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わらしべ長者編 それ〇〇〇円のハンカチですから

敬遠された機体とソフトを手に入れるため、行動に移す赤矢と日和。その方法とはわらしべ長者?果たして町に物が乱立する現代社会において、物々交換は成立するのか?


「27万9千円ですの!」

「それで、どうするんですの?」

 裏路地の店舗から再び大通りに生きて帰ってきた途端、日和が顔を見上げて聞いてきた。


 「日和さん、わらしべ長者って知ってますか?」

 俺が先ほどアレを試すと言ったのは錬金術ではなく、こっちの方だ。


 「知らないですわ。誰ですの?」

 本当に知らなそうな顔をする日和。わらしべ長者は個人名ではない。


 「人名ではないですよ。日本の童話です。ある男が最初にわらを物々交換に用いて、より高価なものと交換していき、最終的には屋敷と交換するという話ですよ。これを実際にやって、BSBとマジックモンスターハントを手に入れられるだけのお金27万9千円を貯めましょう」

 はっきり言って荒唐無稽な話だ。昔ならいざ知らず、周囲を見渡せば豊富な物品が揃っている現代日本で物々交換など成立するのか。そもそもその人が欲しがっているものをピンポイントで自分が持っているのかと。


 「なるほど。それでどうやって交換相手を見つけるですの?」

 日和もこの点に気付いたらしく、質問してくる。


 「もちろん、このゴッドアイを使うんですよ」


 現在地は休日の駅前広場中央、待ち合わせの目印である駄描だびょうナナちゃん像の前。駄描ナナちゃんとは、50年ほど前、ここら周辺の家から魚を盗みまくったという伝説を持つ猫である。俺の住んでいる町は大都会ではないが、駅前に複合ビルがあるぐらいは栄えている。両目に力を集め、視力を100倍くらいにする。


 (ゴッドアイ!)

 駅前は休日のお昼前と言うことで、人々でにぎわっている。流石にこの混雑では目に入ってくる情報量が多く、目にかかる負担が増える。だがやはりこの目はとても便利だ。


 「見つけた!」

 俺の視線の先には、不定休のサラリーマンだろうか?黒色のスーツを着て、青いネクタイを締め、ビジネスカバンを左手に持っている中年男性がいた。だが様子がおかしい。上体は前かがみになり、右手は鼻をつまんでいた。


 「大丈夫ですか?」

 その中年男性に近づき、声を掛ける。中年男性からの反応はない。どうやらその体勢から動けないようだ。俺はよく観察をしてみる。


 (やっぱり。鼻血を出している。上体を起こしたらスーツに鼻血が付くから動けないんだな)

 良かった。興奮して動けないんじゃなくて。中年男性は俺に気付いたのだろう。目で何かを訴えてくる。


 「あぁ、ちょっと待ってください。ハイ」

 こういう時、普通は使い捨てのポケットティッシュを渡すものだろう。だが、それではお礼を言われて終わりになる可能性が高い。なので


 「ティッシュは持っていないんで、これを使ってください」

 ズボン右ポケットから白色のハンカチを取り出す。昔、ハンカチを必ず持つように母親から躾されたせいで、今でも出かける際には必ずハンカチを持ち歩いてしまうのだ。まぁ持ち歩くだけで使わないのだが。


 「どうぞ」

 中年男性が躊躇をしていたので駄目押しに言葉を掛ける。その言葉を受け入れ、ハンカチを受けとり、鼻に当てる。


 2分後

 「ありがとう、きみ。助かったよ。急に鼻血が出てきてね。別に興奮した訳じゃないよ」

 お礼と弁解を早口で述べる中年男性。その思考ができる時点でちょっと危ない人かもしれない。


 「いいえ、大したことはしていません」

 軽い笑顔と共に謙虚な態度を取る。


 「いやいや本当に助かったよ。これから大事な商談だったんだ。もしスーツを鼻血で汚してしまったら、商談にすら行けなかったよ。っと悪いね。君のハンカチを汚してしまった」

 中年男性の手には鼻血滴る赤いハンカチがポタポタと流血していた。


 「弁償するよ。このハンカチ、いくらだい?」

 血まみれのハンカチを床に置き、中年男性が財布を取り出し、中を見る。


 「27万9千円ですの!」

 隣にいた日和が初めて言葉を発する。いやいや、その値段はいくらなんでも吹っ掛け過ぎだ。なんだよハンカチ1枚27万9千円って。ぼったくりバーじゃないんだし。


 「日和さんは黙っててください。いいんです、お金は」

 あのハンカチはもともと100円均一で買ったものだ。100円でゲームは買えない。そこで俺はあえて「お金は」と言うフレーズを少し強めに言った。


 「そうか、でもそれでは私の気が済まない。何かおごらせてくれ」

 よし、掛かった!


 「掛かったですの!」

 日和さん…そういうのは思っても口に出さないでください。


 ガチャコンッ

「ありがとう。助かったよ。それじゃぁ」

 駆け足で商談へ向かう中年男性。それを見送る俺と日和の手には


 「缶ジュースか…」

 「缶ジュースですの...」

 売価150円のスポーツドリンクが握られていた。


 「まぁ100円が150円になったんだし良しとするか」

 進歩は進歩だ。この調子で27万9千円を目指すぞ。


 「この調子じゃ日が暮れるですのっ!」

 「あっ!」

 日和が缶ジュースのプルタブを開け、中身を一気飲みしてしまった。


 「あーあ、日和さん。これじゃ交換する物がないじゃないですか」

 交換する物がなければそもそも物々交換とはならない。ただの強奪である。


 「ふん、見くびらないでくださいですの。わたくしにはこれがありますわ」

 そう言うと日和は中学指定赤ジャージの首部分から右手を突っ込んで、そこから何かを取り出した。それは


 「ビニール傘?」

 それはどこにでも売っているような透明なビニール傘だった。その服の中ってどうなっているの?


 「もう忘れたんですの下僕。これはわたくしの力を込めた傘ですのよ?」

 あー。そう言えばありましたね。あれは日和が初めて俺を殺しに来た日。無数の男子がビニール傘片手に襲い掛かってきたこと。正直忘れたい記憶である。


 「まさか、それを一般人に渡すんですか?」

 神の力が入った物品を何も知らない人間に渡したらどうなることやら。


 「ふん、こう見えてもわたくし、人を見る目があるんですの」

 性格破綻の鬼畜女神、美月さんを尊敬してやまない女神、日和さんが胸を張って答える。


 「あそこの男性に決めましたわ」

 そう言って日和は駅前広場にあるベンチに腰掛け、俯いている男性に声を掛ける。髪は伸びきってボサボサ、汚れた白のワイシャツを着ている。多分ニートだ。


 「そこの人間!」

 いかにも神様らしい上から目線の態度でターゲットに話しかける見た目幼女の日和。


 「あ?」

 急に傲慢な態度を取る幼女に話しかけられたからなのか、それともすべてがうまくいっていないからなのか、苛立った態度を取るターゲット。


 「力を授けます。だから金をよこしなさい!」

 右手に持った傘の先端をターゲットの顔に向け、左手を腰に当てる格好を取る。こんなの男にやられたら喧嘩勃発だ。


 「何言ってんだお前、舐めてんのか?そのそも金なんて持ってっ…おっ?おぉ!?なんだ?力がみなぎってくる!」

 自分に向けられた傘の先端を掴んだ途端、奇声を上げ始めたターゲット。どうやら神の力を授かったようだ。


 「さぁ金をよこしなさい。27万9千円ですわ」

 ビニール傘1本で法外な金額を吹っ掛ける。やはり神様は物の価値がわかっていない。カップラーメンの値段も600円とか答えそうだ。


 「いや、そんなに金持ってねーんだけど。と言うか傘1本でそれは高くないか?」

 正論を言ってくるターゲット。だが女神に人間の正論は通用しない。


 「では、何かよこしなさい。あなたが持っている中で1番高価なものを」

 ビニール傘で高価なものを要求する新手のぼったくり。


 「まぁなんだか力がみなぎる不思議な傘だし貰っとくか。ほらよ、これでいいか?」

 ターゲットはズボンのポケットから1本の缶を取り出した。またジュースか?


 「何ですの?これ」

 だが受け取った日和には正体が分からないものらしい


 「こんなものしかなくて悪いな。じゃ、もう行くよ。やる気が出たし、家に帰って準備をするから」

 ベンチを立ち上がり去っていくターゲット。一応は物々交換成功か?交換した物を手にし、戻ってくる日和。その正体は缶ジュースではなく


 「催涙スプレー?何でこんなもの持ち歩いてたんだ?」

 防犯用の催涙スプレーが1本握られていた。果たしてこんなものを持ち歩いている人間に神の力が入ったビニール傘を渡してよかったのか?


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