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水面の静
霧に閉ざされた早朝のロッジ
下生えの草は露を含んで頭を垂れていた
曇りガラスの木立の群れは白樺の林
鳥たちはじっと息を潜めている
辺りにはまだ夜の匂いが残っていた
濡れたスニーカーで落ち葉を踏みしだき
里程標もないミルクの中を漂った
孤独は時に心を癒す香辛料になる
眼前に広がる風景は さながらメインディッシュ
深い木々の奥に神秘の湖は眠る
それはまるで無地の便箋に落ちた青インク
沈黙を湛えた水面の静
浮き草の王座の上で銅像の蛙が
身動ぎせずに座っている
白いカーテンが時の流れに合わせて移ろってゆく
息を吸い込めば肺に満ちた濃い霧に中和され
僕は無音の世界の住人になる
天のお告げのような可視光線が湖を鏡に変えた
巨大な鳥が翼をはためかせれば
生まれた壁は黒板を撫でるように霧を消す
銅の蛙が瞬きして小石のように湖に沈む
静寂に鈴を震わせるような水の輪
啄木鳥がせわしなく朝を呼ぶ
魔法が解け ヴェールの剥がれた湖が
笑いながら朝の光を反射している