表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

代理戦争終結。私の特技は〇〇です

 女神と女神の争い。体育祭を用いた戦争、代理戦争が幕を閉じる。最終種目「とっつぁんの名言」開始30分、早くも1対49と圧倒的不利に立たされる赤組の赤矢・木下ペア。その時赤髪ツインテールが出した秘策とは?勝つのは赤組の泥棒ととっつぁんか。それとも金組のお姫様か。ところで松岡さんはどこ行った?

「降参しまーす」

 俺は木下に作戦の概要を紙に書いて伝えた(俺と木下は20メートル以上離れているので声で伝えるには大声になる。それが金組の耳に入ったら台無しだからだ)。そして現在体育館にいる。木下は体育館の外で待機している。体育館には大勢の女子が体育館のあちこちに立っており、こちらを見ている。そして同じく体育館には女子にやられ退場となった泥棒やとっつぁんが転がっていた。数は44人22組。確かに俺たちが最後の生き残りらしい。


 「生き残りは立花君でしたか」

 そう言ってステージの上から私がラスボスですと言わんばかりの立ち位置で声を掛けてきたのは、生徒会長関根蛍だった。


 「関根先輩…」

 「さぁ大人しくその子のハチマキを受け取って。そして返して」

 そう言った後、1人の女子が俺に近づいてきて、ハチマキを差し出す。女子は今にも俺に殴りかかってきそうな顔をしていた。


 「分かりました」

 そう言って俺は女子が持つハチマキに右手を伸ばす。女子は「ひっ」と悲鳴を漏らし、ハチマキを握る右手を震えさせた。まるで汚いものにでも触るかのように。後ろで見守っている女子の視線も一層厳しいものに変わる。ここまで拒絶されるともう立ち直れない。俺は言われた通り女子生徒のハチマキを盗る。

 

「さぁそれを返してください」

 関根先輩の言葉通り俺はハチマキを女子生徒に返す。ふりをし


 「今ですわ」

 赤髪ツインテの合図と同時にステージに向かって猛ダッシュをする。ステージ後方、つまり関根先輩がいるところまではおよそ50メートル。行けば間違いなく途中にいる女子にボコボコにされる。今のままでは。


 「了解です」


 「盗って盗って盗りまくるんですのー!三世―!」


 赤髪ツインテが謎の声援を送ってくるが今はそちらに気を配っていられない。なぜなら


 「きゃっ」

 「何?」

 「ハチマキがっ」


 俺は今全速力で周囲に転がっている泥棒やとっつぁんの死体を踏まないように気を使いながら女子のハチマキを盗んでいく。普通なら女子に返り討ちにされて終わりだ。だが


 「当たらないっ」

 ハチマキを盗られた女子が俺に反撃をしようと殴ってくる。だがしかし、女子が拳を振り上げた時には俺はすでに次の女子のハチマキを奪いに行っている。なぜなら


 (俺は今赤髪ツインテの力を8割与えられている)


 そう、今までは赤髪ツインテ女神の力を赤組の100人で均等に分けていた。それでは1人に与えられる力の大きさが小さくなってしまう。だが現在、その力の大部分を俺1人に分け与えることで人数差を覆している。


 (というか、女子の力が強く感じたのって分け与える人数が違うからじゃ)

 赤組は100人、金組は50人で分配する。つまり金組の方が赤組より2倍は強くなることになる。そりゃボコボコにもされるよ。誰だよこのゲーム考えたの。あっあの人だ。

 ステージ下にいる女子のハチマキはすでに盗り終えた。残るはステージ上の関根先輩のみ。


「これで俺たちの勝ちです」

 宣言をしてステージの上へ飛び乗り、関根先輩のハチマキを盗る。だがしかしハチマキを盗られたというのに関根先輩の表情に焦りはなく、むしろ余裕。まるでこれも予定の範囲内だというように。


「木下!今だ」

 俺は全ての女子をタッチし引導を渡す役目の木下を呼ぶ。木下は現在赤髪ツインテの力を2割与えられている。2割とは言え女子相手には十分な筈だ。

 

「?」

 だがしかし体育館入り口から現れて引導を言い渡す役割の木下はいつになっても現れない。その代わりに現れたのは


 「赤矢そこまでよ」

 「えっ!黄緒?」

 俺の姉、立花黄緒だった。黄緒は木下の体操着の襟首を掴み引きずっている。どうやら気を失っているようだ。


 「残念でしたね立花君。私たちに引導を渡す役割の木下君があの状態ではあなたたちに勝ち目はありません」

 そう俺に引導を渡す関根先輩。取りあえず木下が目を覚ますのを待たなくては。そう思い関根さんや他の女子から距離をとる俺。そうだ、俺は赤髪ツインテの力の8割。対して金組は美月の力を50人で分けている。このハチマキを奪い返されることも俺がボコボコにされることもない。しかし


 「さぁ後は私と黄緒に任せて休んでいてください」

 「そうね、この愚弟には私と蛍で十分だし」

 そう言って俺を挟むように立ちふさがる黄緒と関根さん。木下は体育館の外へと投げ捨てられた。

 

 「そうか、なら私もお前たちの真似をしよう」

 俺の頭の中にはただいま戦争中の相手、金色の女神こと美月の声が聞こえた。


 「真似って?」

 俺は不安になり、返事をしていた。どうかあれじゃないように。

 「決まっているだろう。私の力をお前の姉と生徒会長とやらに分け与える。2人にだけだ」

 万事休す。美月の力をたった2人に分け与えられてしまった。これでは全ての攻撃を木下が生き返るまでいなし続けるのが難しくなった。


 「女神さま、一時的に木下の分の力を俺に与えてください」

 俺は力を10割にして2人を迎え撃とうとする。だが赤髪ツインテからの返事はない。

 「女神さま?」

 俺の2度目の問いかけに対しやっと返事が返ってきた。


 「分かりました。ですが無理ですわ」

 赤髪ツインテの声には絶望的な色が見て取れた。

 「無理ってどういうことですか?」

 俺は意味が解らず質問をする。

 「お姉さまとわたくしでは実力が違いすぎます」

 「実力?」

 「えぇ、神が自分の力を分け与えるということ、それは全てが等しいというわけではありません。それは神自身の実力と分け与えられる量が物を言います。そのどちらもわたくしはお姉さまに遠く及びません」


 「分かったかパシリ。今までは遊んでやっていただけだ。最初からお前たちに勝ち目はなかったんだ。さぁ私の元に帰ってこい。調教してやる」

 高笑いを始める美月。本当に女神?魔王様ではないの?


 「なんだか力がみなぎってきた。さぁ覚悟は良い?赤矢」

 「恨みはないが男に嫌悪感を感じる。覚悟してもらいます」

 前後から黄緒と関根先輩が俺に向かってくる。今までとは段違いに速い。ハチマキを奪おうと攻撃してくる2人に対して俺は身を挺して奪ったハチマキを守ることしかできなかった。それに黄緒のハチマキはまだ盗っていない。赤髪ツインテの10割の力で戦う俺に対し5割の力の黄緒と関根先輩。だが間違いなく俺の方が劣勢だ。それほど美月の力が強いということだ。


 「はぁはぁ、赤矢そろそろ降参したらどう?」

 かれこれ10分は攻防が続いていたのだろう。いくらソフトテニスで鍛えているとは言え殴りなれていない黄緒にとって殴る動作は相当疲れるものだったのだろう。(フォアアンドストロークビンタは別)


 「そうですよ立花君。それにこのままでは時間切れであなた方の負けです。私たちはハチマキを奪われただけで退場はしていないのだから」

 確かに言う通りだ。金組は黄緒以外ハチマキを奪われてはいるが退場者は1人。残りは49人もいる。対して赤組は俺と気絶中の木下1組のみ。勝ち目はない。


 「さぁ諦めてハチマキを渡し、きゃっ」

 ハチマキを奪おうと俺に近づいてきた黄緒が退場となり転がっている泥棒に躓きよろけた。そのまま倒れないのはさすがだが、それが仇となった。


 「貰った!」


 黄緒は俺の腕が届く範囲で前のめりになっている。頭を下げる形で。だがしかし俺の右手が黄緒のハチマキに届くよりも早く黄緒が大勢を立て直す方が早かった。俺が伸ばした右手に黄緒が気づく。


 (クソッ間に合わない)

 そう思いながらも腕はもう止まらない。このままでは右手を避けられるどころかがら空きになった左腕にあるハチマキまで奪われて終わりだ。だがそうはならなかった。


 「あれ?」

 俺の右腕はそのまま黄緒のハチマキへとたどり着き正面から奪い取った。黄緒は動かず固まったままだ。なぜか顔が赤くなっているようにも見える。

 「黄緒?」

 俺は心配になり声を掛ける。もしかして神の力の副作用という奴か。聞いたことないけれど。強い力が代償なしに手に入るとは考えられない。俺がパシリになったように。


 「あんたは」

 「えっなに?」

 黄緒の声が小さくて聞こえない。

 「またあんたは私にこんなことして!私を辱めて何がしたいの!」

 「何のことだよ!?」

 訳が分からず聞き返す。実の姉に私を辱めて何がしたいのなんて言われると居心地が悪い。


「1度ならず2度までも私の前髪を掻き上げて!そんなにドラマの真似がしたいのか。それともただのヤ○○ンかっ」

実の姉からの驚くべき言葉が出てきた。俺が黄緒に何をした。それにドラマって何?


「いったい何のことだ!」

 「とぼけるな!あの朝、私の初めてを奪った前の日、私とあのドラマを見ていたでしょう!そのシーンを真似したじゃない。前髪のやつを!」

 「あらあら」

 私の初めてって誤解を招くような言い方をするな!関根先輩が勘違いしてしまったじゃないか。ん、前髪?

 

「あぁアレ?あれは練習で」

 「練習で私の初めてを奪ったのかぁ!」

 だから誤解を生むような言い方をするな。

 怒りで我を忘れている黄緒。どうやら黄緒の美月によって増幅された感情は俺に対する嫌悪感らしい。前よりも力が上がっているのが見てとれる。


 「吹っ飛べぇっ!」

 黄緒の右手、フォアアンドストローク(拳バージョン)が顔にクリーンヒットし、俺は数名の泥棒ととっつぁんを巻き込む形で開いていた体育倉庫へとぶち込まれる。まずい。追い込まれた。まさに体育倉庫が俺にとって牢屋となる。

 「追い詰めたぞ泥棒、捕まえてる」

 最早お姫様の言葉ではない。

 黄緒は俺を仕留めに確実に体育倉庫へ近づいてくる。今度は躓かないようにしながら。まさに絶体絶命。


 その時


 「待った黄緒。ここは私がやるから黄緒はステージ側まで離れて」

 「でもっ」

 「下がって、ね?」

 「うっ、わかったよ」

 俺の命の危機を感じ取ったのか関根先輩が黄緒を後ろに下げる。しかしあの状態の黄緒を従わせるとは実は関根先輩の方が強いんじゃないか。俺は恐怖でへたり込んだまま後ろへ下がる。


 ゴソッ


 その時、俺の背中に何かが当たった。どうやら一緒に吹き飛ばされてきたとっつぁんらしい。俺は女神の力を貰っているから平気だがこいつは素の状態だ。大丈夫なのか。死んでない?

 「とっつぁん?俺泥棒?これだっ!」


 「立花君、黄緒は後ろへ下がった。だから大人しく出てきて」

 その声には優しさのみが込められていた。関根蛍は100パーセントやさしさでできています。

 「断ります」

 俺は断る。ここで降参すれば俺の命は助かる。だがその先に待つのは想像も絶する調教のみ。それだけは避けたい。

 「そう、なら入るよ?」

 関根先輩が体育倉庫へと入ってくる。そこには1つの人影が。


 「あれ、君はもう退場しているんだから動いては駄目だよ?」

 だがその人影は言うことを聞かず関根先輩の隣を猛スピードで駆け抜けていく。関根先輩の肩をすれ違いざまに触れながら

 「しまった。あれはっ黄緒!」

 関根先輩が慌てて黄緒を呼ぶ。その間にも体育倉庫にいた人影は関根先輩にしたようにすれ違いざまに金組の女子生徒に触れていく。


 「きゃっ」

 「何?」

 「痴漢!」

 「どこ触ってるの?」

「触らないで」

 「変態!」

 「性犯罪者!」

 触れられた女子生徒が次々と罵倒してくる。神に誓う。肩以外には触れていないことを。

 そのまま人影はステージに向かって女子生徒の肩に触れていく。別にその人影の趣味ではない。そしてタッチしていない女子生徒もあと1人。ステージに腰かけていたその女子生徒は自分に向かってくる人影に気が付いた。


 「っく。誰?」

 自分に向かってくる人影を撃退しようと女子生徒こと黄緒が必殺技フォアアンドストロークを繰り出そうと右腕を後ろに引いた。そして振る。


 「おおおおおぉー」

 その人影は雄たけびをあげながら黄緒の攻撃を避けようと跳躍する。黄緒の攻撃は人影の足の下をすり抜け


 ポン


 その人影が黄緒の頭の天辺を軽く触れ、ステージに着地する。


 「あなたは誰!とっつぁんは木下君以外退場しているはず。その木下君もあそこで伸びている!ゾンビ行為は違反よ」

 そう言われその人影は振り返る。全てのお姫様へ引導を言い渡すために


 「赤矢っ!」

 そう、体育倉庫から飛び出してきた人影は俺だった。だが恰好は変わっていた。


 「何のつもり?あなたは泥棒でしょう。それなのにとっつぁんの格好なんてして」

 俺は今、茶色の帽子とコートを着ている。これは黄緒の一撃で一緒に体育倉庫に吹き飛ばされてきたとっつぁんから盗んだものだ。だって俺泥棒だし。


 「何のつもりって、競技を終わらせに来たんだよ」

 「無理よ、赤矢は泥棒役じゃない。いくらとっつぁんの衣装を着たって役割まで変えることは出来ない」

 確かにそうだ。泥棒は泥棒。どんなに着飾ろうと変わることは出来ない。俺がただの泥棒

だったのならば。


 「そういえば黄緒は知らないのか。俺がどんな泥棒の役をしているのか。この泥棒はね、3世なんだ。変装が得意な、ね」

 「そんな屁理屈通るか!ねっ蛍」

 黄緒は同意を求めようと関根先輩を見る。

 「確かに。それは屁理屈ともいえる。でも」

 関根先輩は一息置いて続ける。


 「この競技を考えたのは私。立花君はこの競技のモチーフとなった作品の特徴を捉え利用してきた。これを否定するのは製作者の傲慢と言えるわ」

 「そんな」

 悔しそうに下を向く黄緒。どうやら憎悪以上に負けた悔しさが強いらしい。そうでなければキャプテンは務まらない。


 「さぁ立花君。私たちの負けだ。引導を言い渡すといい。いいえ、あの方は何も盗らなかったわ」

 感情を込めて言う関根先輩。どうやら好きらしい。


 「いいえ、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」


 俺もとっつぁんになりきってそれに答える。周囲の女子が苦笑いだったのは俺の知る由もない。


 こうして体育祭最終種目「とっつぁんの名言」に決着がつき、体育祭は赤組の勝利で幕が下ろされた。


 「おっ姉さまぁ―」

 体育祭が終わったその夜、俺は余程疲れていたのかすぐに寝てしまった。そして直後に美月がいる天界へと飛ばされた。その最初に聞こえてきた声がこれだ。


 「遅いぞ。私1人では対処できん。お前も手伝えパシリ」

 美月にベタベタしているのは赤髪ツインテ。忘れていたが今回の体育祭は美月と赤髪ツインテの代理戦争で、赤髪ツインテ率いる赤組が美月率いる金組に勝利をした。つまり


 「俺ってもうパシリじゃなくなったんじゃ?」

 赤組が勝ったことで俺はパシリを解任、代わりに赤髪ツインテがパシリになったんじゃなかったっけ


 「ふん、確かにな。私は代理戦争で負けた。つまりこの赤髪を隷属することとなったわけだが、代理戦争時お前はこの赤髪の隷属。つまりは赤髪のものは私のものだ」

 なにそれどこの思想?○〇○○ニズム?


 「というわけですわ人間。あなたはわたくしの隷属としてお姉さまに尽くしなさい」

 嘘でしょ。つまり以前のパシリから、パシリのパシリに格上げですか。

 「それではよろしくな。パシリ」


松岡水乃まつおかみずのの戦争


 今日は私が通う高校で体育祭が行われる日。文化部である私は運動があまり得意ではないんだけれど、そんなには嫌いではない。でも

 

「こほん」

 

 私は風邪をひいている。熱が38度3分ある。これでは体育祭に参加できない。あぁとても残念だ。本当に。なので

 「漫画でも読もうかなぁ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ