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タペストリー
祭り太鼓と笛の音が
遠い記憶を呼び覚ます
古い神社の縁日か
闇夜に浮かぶアセチレンランプ
お風呂上がりのベビーパウダー
浴衣の赤い金魚が袂で泳ぐ
りんご飴 白い綿菓子 カルメラ焼き
ザラメの焦げる甘い匂い
射的 輪投げ ヨーヨー釣り
露店に群がる人いきれ
子供の目に映る世界は
華やかで不思議に満ちている
見知らぬ大人は別世界の住人
不意に母とはぐれた私の手
迷子の不安に涙ぐむ
狐面の少年に差し出された腕
繋いだ指先の温かさは
今も覚えている
迷路のように賑わう夜店の通り
私は探検隊員のように少年と歩いた
母の私を呼ぶ声に気が付くと
隣には少年の姿はなかった
一言も言葉を交わさずに消えた
君の名を・・・知る術はない