それでも僕は〇〇〇〇じゃない
美月に地面にめり込まされ目を覚ます。そこには生まれたままの姿で体育座りをする赤髪ツインテが。「不潔ですの」。そんなところを姉である立花黄緒に目撃され...通報ものですよ?
6月6日
「うぅ、痛い」
頭の天辺に鈍痛を覚えながらも目を覚ます。今日は月曜日であるが体育祭の振り替え休日。つまり高校は休み。休みの日はスマホのアラームを掛けないのだが、美月の鉄拳があるのでは意味がない。
「それにしても」
先ほど見た光景が脳裏によぎる。断じて違う。神に誓って俺はロリコンではない。ないのだが否応なしに赤髪ツインテの裸体を思い出してしまう。
「不潔ですの」
「ひっ」
突如部屋のどこかから声が聞こえた。俺は素っ頓狂な声を出しながらも目を開け状態を起こし辺りを見渡す。するとベッドの左側に体育座りで体を隠している赤髪ツインテがいた。もちろん服など着ていない。
「うわぁっ女神さま。まだそんな格好していたんですか。何か着るもの。女性用の服なんてもっていないし。こっこれ、取りあえず布団でもかぶっていてください」
そう言って自分が使っていた薄手の毛布を赤髪ツインテに放り投げる。だがそれが仇となる。
「不潔ですの」
布団を受け取り体に巻きながらも先ほどから赤髪ツインテは永遠とこの言葉を繰り返している。いったい何のことだ。それにどこを見ている。そう思い赤髪ツインテの視線を追いかける。どうやら俺の方を見ているらしい。正確には下半身を。
「ぶっ」
思わず吹き出してしまった。だってこれは男なら自分の力ではどうしようもできない生理現象で、いわば息子の反抗期である。親の俺がどうこうできる問題ではない。だからこれは、先ほどみた赤髪ツインテの裸体とは関係ないんだからね。
だが俺の事情など知る由もなし。相手にとってはその現象が全てなのだ。
「不潔ですの下僕!」
「うわっやめてここではまずい」
赤髪ツインテは俺の顔面目掛けて拳を振り上げてきた。もちろん俺には避ける術はない。このままでは顔面に拳がクリーンヒット+壁を突き破って隣の部屋、すなわち俺の2つ上の姉、立花黄緒の部屋と繋がってしまう。だがしかし
ポスッ
「あれ?」
赤髪ツインテの拳は確かに俺の顔にクリーンヒットした。だが肝心の威力がない。それは女神のものではなく、年相応の小学生女児の拳と言えるものだった。
「なんでですの?」
赤髪ツインテが困惑の表情を見せたその時
「アーアー、聞こえているかパシリと隷属。赤髪の女神としての力は私が作った人形によって封じられている。いかなる時も私の許しなしでは女神の力は使えない。いいな」
いくらなんでもそこまでしなくてもいいのでは。女神の力ってアイデンティティみたいなものじゃないの?それを奪っては最早普通の人間である。
「分かりましたわお姉さま。これは一種のお戯れですわね」
何でも良い方に考える赤髪ツインテ。ポジティブなのは良いことだけれど絶対に違う。近づいてきたときに軽くあしらう為だって。
「それじゃパシリ。後の準備は任せたぞ」
「え、何のですか?」
いきなり準備を任されても何の準備かわからなければ動きようがない。
「決まっている。赤髪ツインテの編入準備だ。安心しろ。もう話はつけてある。後は制服をそろえるだけだな」
話?誰に。それに制服って?
「赤矢―起きてる―?」
突如俺を呼ぶ声が聞こえ、部屋のドアノブが回る。俺の部屋には鍵がついてはいない。即ち
ガチャッ
抵抗なく開く扉。まずい。非常にまずい。現在の俺の状況は非常にまずい。なぜなら
部屋に見知らぬ女(見た目小学生の幼女しかも裸)。息子の反抗期。これだけで通報ものだ。
しかし無情にも扉は開いてしまう。終わった。
「起きてるなら返事してよー…」
見られた。実の姉に。俺はこれから変態ロリコン誘拐紳士と後ろ指を指されて生きていかなければならないのか。さようなら俺の青春。待っているのは監獄だ。だが言う事は言おう。一縷の望みをかけて
「違うんだ黄緒。この子は朝起きていたら俺の元へ舞い降りてきた女神で知り合いでお姉さま好きで俺はロリコンではない以上」
駄目だ。言いたいことをまとめれなかった。
「ここにいたんだ。駄目でしょ、お風呂の途中で抜け出しちゃ。それにあなたもいくら親戚だからって赤矢と同い年なんだから裸はまずいでしょ」
そう言って黄緒は裸の赤髪ツインテを俺の毛布を巻いたまま担ぎ上げ連れていく。
「ちょっと待って黄緒。知り合いなの?」
いつの間に女神と知り合いに?
「はぁ何言っているの。言ったでしょ、親戚の子だって。確か父さんの方のすごい遠い親戚。名前は忘れたけれど。ねぇ名前は何て言うの?」
「何を言っているんですの。離しなさい人間。わたくしを担ぎ上げるとは何たる無礼!」
「はいはい、本当に変わった言い回しをする子ね。こんな子親戚にいたら忘れることなんてない筈なんだけれどなぁ」
バタン
何だったんだ。赤髪ツインテが親戚?
「聞こえるかパシリ。先ほどの続きだがなこれから赤髪はお前の親戚として暮らしてもらう。また学校にも通ってもらう。もちろんお前と同じ高校だ。話はつけてあるとはこのことだ」
嘘だ話してなどいない。記憶をいじくっただけだ。
「さぁって、私は自由だ。あー1人はいいなぁ」
「やっぱりそっちが本音ですか」
今日は休日であり、学校に行く必要はない。そんな日は1日中部屋着で過ごすのが1番だ。なので着替えもせずに顔を洗いに洗面所に行こうと部屋を出る。
「それをよこしなさい人間」
俺の部屋の隣、つまり黄緒の部屋から赤髪ツインテの声が聞こえてくる。続いて黄緒の困った声が聞こえる。何だか嫌な予感がする。
「黄緒、入るぞぉ」
ドアをノックし黄緒の部屋を開ける。黄緒の部屋には昔はしょっちゅう来ていた。姉弟なのだから普通である。だが俺が中学に上がった頃から立ち入りが制限され現在では無断での立ち入りは禁止になっている。
久々に来た黄緒の部屋は昔とそんなに変わっていなかった。部屋の中央に1メートル四方のテーブル、ピンク色のクッションチェア、奥に22インチのテレビ。その横には棚があり、ソフトテニスで得たトロフィーが輝いていた。その棚にはテニスラケットがケースに入れられて立てかけられていた。部屋左にはクローゼットついておりその奥には縦長の鏡が。壁には制服がハンガーによって掛けられている。ベッドは右の壁に沿って置かれている(俺のベッドは左壁に沿って置いてある)。そしてアイドルポスターの代わりに男子プロテニスプレイヤーのポスターが貼ってある。女子高生にしてはシンプルな部屋である。
部屋の中央には向かい合って言い争っている2人の姿が。赤髪ツインテはいまだに俺の布団を体に巻いたままの姿で黄緒の着ているものを指さしている。
「駄目だってば、これは私の部屋着なの」
「これじゃなきゃ嫌ですわ。渡さないのならどこで手に入るのか教えなさい」
「えー、これどこにでも売っているものじゃないんだけれどなぁ」
赤髪ツインテは黄緒の着ているもの、中学指定のジャージを指さしている。色は赤だ。なんだ?どこが気に入ったんだ。色か。自分の髪と同じ色だもんな。
「ならばよこしなさい。それさえあればわたくしはお姉さまとお揃いになりますの。天界でたった2人のお揃い…素敵ですのぉ!」
1人でヒートアップする赤髪ツインテを見てビクッとなる黄緒。俺はというと引いていた。
「これじゃないと駄目なの?」
「駄目ですの!」
赤髪ツインテの意思は硬い。とうとう黄緒が折れた。
「しょうがないなぁ。これ気に入っていたんだけれど。でもサイズ合っていないよ?」
黄緒は身長が163センチあり、その黄緒に丁度良いサイズのジャージである。身長140センチの赤髪ツインテに合うわけがない。
「構わないですの」
それでも赤髪ツインテは譲らない。
「分かったよ。それじゃほら。あっれ、下着も着ていないじゃない。ほらこっち着て。確か昔買って使わなかったのがあるから…っ!何見てんの愚弟!」
フォアアンドストロークさく裂。そして天界へ…
「呼んでいないぞパシリ」
即帰還
「はっ!」
息を吹き返す。良かった生きている。
「やっと目を覚ましたんですの下僕。見なさい。お姉さまとお揃いですの」
そう言って自分が着ているものを1回転して俺に見せてくる赤髪ツインテ。だがしかし
「ぶかぶかだな。それに上だけだし」
赤髪ツインテの恰好は、先ほどまで黄緒が来ていた中学指定の赤ジャージの上だけだった。袖は長さがあってなく指先まで隠れてしまっている。しかしそれだけで上も下も隠れてしまっている。ちょっと短めのワンピースといったところか。
「まぁ気に入ったならいいよ。大切にしてよ」
しょうがないという顔で赤髪ツインテを見つめる黄緒。これで俺たち姉弟は揃って女神に中学指定のジャージを盗られたことにある。
「はいですの」
赤髪ツインテはとても良い笑顔で返事をする。それを見て全てを許した顔になる黄緒。ホント赤髪ツインテの見た目って役得だよな。童顔ロリ体形って…
「そう言えば父さんと母さんは?」
赤髪ツインテが黄緒から中学指定の赤ジャージ(上)を献上(という名の強奪)され、落ち着いた頃、2人がいないことに気付き黄緒に聞く。
「何言っているの赤矢。父さんと母さんは長期休暇を取って昨日から海外旅行に行っているでしょう。赤矢が義務教育を終えて大人になったからって」
初耳である。絶対美月の仕業だろ。ボロが出ないようにするために
「困ったわね」
黄緒が困ったような顔をする。父方の遠い親戚(という設定)である赤髪ツインテが明日から俺たち姉弟が通う高校に編入するということになっているらしい。だがしかし、高校生の証である制服が用意されていなかったのだ。そこで急遽制服取扱店に電話をしたのだが
「サイズを測って作り終えるまで1週間かかるなんてね」
それはそうだろ。アレって完璧オーダーメイドだし。
「というか女神…君はお金を持っているの?」
危うく女神さまと言いそうになり、慌てて言い直す。黄緒の前で女神さまなんて呼んだら俺が幼女崇拝の変態として見られてしまう。そしたらもうお終いだ。本当に崇拝するしかなくなる。
「お金?必要ですの?」
どうやら持っていないらしい。それはそうか。今まで人間の献上品だけで過ごしてきたんだから。下手なお嬢様より質が悪い。
「明日から君も俺たちと同じ高校に通うんだよ?高校に行くには制服を着なきゃいけないし教科書や道具を買うのにもお金がいるし」
「何とかしなさい。下僕」
無理だって。バイトしていないし。全財産はお年玉貯金(8割は母親に将来のための貯金として持っていかれた)しかないし。
「美月さんどうしましょう」
心の中で話す。すると返事が返ってきた。ひと言だけ
「いいんじゃない?」
何がいいんだ。適当だな。