暗躍
「わざわざ、出雲までお越し頂き申し訳ありません。尼子当主尼子義久で御座います」
下座から土下座をして深々と頭を下げる義久
「頭上げてくれる?丁度、西国を気にしてたから気にしなくていいのよ、毛利に押されてるんでしょ」
「お恥ずかしい限りで御座いますが、もはや挽回するのも困難と考えております」
そういって悲痛な顔をする義久
「簡単に言うわ、毛利に下る?織田に下る?」
尼子の家臣達がざわめく
「・・・・・・」
義久は苦痛の表情を浮かべて下を向いた
「出雲一国は安堵するわ」
「なっ!」
義久が頭を上げて驚く
「大名として存続させて頂けるのか!」
「存続はさせてあげる。ただし、条件があるわ」
義久は不安そうな顔をして俺を見る
「織田の政策に従ってもらう、それだけよ」
「織田の・・・」
「難しく考えなくていいわ、ただ民を蔑ろにする行為は武士と言えども処罰対象とするから、武士だからって偉そうには出来ないだろうけど、それでいいなら助けてあげる」
「何ゆえ、織田はそんなに民を大事にされる」
義久は理由が分からないとばかりに質問する
「同じ人だからよ!生まれた環境が違うだけで判断される。この世はおかしいわ」
「・・・・・・」
驚愕を受けたような顔をする義久
「貴方達が馬鹿にする民は貴方と同じ感情を持ち、切れば同じ血が流れるのよ。貴方が大事に思う人がいるように、民達にも同じ大事な人がいる。それを気付かせる為に織田は天下を目指すの」
俺は強い視線で義久を見る
「まだ気持ちの整理がつきませぬが、織田家の政策がそのような理由だったとは、この義久出来るだけ民を見て働くようにして参ります。その上で尼子は織田家に臣下の礼を取り、織田家の傘下にして頂いてもよろしいですか」
そう言って俺を力強く見る義久
「いいわよ、すぐに理解しろってのが難しいんだから、あなたのような答えが一番納得するわ。期待してるわよ!義久」
「はっ!」
義久が頭を下げると後ろにいた重臣達が皆頭を下げていた
こうして尼子は織田の傘下となる
その頃、三河の岡崎城で一人佇み、物思いに耽る男がいた
今川の全盛期と同じ三河、遠江、駿河の三ヵ国を有して大国となったがこれ以上の領土拡大は不可能になってしまった
尾張、美濃、信濃は織田の領地であり、甲斐は武田、伊豆は北条もはや徳川は、これ以上大きくはなれん
東国を任せると言った信長ではあったが、あの女狐の働きで完全に封じ込められてしまった
織田の為に活躍したとしても、領土移転で領地が増えたとしても、三河は捨てられん
それに織田の政策はわしの思うところではない
これが一番の問題じゃ、民など気にせずに、我ら武士が搾取していれば良いのだ!
それをあの者らは違う考えを持っている。民を大事にするなど考えられん!
お家よりも民を大事にする。その考えはわしの思う事ではない
しかし織田には逆らえぬ、この国力の差、信長と市、こやつらが面倒だ!
東国は上杉、佐竹、里見、蘆名、伊達、最上、安東、南部か
全て小物だが、全てが纏まれば手はあるように感じる
上杉、佐竹、里見はもう手を組んでおる。
後は奥州か、奴らも危機感は感じておろう
ここは裏から手を回すとするか、奴らが手を組めば、わしが奴らの影の盟主となれば良い
毛利からこの提案をしてくるとは思いもよらなかったが、毛利が織田を引き付けるとの約定もあるしな
油断したあの者らを消せればよい
奴らがいなければ、織田は勝手に瓦解する
しかしこの事は誰にも知られるわけにはいかぬ
「半蔵!」
「はっ」
「各大名に文を渡せ!この事、他言無用ぞ!」
せいぜい夢を見るがいい、最後に笑うのはわしだ!