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遥かなる旅人
難破した船の残骸に紛れて
波打ち際に捨てられた木箱
色褪せたラベルの文字は
知らない異国の匂いがする
幾何学的な配列は原始の呪文
蓋を開けば南国の風が吹く
遠い昔の旅人が歩いた風景が
夢か幻のように詰まっていたらしい
時を超え遥かなる旅人は
理性と言う枷から解き放たれ
いま一度の自由に手を伸ばす
分度器で計った虹のアーチが
遠き水平線の向こうに足を延ばすように
船に揺られ海を渡り
時さえも越えて僕の許に辿り着いた木箱
蓋を開けば南国の風が吹く
腐りかけた果実の香り
スコールに濡れる熱帯雨林
大輪の花々が咲き競う
苔の絨毯に刻まれた獣の足跡
色鮮やかな鳥の尾羽が翻り
暫し原色の夢に酔う
蓋を閉じれば変わらない景色の中
僕は冬の海辺を後にする




