わらしべ長者編 遭遇 美の女神 〇〇〇〇
美月の命令でピンクデラマンデラを追いかける赤矢。派手な格好をするピンクデラマンデラはマンション建設予定地にいた。
「しつこいわ、アタシはお笑いなんてやらない。女優になるのよ!」
頑なに女優になるという夢を追いかけるオネエのピンクデラマンデラ。そしてなぜかピンクデラマンデラと拳を交えることとなる赤矢。その時驚きの言葉が夢は女優のオネエから飛び出る。
「その力、もしかしてボウヤも神付きの人間かしら?」
「いた。あそこだ」
一時は見失ったが、少し高いところへ行けばすぐに見つかるような恰好をしているピンクデラマンデラを見つけるのは容易だった。場所は町はずれの大きな空き地。確かあそこは大きなマンションが建設予定だったはずで、シートで四方が覆われていた。その場所に入ってい2人。何だか嫌な予感がする。
「しつこいわ、アタシはお笑いなんてやらない。女優になるのよ!」
マンション建設予定の空き地、建設に使うのか木材や鉄筋、鉄パイプなどが束にまとめられている。その敷地の中心に2人の男がいた。1人は特大のアフロヘア―で首にピンク色のシャンプーハットを付け、ピンクの半袖、ピンクのスカートを穿いた男性、ピンクデラマンデラ。そのたくましい腕で何かを掴んでいた。もう1人の男は
「ナイスツッコミや。やっぱりツッコミは痛いくらいの方が客受けがええからなぁ。だがお前はどう見てもボケの方や」
ピンクデラマンデラに顔を何回もビンタされたのだろうか。両頬を赤くし、襟首を掴まれ宙づりとなっている関西弁男。彼の襟首は今日1日で散々掴まれ、ダルンダルンになっていた。
「ふん、意見の相違ね。もうコンビは解散よ。ピンで活動するか新しい相方を探してちょうだい。アタシは女優になるため事務所に面接に行くわ」
そう言い、関西弁男を建設予定地の入り口、即ち俺の方へと放り投げてくる。もちろんノーバウンドで。
「危ないっ!」
俺はそれを避ける...なんて非道なことはせず、美月の力を使い体で受け止める。だがそれでも衝撃を受け止めきれず数メートル後ろへ下がってしまう。
「おい大丈夫か?ってまた気絶してやがる」
余程ビビりなのかまたもや気絶をしているカンサイ弁男。こんなんでお笑い芸人をやっていけるのか?売れっ子の芸人さんになったらドッキリとか否応なしに掛けられるぞ。そのたびに白目を向き、涎をたらし、口を大きく開けて気絶をしていたらそのうち放送事故になるぞ。ってかカンサイではドッキリ掛けられなかったのか。
「あらボウヤ、もしかしてアタシに会いに来てくれたの?嬉しいわ。次はどこに行く?大人になっちゃう?」
俺を発見したピンクデラマンデラがウインクをしてくる。それを俺は手元に偶然持っていた盾《カンサイ弁男》でガードをする。危ない。危うく死ぬところだった。
「違う。俺はアンタの相方であるこの男と一緒にアンタを探していただけだ。目的を果たしたんだし報酬を貰おうと思ったんだけど...」
手に持っていた盾ならぬカンサイ弁男を見る。だが今だに気絶をしている。何だか気持ち悪そうな顔をしているがどうしたのだろうか。
「あらそうなの?なら残念ね。アタシはもう行くわ。これから面接をしてくれる女優事務所が待っているの」
そう言い建設現場を出て行こうと歩みだす。ウソでしょ。その見た目で面接してくれる事務所があるなんて。詐欺じゃない?
「コイツもお笑いのオーディションがあるって言っているんだけど。アンタと一緒じゃなければ駄目なんじゃないの?」
受け止めたカンサイ弁男の襟首を掴み前へ突き出す。
「だからぁアタシはお笑いなんてやらないの。こっちでお笑い芸人として売れちゃったらもう女優になれないじゃない」
もう何回女優と言う言葉を聞いただろう。目の前の怪物を見て女優と言う概念が崩壊していく。
「だったら最初から芸人なんてやらないで女優を目指せばよかったじゃないか」
率直な疑問をぶつけてみる。
「それもさっき言ったでしょぉ。どんな舞台でもいい。アタシの露出が増えればそれだけ業界関係者の目に留まるって。そのためにお笑いをやっていたの。それがついさっき女優事務所の人間から声を掛けられたの。ボウリング場から出た後よ」
その見た目じゃぁ目に留まるだろうがどうやって女優になるつもりだったのだろうか。ていうか事務所の方から声を掛けて来たの?
「それも嘘だろ。だったら初めから舞台をやっていればよかったんだ。だがアンタはこの男とお笑いコンビを組んだ。アンタ本当はお笑いが好きなんじゃないのか」
そんな素敵な武器を持っているのに芸人やらないなんてもったいない。
「ふん、何とでもおっしゃい。アタシは行くわ。じゃあね可愛いボウヤ」
今度こそ、建設現場を出て行こうと歩みだす。そして俺の横を通り抜けようとしたその瞬間、俺はカンサイ弁男を少し横に放り投げ、ピンクデラマンデラの右腕を掴む。もちろん美月の力を100パーセント発揮して。だが
「あら、そんな華奢な体のどこからそんな力が湧いてくるのかしらっ」
ピンクデラマンデラは全力を出すわけでもなく軽々と右腕を上にあげ、俺を宙づり状態にする。そして腕を振るい建設現場奥へと俺を投げ飛ばす。
「うわっと」
何とか受け身を取り体制を立て直す。やはり力ではかなわなかった。
「その力、もしかしてボウヤも神付きの人間かしら?」
投げ飛ばした俺の方へと近づいてきて10メートルほど離れたところで立ち止まる。アイツ今なんて言った?神付き?
「ボウヤもってことはアンタもか?」
神付きとは恐らく美月のことを指しているのだろう。ということはピンクデラマンデラにも力を与えている神がいるということか。
「あんまりベラベラと話すものじゃないわよマンデラ。今後の女優業に支障をきたすわよ」
突如建設現場のどこからか女性口調であるが男性の声が聞こえる。一瞬目の前のピンクデラマンデラかと思ったが違った。
「しょうがないじゃない、ボウヤがアタシを行かせてくれないんだし。それにアタシが女優としてやっていけるということを証明しておかないと」
ピンクデラマンデラは誰もいない右側を見て話し出す。どうした?頭でも打ったか。
「まぁ確かに。あの子、しつこそうだからねぇ。この先アナタのストーカーになる前に叩いておくのもありかもねぇ」
ふざけるな!誰がこんな化け物のストーカーになるものか。出てこい!
「しょうがないわね。ワタシが出て行って説得してあげるわよ」
その声が聞こえた直後、ピンクデラマンデラの真横にひとつの人影が現れた。体格はピンクデラマンデラと瓜二つの筋肉質、だが髪形はリーゼントで色付きメガネを掛け、宙にフワフワ浮いている。そしてメイド服を着ている…神様どうか助けてください。目の前に悪魔が舞い降りました。
「初めまして神付きのボウヤ。マンデラの主、モンローと呼ばれているわ」
突如現れた筋肉リーゼントメイドは自分をモンローと名乗った。恐らく名前はピンクデラマンデラが付けたのだろう。そして人間との最大の相違点、背中には白い羽が生えていた。
「モンロー、アンタ男神だよな?」
聞くまでもないことを聞く。それほどまでに目の前の光景はショッキングだった。
「はぁ?ボウヤ何を言っているの。ワタシは女神。美の女神モンローよ」
嘘だ!こんなのが美の女神だったら人間は神に戦争を仕掛けているだろう。
「いやいやアンタどう見ても男だから!俺の主神は女だから見比べてわかる。いいや見比べなくてもわかるけれども」
美月の性格はあぁだけれども見た目はちゃんとした女性だ。対し目の前のモンローはどう見ても男性。
「まぁ失礼しちゃう。余程ボウヤの主の躾がなっていないのね。全く。神の中でも10パーセントしかいない上神であるワタシが説教してあげる。さぁボウヤの主。出てきなさい...って言っても出てこれないわよね。どうせ有象無象の下神でしょうし。ボウヤの貧弱な力を見れば分かるわ」
そう言って自らの体を強調するようなポーズを取るモンロー。神にも階級のようなものがあるのを初めて知ったがそれ以上に女装をしている神がいることに驚いた。
「アンタ、俺をどうするつもりだ」
何もしないのに神が俺の前に降り立つわけがない。
「もちろん、ボウヤを痛めつけたあとたっぷり可愛がって、その後記憶をいじくらせてもらうわ。マンデラの夢を邪魔しないようにね」
邪魔しなくても恐らく夢はかなわない。手術をしなければ。
「さぁ力の差を見せつけてあげなさい。マンデラ」
ピンクデラマンデラに言い放ち、モンローは後ろに下がってしまう。それとは逆にピンクデラマンデラは一歩前に出てくる。
「本当はこんな可愛いボウヤを痛ぶりたくないんだけれど、邪魔をするなら仕方がないわよね」
ゆっくりとこちらに向かってくるピンクデラマンデラ。あの筋肉から出る力を100倍にしたらどれほどの力が出るのか。間違いなく俺より強いだろう。こちらは運動部に入っていない普通以下の男子高校生。向こうは毎日鍛えている性別不明のピンクデラマンデラ属ピンクデラマンデラ科のピンクデラマンデラ。どう考えても勝ち目はない。
「ちょっと待て。俺には戦う理由がないんだが。だから帰らせろ!」
ここまで首を突っ込んだが、痛い目を見てまで関わるほどこのカンサイ弁男と深い仲ではない。だから帰らせてください。あっその前に壊したママチャリの弁償はしてください。
「だ・か・ら駄目なの。アタシの秘密を知ってしまったのだから」
あれは10日ほど前、アタシ、お笑い芸人のピンクデラマンデラは相方の男と口論になった。彼はカントーに進出をして芸人として一旗上げようと言ってきた。アタシはもちろん反対した。もし、カントーそしてトーキョーで芸人として有名になってしまったら恐らくアタシは一生お笑い芸人として見られる。冗談じゃない。アタシの夢は女優。例え芸人として成功した後に女優のオファーが来たとしてもそれは芸人が女優の仕事をかじっただけに過ぎない。アタシがなりたいのは職業女優。
「アラ、夢かしら。キレイなところね」
そんな時、いつものようにピンク色のベッドに潜り眠りについていたはずのアタシは、知らない場所に立っていた。周囲には木々が立ち並び、中央には湖があった。どこかの森の湖畔のようだ。まるでおとぎ話に出も出てきそうな美しい湖畔。
「アナタ、ワタシと似ていて美しい体をしているわ」
突如後ろから声が聞こえ、そちらの方を振り向く。そこにはリーゼントで色付きメガネを掛け、服装はまさに神様という格好で古代ローマ人が来ているような白い布を基調とした服を着ている。そしてなによりも特徴的なのが背中に白い羽を生やし、宙にフワフワ浮いていることだ。
「アナタこそ、とても美しいわ。美の女神さま?」
アタシが思い描いていた美の女神そのものが今まさに目の前にいた。
「ありがとう。嬉しいわ。アナタとは気が合いそうね」
嬉しそうに微笑む美の女神。
「でもその服だけは気に入らないわね。可愛くないわ」
例え相手が美の目が見であろうとここだけは譲れない。あの布はあり得ない。
「うっそー。やっぱりー?ワタシも前からそう思っていたのよー。ますます気が合うわね。そうだアナタ、また次に寝るときにアナタが1番可愛いと思う服を持って寝て。そうしたらここへ持ってこれるわ。その服を私に頂戴。くれたらアナタの望みを叶えてあげるわ」
普段だったらこれは夢だと切り捨てるところだっただろう。だが、望みを叶えてくれるという言葉にすがりたい。アタシはひと言返事をする。1番可愛いと言えばメイド服だ。アタシが持っているうちの1着をプレゼントしよう。
「うおぉぉっ!」
「やるわね。じゃぁこれはどう?」
俺は今、神の力を得た人間、ピンクデラマンデラと拳を交えている。いや、正確には一方的にと言った方がいいか。俺は放たれる拳や蹴りを避けることで精いっぱいだった。
「やるしかないのか」
ピンクデラマンデラとその主神、モンローはこのまま俺を逃がしてくれる気配はない。痛めつけて動けなくなったところを可愛がったのち、記憶をいじくるつもりらしい。両足に力を込め、ピンクデラマンデラ目掛けて全力で駆け出す。そして右こぶしを作り、腹部に叩き込む。ピンクデラマンデラに防御をするそぶりはだなかった。だがしかし
「ボウヤ、全く効かないわ」
美月の力を100パーセント込めて放った拳も、神界で10パーセントしかいない上神を主神に持つピンクデラマンデラには効かなかった。
「今度はこちらの番ね」
そう言って俺の目の前に瞬間移動してくる。そして大きく腕を振りかぶる。どうやら俺と同じように腹部を狙っているようだ。大きなための間、俺は腕に力を集め、ガードを作る。
「ぐぅぁっ」
拳は腕に当たった。だがそこで止まることなく、俺の体を浮かし、数十メートル後方へと吹き飛ばされてしまう。
「駄目ねぇ。可愛いけど美しくないわ。ボウヤも体を鍛えなさい。そうすれば美しくなれるわ」
余裕なのかポージングを取るピンクデラマンデラ。それに伴いモンローもポージングを取る。生き地獄である。だが戦闘では勝ち目がない。こうなったら説得しかないのか。
「はぁはぁ、ピンクデラマンデラ。アンタは美しいのかもしれない。だが世間の美的センスとはずれている。今のアンタじゃ女優としてはやっていけない。でもお笑い芸人としてならキャラが立っていて見た目も口調も抜群に面白い。相方変えてでもいいからそっちの道に進んでみたらどうかなぁ」
苦し紛れで何を言っているのかわからないが取りあえず思ったことを口にしてみる。
「確かに、アタシの美と世間の美ではずれがあるわ。それは認める」
あれ、意外に素直に受け止めてくれた。これならいけるかも。だが
「だったら世間の認識とやらをアタシに合わせるまでよ。今のアタシにはそれが出来る」
一体何を言っている。世間の認識を自分に合わせるだと?
「あぁそうか。ボウヤの主神、恐らく下神ね。だから身体能力強化しか与えられていないのよ」
身体能力強化しか?まるで他にも与えられるような口ぶりだ。
「ボウヤ可愛い顔をしているから特別に教えてあげるわ。ワタシのような上神はね、従属となった人間に身体能力の強化とは他の力、特殊能力を与えることが出来るの。ワタシの場合はこれよ」
モンローはピンクデラマンデラを指さし、それに答えるようにうなずく。まずい、何か来る。その時
「あぁー、パシリ。聞こえているか。お前に朗報だ。いいかよく聞け」
突如頭の中に俺の主神、美月の声が響いた。
「何ですか朗報って?」
ピンクデラマンデラの特殊能力がいつ来るかわからない今、焦っている俺は自然とまくし立てるように早口になる。
「まぁ焦るな。だがまぁアレだ。ひと言でいうならば、お前が今授かっている力、それ私じゃなく日和の力だから」
一瞬訳が分からなかった。なぜ日和の力を俺が持っているんだ。
「この前、私と日和の代理戦争があっただろう。その際、お前は私のパシリを一時的ではあるが辞め、裏切ったわけだ。そして日和の下僕となった。この私を裏切ってな」
何だかところどころに棘がある言い方をしてくる美月。
「それから今日までお前は日和の力で過ごしてきたわけだ。もちろん力も私よりも劣る」
「と言うことは?」
俺は日和が体育祭で美月が俺の姉である黄緒と生徒会長の関根先輩に力を与えた時の日和の言葉を思い返していた。(神が自分の力を分け与えるということ、それは全てが等しいというわけではありません。それは神自身の実力と分け与えられる量が物を言います。そのどちらもわたくしはお姉さまに遠く及びません)と
「立花赤矢、たった今からお前を私のパシリとする!」