毛利の覚悟
因幡攻略を先行して行っていた犬は、山名の支城を次々と落とし、鳥取城を取り囲んでいた
そんな犬の元に、織田本隊を率いた信長が合流していた
「お館様、大掃除終わりましたか・・・」
少し暗い顔をして話しかける犬
「うむ、終わったが、また市に重荷を背負わせたようじゃ」
「姫も覚悟の上でしょう、これで身内の不穏分子は一掃されましたな」
そう言って山名の本城である鳥取城を見ていた
「犬も中々に手際とよく洞察出来る様になったな」
信長は犬を見て、にやついた顔を向ける
「姫様に鍛えられておりまする」
「あやつらの中では、お主が一番長く市と共に居るからな」
困ったような恥ずかしいような顔をして犬は答える
「わたしにとって姫は、姉のようであり、妹のようであり、姫と共に居られる事の喜びは百万石の領地を貰うよりも良いものですから」
犬は取り囲んだ鳥取城を見つめながらそう呟く
「そこまで市に惚れたか!犬」
信長は茶化すように犬に話しかける
「惚れましたな、信長様にも惚れましたが、市様はまた格段でございます」
そう言って照れながら犬は信長を見た
「そうか、我も惚れておる、あやつが居なかったら、今頃、我は狂っておろう。我の理想を思いを、あやつは理解し、そして昇華させてくれる。わしの宝じゃ」
信長も照れた様にそう答えた
それから数日後、山名は降伏した
「徳川の叛意、見事に封じられましたな。これにより織田の領内は磐石となりました。」
そう言って苦しそうな顔をする隆景
「三河での仕置きも想像を絶する凄惨さと聞いておる」
元春も隆景と同じような顔をしていた
「次は毛利と上杉が狙われますな。といっても、もうそこまで織田はきておるがな」
そう言って笑う隆元
「兄上!笑い事では御座いませんぞ!父上の命にて播磨、備前に援軍を送らなかった事によって反織田派は悉く駆逐されておりまする!」
隆景は隆元に噛み付く
「わしの方も父の命により、月山富田城の囲みを解いて、出雲から全て兵を引き上げたのですぞ!山名ももう持ちますまい!」
元春も隆景に付随して噛み付く
「・・・・・・」
元就はその様子を見ながら一言も言葉を発しなかった
「元春は仕方ないとして、隆景までが分からぬか。よほど切羽詰まっておるの」
笑いながら隆元は話し出す
「何を言って・・・まさか!」
隆景は思わず、持っていた扇子を落とす
「そうじゃ、全ては父上と市殿の策じゃ」
隆元は元就を見る
「山名や播磨、備前を生贄になされたのか!」
驚愕した表情を浮かべ、元就を見る隆景
「そやつらだけではない、美作、備中、備後も捨てるおつもりだろう、父上は・・・」
少し暗い顔をする隆元
「なっ!長門、周防、安芸、石見だけで良いと申されるのか!」
元春が隆元と元就に噛み付いたように話しかける
「それですめばよいが・・・難しかろう」
「なっ!」
「・・・・・・」
元春は驚愕し、隆景は静かに思考していた
「反織田を纏めて炙り出した功績は表立ってはならぬ事柄、如何に収めるのかはわしのような凡人には分からぬがな」
隆元はそう言って下を向く
「ならば、早めに織田に向かわねばなりませぬな」
ようやく思考が終わったのか隆景が話し出す
「今の織田には誰も歯向かう事の出来ない国となった。毛利の行く末を考えれば速やかに下らねばならん」
「「「・・・・・・」」」
三人の子は静かに元就の言葉を聞いている
「わしに後10年、時があれば織田に対抗出来る国にする事は可能じゃ、20年あれば天下を取って見せよう。」
「「「・・・・・・」」」
三人は苦痛の表情を浮かべる
「しかし、我に時間が無い、織田の領土拡大は異常じゃ!もう少し遅ければ、尼子を下し、山名を取り込み、備後、備中、備前、美作、播磨を毛利の色に染めてたものを・・・無念じゃ」
元就の言葉を聞き、三人は下を向く
「お前達!これから申す事良く覚えておけ!織田が天下を治めても、それは信長の天下ではない、勘違いをするな!あの女子、お市の天下だとな!」
「「「御意!」」」
こうして元就と隆元は織田に帰参すべく、信長に会いに行くために城を出た
岐阜に着いた俺は信長からの使者により、急遽因幡に向かわねばならなくなっていた
「人使いの荒い兄様だこと」
俺はのんびりできると思っていたところを呼び出されて、少し機嫌が悪かった
「申し訳御座いませぬ、申し訳御座いませぬ」
そう言って平謝りし続ける男が俺の前に居た
「まっ毛利の翁が来るみたいだから、あたしも居たほうが良いとは思うけどさ」
俺は仕方ないかと思ってはいた
「失礼ながら一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
そう言って男は俺に話しかける
「んっ?何?良いわよ、わたしで答えれる事なら」
「直言の了承、有難う御座います、何故?毛利の翁が来るだけなのに、信長様だけでは不都合があるのですか?」
そう言って男は俺に質問した
「毛利の翁は多分織田に下るわ」
「えっ!」
男は驚いたような顔をする
「毛利は家を残したいと考えてるのよ、その為には武門の誇りとか体裁なんて無いでしょうね」
「そのような事が・・・」
男は困惑していた
「貴方、民を軽んじてるでしょ?」
「えっ・・・」
俺は鋭い目で男を見る
「今の武門の誇りとか体制なんて、あたしから言わせたら自己満足以外、何者でもないわ」
「・・・・・・」
男は下を向き、震えている
「弱き者を守るのが武士のいや、人の上に立つ者の役目だと思ってる、それを忘れて弱き者を苛めるなんて役目を放棄した者達よ。そんな奴らの誇りや体制なんて織田は許さない。だから織田は天下を目指すの」
男は気づいたように頭を上げ、俺を見る
「本来の有るべき姿に私は戻したい、民の上に立つ者は弱い者を守り、安心させる事が本来の役目、その者に仕える武士はそれを守らせるように動く、それが武士の本懐だとあたしは思ってる」
男は俺を見て涙を流しながら話し出す
「私を伝令役にと殿が仰り、お市様に会えといった意味がようやく分かりました・・・」
「そう貴方、名はなんていうのかしら?」
俺は男に優しく話しかけた
「尼子家臣、山中鹿介幸盛と申します」
「鹿之助って言うんだ、道案内よろしくね!鹿」
こうして俺は信長の元に向かった