そのいち
「ん~ふふん ふん ふふん ふん」
ボクは朝から上機嫌だ。
16歳の誕生日に念願の新型ゲーム機(VRマシンだ)を手に入れ
(品薄だったため幼馴染が苦労して見つけてくれた)
各ユニットを頑張って接続(機械オンチのため幼馴染がやってくれた)
ネット環境を構築(機械オンチのため同上)
各種設定を済ませ(同上)
ユーザー登録を済ませ(同上)
ゲームをインストールし(同上)
ゲームを起動するまでにたどり着いた。ゼンジありがとう。
ゼンジというのがボクの幼馴染で佐藤善治という名前である。
「さとう ぜんじ」では無く「さとう よしはる」である。ゼンジはあだ名だ。
今はキャラクター作成のフォローの為にマシンの外部端子にノートパソコンと
マイクをつないで待機してくれている。
本当に助かる。
ボク一人では絶対にここまでこれなかっただろう。
ゼンジは勉強もできるイケメンで性格も良い事から各方面からの誘いも多い。
それなのにボクとの遊びを優先してくれるのだ。
先週など女子に告白されたようなのだがどうも断ったらしい。モッタイナイ
「小泉君のほうがいいんですね・・・」とか言われていたらしいがそれはあらぬ疑いというものだ。
ちなみに小泉君というのがボクのことだ。
小泉明という。読みは「こいずみ あきら」だ
クラスメイトの男達からは「アキラちゃん」と呼ばれる。
ボクの身長が低いこともあってその呼び名は出来ればやめて欲しいのだがゼンジが昔からの呼び方じゃないと落ち着かないと言うのであきらめた。
クラスメイトはゼンジのまねをしているだけだ。
いくら童顔で背が低くても、筋肉質とはいいがたい身体つきでもちゃん付けで呼ばれれば男子高校生としてはちょっとへこむ。
小さい頃に近所に住んでいたお爺さんに教えてもらった体術?のトレーニングは今でも続けていてなぜか人の頭より高く飛ぶことができるがそれで筋肉がつく気配はまったくない。
まあ、お爺さんもすごいジャンプ力だったけど見かけはひょろひょろだったしね
それはともかくゲームだよゲーム!
ヘッドギアを装着してベッドに横になる。
手探りでスイッチを数秒間押し込み電源を入れる。
目の前が明るくなる。
面倒な登録は終わっているので選択肢の中から目的のゲームを選ぶ。
Phylogenetic tree online
系統樹という意味だそうだ。
現実に身に着けた経験とゲーム内のスキルを融合させて自分だけの技に進化させることが出来るという事でつけた名前らしい。
衝撃波を放つボクサーや音速で走るランナーなどなど
ボクの場合せっかくの体術を生かせることが出来たら面白そう。
屋根より高く飛んだり出来るのだろうか?
まあ、まずはキャラクターを作成しないと。早速作成画面に移る
『準備いいか?』ゼンジの声がする。
「うん、いいよ いつもありがとうね」
『俺がアキラちゃんとヤリたいだけだから気にすんな』「うん?・・うん」
『最初は種族からだな』「うん」
えーっと、何か面白そうなのはっと・・・ん?
「獣人族」おーなんかカッコよさそう
獣化能力と高めの格闘スキルが特徴か・・・・これいいな
獣化能力は何段階かの変身が選択できるみたいだな。段々と獣っぽくなるのか。
格闘は爪があるからかな?これは体術を生かせそうだ
「これにしようかな」
『いいのあったか?』
「うんこれ獣人族」
『へっ?!』
ん?
『俺こんなの見たことないぞ?』
「は?」
『ひょっとして・・・・レア種族か?』
そんなのがあるのか・・・・
「せっかくだからボクはこの種族を選ぶ・・・・・ぜ?」
『どうした?』
いや、性別が・・・・・・
「女?」
『女?』
有り得ない!自分本来の性別以外になるはずが無いのに!
明らかに胸がある。顔だけがボクから測定したデータを使っているのですごい違和感だ。不自然だと思う。
『すごいな。全然違和感がない。』ヤメロ!そんな話聞きとうない!!
「このマシン壊れてる。」電源を切ろう
『い、いやちょっと待てよレアだぞ?』ぴく
う・・・・レアか
『今電源切ったら2度と出ないかもよ~?』
「う~」
『能力は気に入ったんだろ~?』
「うう~~~~」
『ゲームなんだから気にすんなよ~~~』
「ううう~~~~~使う」
『何系の動物にすんの?』
「・・・・・オオカミ」
『おお~かっこいいな』
選択すると頭の上にピンととがった耳が、お尻からふさふさの尻尾が生えた。
これが通常の状態らしい。
『犬耳!イヌミミ!』
「オオカミ!」
もうこれでいいか・・・『待ていぃ!』 うるさっ!!
『胸が足りない!』いやいや何言ってんの?
『おーっぱい!おーっぱい!!おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱーい!おっぱーい!!オッパーーーーイ!!』
「やめろ!わかったからやめろ!!人の部屋で何叫び声上げてるの?!」
やむなくボクはスライダーを調整して胸を大きくする。
「ほら!」
『もう一声!!』
「くっ!じゃあこれで」
『・・・まあいいだろう』
「くっ」
ゼンジにお許しいただいたボクは残りの項目を決めていった。
『後は名前か・・・・』
「それは決めてある」
「ミン」と入力する。「明」の読み方を変えただけだが印象はだいぶ違うだろう。
決定ボタンを押す。
「このままゲームを始めますか? Y/N」
『一度終了してくれノート外したい』
そうだった。Nを選択して終了する。ヘッドギアを外してゼンジを睨む。
「そんなに睨むなよ。いい仕事したよ俺?!」
「どこが!」
「レアキャラを消滅させなかった!」
「む・・・・う」
「まあ、ぼちぼち帰るよ。小泉家もぼちぼち夕飯だろ?」
「もうそんな時間か」
ゼンジはパソコンをバックにしまいながら言う。時計を見ると間もなく7時だ。
「遅くまで悪かったな。一応感謝する。」
「一応かよ」
「オッパイ連呼で台無しだ」
「うむ、あの時は何かが憑いていたな」
ゼンジは立ち上がり部屋を出ていく。ドアが閉まる前に聞いてみた。
「憑いてたって何が憑いてたんだ?」
ゼンジはチラッとこちらを見ながら答える。「乳神様かな?」
食事・入浴その他を済ませゼンジと連絡を取り合ってゲームでの最初の町の広場で
待ち合わせる。向こうはこっちのキャラクターを知っているので向こうが見つけてくれるらしい。
何か視線を感じる。
なにかこう、ねっとりとしていると言うか絡みつくような感じであまり気分が良くない種類のものだ。
(ボクなんか変かな?)
そうだった。変だった。耳尻尾付きだった。
なんとなく居心地の悪さを感じていると人が近づく気配がした。ゼンジかと思って振り向くと多分知らない男だった。
「ね、ねえ君の耳と尻尾装備品?それとも生えてるの?」
まずはこんにちは位言えと思ったが、質問には答える。
「生えてます。獣人族というらしくて」
「レアか!!」
「ひっ?」
いきなり大声出すな!!驚くじゃないか!
ざわり、周りの雰囲気が変わる。え?え?なになに?
「ね、ねえ君一人?」
「いえ、待ち合わせているので」
「またまた~」
「いや本当で・・・」
「お~ま~た~せ~」
あ、今度はゼンジだった。おそいっ!
「ん?あんた誰?」
ゼンジが男を見ると男はすぅ~っと離れていった。
「なんか声を掛けてきた」
「なんだと俺のミンちゃんに?」
「お前のじゃない」
ゼンジは男の去っていったほうをしばらく見ていたがボクに向き直って
「行くか?」
「うん、よろしくお願いします。」
「よろしく~、じゃあ行こう」
2人で歩いて町の外に出る。出てすぐのところでネズミが数匹襲ってきた。
ゼンジが魔法で、ボクは右腕だけを獣化させてネズミを倒す。
ただ、獣化で腕が太くなったせいだろう
肘の少し上から指先まで毛皮に覆われた部分の袖が破けてしまった。あらら
「もう何匹か倒したら1度戻ろう」
ゼンジが言う。僕も賛成する。
ガサリ・・・ん?
ボクのオオカミの耳が何かの音を聞いた。何かが草をかき分けながらこちらに近づいてくるようだ。ボクの様子にゼンジもそちらを見る。
ガサリ・・・・ヌッ
現れたのは大型のネコ科の魔獣だった。ボクらの餌としての価値を判断しているのだろう。
ゼンジがとっさにそいつに拘束の魔法をかける。そしてボクは・・・・
獣化をもう一段進めることにする。両腕の肘から先と腰から下、首回りと肩甲骨の
辺りが毛皮に覆われる。
(なん忘れているような?)
ビリビリビリビリ音がする。・・・・そうだった!服が!!
焦りながら獣に拳を叩き付ける。反撃を食らいながら数発殴ると獣は静かになった。
「はぁ~、はぁ~、はぁ~・・・・」
獣化が解ける・・・このままだと丸見えなのでしゃがみ込む
服はおろかズボンも靴も全部破けてしまった。
どうしてこうなった・・・・・
手違いで何度も間違えて消してしまって心が折れるかと思いました