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叡智の壺
世界の始まりと終わりを記した書物を
君は知つてゐるだらふか
夢の抜け穴に紛れた旅人だけが
図書館の在処を知つてゐる
世界中の人の一生分の本の中に
真実は隠されてゐる
誰にも紐解かれず朽ちていく書物
書庫を守る盲いた番人は
白濁した眼に深い叡智を宿す
どふやら僕も夢のエアポケツトに落ちたらしい
沈黙を吸い込んだ埃は
赤い絨毯の上に音もなく降り積もる
窓から差し込む光に照らされて
深海のパアルスノウのやう
白茶けた紙とインキの匂いは
僕を何処へ導く
古びた皮の装幀は腐葉土の匂い
小さな一匹の紙魚 文字の羅列の隘路で
右往左往してゐる
世界も自分もこの小さな紙魚のやうに
時間軸のベクトルに縛られて
ただ当てもなく歩いてゐるだけなのか
誰かが埋もれた真実を探し出すその時まで
幻影の図書館は陽炎のやうに旅人を待ち続ける




