違いだったな」
がっかりした声色の美月。この人は俺を何だと思っているのだ。男ならともかく、女性を攻撃するなんてとんでもない。そんなこと神様が許しても俺が許せない。
「そろそろ終わりにしようかしら。アタシももうそろそろ事務所の面接の時間だし。ふふっ、この力を使えば誰の目にもその人が美しいと思う見た目になれる。その姿で活躍して、アタシの実力を世間に思い知らせたのち、アタシの本当の姿をテレビに公表する。みんなアタシの虜になるわ」
恐ろしいテロ計画を口走るピンクデラマンデラ。そんなことをすれば視聴者は目の前に突如現れた変態に絶句するだろう。ただそれだけだ。特に何でもなかった。どうぞご自由に。
「ふん、仕方がない。ならば私も敵の神と同じように特殊能力を与えてやるか。受け取れパシリ」
ボソッとつぶやくようにひとり言を言う。やはり美月は下神などではなかった。突如俺の体を黄金の光が包み込み、徐々に収縮していく。
「何事?ボウヤに何が起こっているの?」
いきなり輝きだした俺を見て、驚きを隠せないピンクデラマンデラ。
「やっぱり、相手の主神も上神よ。早く蹴りを付けるのよマンデラ。特殊能力を使われる前に」
今までにはなかった焦りの色を見せるモンロー。それに従い勝負を決めに来るピンクデラマンデラ。
「力の正体と使い方は分かったな。先ほどお前は錬金術などという人間の英知に挑戦していたようだが私が与えた力はそんな程度の低いものではない」
能力を使うため、俺は右手で両目を隠すようにする。別にそれが能力発動に必要な動作ではない。
「さぁ使え、神の力。創造を」
「これで終わりよボウヤ!」
目を隠し、動けない俺に対しとどめを刺そうと力を込め拳を振り下ろしてくる。だが俺はそれを左手で防ぎ、右腕を引く。
「イヤッやめて」
それを察してピンクデラマンデラが松岡の声で悲鳴を上げる。だがしかし
「悪いな。もうそれは通用しない。今の俺にはアンタがピンクデラマンデラに見えているからな」
俺はもう両目を開けている。そして相手を直視しながら言い放つ。その両目には
「えっメガネ?メガネを掛けたからいったいどうしたというの?」
状況を理解できないピンクデラマンデラ。確かに見た感じはただのメガネだ。だがこれは決して視力を矯正するために掛けているのではない。
「ふん、せっかく創造の力を与えたというのにそんな地味な物を造りやがって。もっと派手な、そうだな…地球を爆発させる爆弾とかあっただろうに」
とんでもないことを口走る美月。目の前の人間ひとりを倒すために地球を爆発させるなんてとんでもない。これだから神様は…ジェネレーションギャップである。
「これはただのメガネじゃぁない。真実を映し出すメガネだ。言っただろう。今の俺にはアンタはピンクデラマンデラに見えているって」
引いた拳を一気にピンクデラマンデラの腹部に突きだす。それで十分だった。ピンクデラマンデラの脚は地面を離れ、宙を飛ぶ。そしてそのまま後方にいたモンローに直撃する。
「が...あ」
ピンクデラマンデラは俺の渾身のストレートを腹部に食らったため気絶をしてしまった。コンビ揃って気絶とはずいぶん仲がいいコンビだな。
「やってくれたなボウズ。マンデラの夢を邪魔した報い、受けてもらうぞ」
ピンクデラマンデラを受け止めたモンローが先ほどとは打って変わって男口調になる。
まずい。どうやら神様を本気で怒らせてしまったようだ。ゆっくりとした足取りだが威圧感を放ちながらこちらへと向かってくる。これから行われるのは神に逆らった人間に対する神罰。いくら神の力を授かったと言えどもこちらはただの人間。本物の神様にあらがうすべなど持っていない。どうしようもなくただ後ずさることしか出来ない。
「おい、そこの上神、私のパシリに手を出してみろ。ただじゃすまないぞ」
俺を守るためか、モンローに対し牽制してくれる美月。だが
「ふん、なら声だけでなく姿を現せ。そして戦争だ。代理戦争などではない。神と神の神争だ。貴様が来なければこの男を殺す」
恐らく本気である。モンローが放つ殺気によって地面が揺れだし、空に暗雲が立ち込める。それに対し美月は
「いいのか。私が出て行って後悔するのはお前だぞ」
あくまで余裕の態度を崩さない。それだけ自信があるのだろうか。
「貴様、私を誰だと思っている。89パーセントいる下神の上に位置する10パーセントしかいない上神。その中でも更に上に位置する神だぞ。どこの誰だか知らんが虚栄を張るのはよせ。今素直に出てくればこの男を殺すだけで許してやろう」
どちらにしても俺は死ぬのか!ならば最後の悪あがき、新しく授かった力、創造を使い、本当に地球を爆発させる爆弾でも作ろうか…
「ふん、いいだろう。出て行ってやる。私に指図をし、動かしたのだ。その罪は重い。泣いて謝っても許さないからな。
その声が聞こえた直後、俺の隣にぼんやりと1つの人影が現れる。他の神からは金色の女神と呼ばれており、その名の通り、髪の毛が金色に輝いていて、顔も美しく整っている。身長も170センチと女性としては高く、最大の特徴は背中に生えた白い羽だ。全く非の打ちどころがない見た目なのに着ているものが中学指定の緑ジャージという残念な見た目である。
「ふざけるなよ、姿の投影だけでこの場に来たことになるか!早くその身を持って降りてこい!さもなくば今すぐに貴様の従者を神罰の名のもと殺…すます」
徐々に鮮明になってくる美月の姿を確認し、徐々に言葉の勢いがなくなるモンロー。最後に至っては言葉がめちゃくちゃになっていた。なんだ殺すますって。クリスマスの親戚?
「さぁどうする気だ。上神のモンローとやら?」
俺の隣に姿を投影し、宙に浮いた状態で腕組をする余裕な表情の美月。どうする気って俺を殺す気ですよ。殺すますって言ってましたからね。ほらこちらに近づいてきますよ。だがしかし
「貴方は…」
俺と美月との距離が5メートルとなったところでモンローは立ち止まり、あろうことかひざを折り、地面に突っ伏してしまった。土下座である。
「申し訳ありませんでしたぁー!許してください…どうか、どうか命だけは!」
先ほどとは打って変わって低姿勢になるモンロー。その体は小刻みに震えている。
「駄目だ、言っただろう。泣いて謝っても許さないと。さぁ出てきてやったんだ。私を呼び出すとはずいぶんと偉くなったようだなぁ。手初めに私のパシリを殺してみろ。そして神争と行こうじゃないか。さぁ」
低い声で怒りを露わにし、挑発をする。と言うか俺の命をやすやすと差し出さないでください。俺までガタガタと体が震えだす。
「いえ、滅相もございません。貴方様の従者を殺すなど」
未だに頭を下げたまま会話を続けるモンロー。命を狙われた俺から見てもこの姿はなんだか可哀想になってくる。
「あれ?美月さん、この神、モンローは知り合いですか?」
先ほどの美月さんの随分と偉くなったようだなぁという言葉に引っかかり質問をする。
「あぁそうだ。おい、お前は私のなんだ。答えてみろ」
未だに仁王立ちを崩さない美月と土下座中であるモンロー。もう答えは出ていた。
「はい、私は貴方様のパシリでございます!」
上神のモンローは俺のパシリ道の先輩に当たる神であった。
「ほう、覚えていたか。学校を卒業して以来、連絡がないからすっかり忘れていたと思っていたぞ?」
威圧的に言葉で攻めたてる。また言葉に引っかかる。学校を卒業?神様にも学校があるの?
「申し訳ありません。卒業後、貴方様の行方が分からなくなり、どうしてよいかもわからずに過ごしていました」
弁明を試みるモンロー。だが同じパシリの俺にはわかる。いなくなって清々したのだろう。飛び跳ねるほど喜んだに違いない。
「あのー、モンローさんとはどういった関係で?」
俺も怖くなり、控え気味に美月に尋ねる。すると思っていたより簡単に答えが返ってきた。
「あぁん?ただの学校の同級生だよ」
どこの世界に男の同級生を震えさせ、土下座をさせる女がいるんだ...目の前にいた。
「学校の同級生?」
もうわからないことだらけだ。そもそも神の世界に学校などあるのか。人間である俺には知る由もない。
「あぁそうだ。あれは遠い昔、私が新たな生活に期待で胸を膨らませ学校に登校していた時の話だ…おいそこの3人、話をしてやるからちょっと神界に来い」
また無茶ぶりを。どうやってそっちに行くのかわからない俺にはいく手段がない。そして同じく人間であるピンクデラマンデラは気絶中、モンローは土下座中である。
「あの...どうやっ」
俺の言葉は最後まで続かず、突如頭上から降り注いだ雷によって気絶してしまう。他の2人も同じである。すでに気絶しているピンクデラマンデラにまで落としたのはどういうことなのか。
「起きろ」
ご主神の言葉に反応し、素早く起き上がる。そこはいつもの美月がいる空間だった。先ほどの雷で再確認した。この女神は何時でも俺を殺せると。最早逆らうことは許されない。そして他の2人はと言うと
「はい、お招きいただき誠にありがとうございます」
すでに調教済みの上神、モンローは俺と寸分違わず同じタイミングで起き上がる。現役と先達のパシリ。時代は違えど恐怖は同じである。
「おい、お前の従者がまだ起きていないぞ...どういうことだ?」
美月はこの場に呼んだもう1人の人間、ピンクデラマンデラを見て不機嫌そうにする。別に寝ているわけではない。気絶しているのだ。
「すみません!おい、起きろ。命が惜しければ!」
オネエ口調はどこへやら、素のモンローが従者を叩き起こす。
「痛いっ痛いわモンロー。いったいどうしたっていうの?」
モンローに蹴りを入れられようやく起き上がるピンクデラマンデラ。状況が理解できていないのだろう。周囲を見渡し、その景色に感動した後、視線を目の前にいる美月へと向ける。そして
「アナタ、不細工ね。それに何その服装、ジャージとかあり得ないわ」
その言葉を受け、美月の表情が笑顔に変わる。でもそれはポジティブな笑いではない。その表情が言外に語っている。コイツを始末しろと。
「もももももも申し訳ありません。私の従者が大変なご無礼をっ!ほらマンデラ、お前も謝るんだ」
必死の形相でマンデラに詰め寄り、頭を押さえつける。だがしかし
「ちょっとどうしたのモンロー。男口調になっているわよ。それに正直な感想を言って何が悪いの?オカマが自分に正直に生きられなくなったら終わりよ!」
一向に悪びれる様子を見せないピンクデラマンデラ。それはそうだ。コイツは美月の恐怖を知らない。俺だって出会って2カ月だ。まだ美月の全てを知っているわけではない。だが本能が言っている。逆らうなと。
「ふん、まぁいいだろう。無知に免じて許してやる。だが二度目はないと思え」
笑顔を納め、普通の表情に戻る。良かった助かった。意思が通じ合ったかのように同士であるモンローと目が合う。
「これから見せるのは私が学生時代、そこの、今はモンローと言ったか、モンローと出会い、今に至るまでを描いた物語だ。」
そう言って右手を後方に無造作に振る。すると何もない空間に突如無色透明な長方形が横向きで現れる。どういう仕掛けか宙に浮いていた。
「これは神の記憶を吸い取り映像化してくれる鏡だ。私が創造したものだから真似するなよ」
もちろん真似なんかしません。それよりも気になるのが
「あのぉどうして過去の話なんかしてくれるんですか?」
正直知ったところでどうしようもないと思うのだが。
「...さぁ始まるぞ」
俺の質問を受け流し、話を進めてしまう。分かった、この神、暇なんだ。