お市の子
蘆名盛興は父である盛氏と共に織田の対応を考えていた
「父上、越後が落ちましたぞ。これで織田と隣接してしまいました」
暗い顔をして話す盛興
「最上も割れて内乱となっておる。織田に降るとなれば、家中が割れるな」
「いかがいたしまするか・・・」
盛興は心細い表情をしながら盛氏を見る
「織田には勝てぬ。信玄と氏康には面識がある。それを使い、織田に降ろうと儂なら思うが、当主として盛興はどう考える」
柔らかな表情をしながら盛興に話しかける盛氏
「降るのは、最早避けられませぬ。時勢の流れに御座いますれば、父上の考えにそいたいと思いまする。しかし家中の者が納得するとは思えませぬ」
覚悟を決めたような表情になり盛氏を見る盛興
「織田に降った後で内乱など起これば蘆名は潰される。掃除をしてからでなければ降れぬ」
目を閉じて思案したかのように話す盛氏
「粛清は私が致しまする」
覚悟を決めてそう話す盛興
「分かった。儂は織田に臣従する旨を書いた文を渡しておこう」
こうして蘆名は反織田派を粛清し、織田に降った
小野寺、戸沢は内乱が勃発して織田の侵攻により反織田派は全て根切りとなる
安東当主、安東愛季は小野寺と戸沢の仕置を目の当たりにし、自ら家中の引き締めを図ってから、織田に臣下の礼を取り、織田に降った
織田の苛烈な仕置きに葛西、大崎は伊達に助けを求めていた
その頃の伊達は当主輝宗に実権がなく、中野宗時、牧野久仲親子に握られていた状態であった
「輝宗様、大崎、葛西が我らに助けを求めております。織田との一戦止むなしと考えまする」
中野宗時は輝宗にそう迫る
「相馬と佐竹も我らの味方となる旨、文が来ておりますれば、悩む必要もありませぬ!」
牧野久仲も輝宗にそう迫る
「・・・・・・」
輝宗は目を閉じて思案していた。勝てるわけがない。最上はおろか、蘆名、安東まで織田に降ろうとしている。小野寺や戸沢の仕置き、いや奥州での反信長派の仕置きは苛烈に過ぎる。恐れで立ち向かおうとしても潰されるだけじゃ、いかにする
「輝宗様!伊達は足利将軍家より奥州を治めるようにと奥州探題職を賜った名家ですぞ!織田などと言う、成り上がり者に負けるなどありえぬ」
「そうじゃ!久仲よくぞ申した!それでこそ名家、伊達の家臣と言えよう!」
「当たり前のことでございます。はっはっはっ」
こうして伊達の援軍を得た大崎、葛西軍はお市の率いる織田軍と激突
最新の装備を揃えた織田の火縄に軍を崩され、武田の騎馬隊に蹂躙されて壊滅、そのまま大崎領、葛西領を蹂躙され、歯向かう者は女子供全て根絶やしにされる
命からがら逃げ帰った中野宗時、牧野久仲親子は大崎領と伊達領の国境にて輝宗が率いる軍勢に捕縛され、謀反の容疑をかけられ斬首された
その後、兵を国元に返して、輝宗自らが降伏の使者として、お市に会うべく、織田の本陣に向かっていた
「あたしに会いたいってあなたのことかしら?」
俺は胸に膨らみを帯びた男を見ていた
「奥州伊達家当主伊達輝宗に御座います」
輝宗は俺が来ると土下座をして頭を深々と下げていた
「伊達ですか、何用できたのです?織田に歯向かった以上、それなりの覚悟はあるのでしょう?」
俺は冷めたような声で輝宗に話す
「織田に逆らう家臣は全て粛清致しました。今の伊達には織田家に敵意を向ける者はもうおりませぬ・・・」
輝宗は体が震えそうになるのを必死で抑えていた
「ほう、そうなの?でももう遅いわ、伊達消そうと思ってるから」
その声を聞いた輝宗はあまりの恐怖に体の震えが止められなかった
そんな時、輝宗の懐に入れていた赤子が急に泣き出した
「えっ・・・」
俺は今までの冷めた心がとかされるような気持ちになる
「輝宗!あんた何を持ってきたの!」
輝宗は黙って懐から生まれたばかりであろう赤子を取り出した
「なっ!」
俺は完全に呆気に取られていた
「我が嫡男梵天丸といいまする。お市様より伊達家存続が出来ないのであれば、私とこの子が先に冥土に行かねば、伊達に住む民百姓に申し訳が立ちませぬ」
泣き叫ぶ赤子を抱きしめながら話す輝宗
「かしなさい!貴方、赤子を抱き慣れてないわね」
俺は輝宗から赤子を取り上げるとあやすように体を揺らした
「菩薩じゃ・・・」
輝宗は思わず、言葉が口からこぼれてしまう
「もう、この子のせいで台無しだわ。あなたにお灸を据えてやろうと思っただけなのに・・・」
俺は照れたように顔を輝宗から背ける
「では!伊達は助かるのですか!」
輝宗は期待と不安を混ぜたような顔で俺を見る
「助けるも助けないも、貴方の立場は事前に調べてあるわ。もう少し覇気が無いとこの子に笑われちゃうわよ」
俺は赤子の顔を見ると赤子は満面の笑みを浮かべていた
「精進致しまする・・・」
「但し、ある程度の減封は覚悟なさい!」
「心得ておりまする・・・」
俺が赤子を返そうとすると輝宗は拒否する
「その子はお市様に差し上げまする」
「なっ!何言ってんの!」
「人質ではありません、お市様の子にして頂きとうございます」
俺は赤子を見ながら思う
「そこまでの覚悟をしてきたのね・・・」
「伊達は大名として生きては行きませぬ。織田の完全なる臣下となる所存」
俺は赤子を見ながら輝宗に話し出す
「わかったわ、この子はあたしの子として育てるわ。何時か伊達の名籍を復興できるような子に育ててあげるから・・・」
俺は輝宗に笑いかけると輝宗も笑い返していた