武田の仕置き
信長の下に次々と東国の情報が寄せられていた
「武田が甲斐より兵を挙げて今川領駿河に侵攻を開始いたしました!」
「お館様!徳川様、今川を降伏させて駿河を平定しました!」
「武田、駿河薩埵峠にて徳川軍と交戦いたしました!」
「岐阜よりお市様率いる織田勢信濃に侵攻!砥石城落としたとの事!」
「武田、薩埵峠より撤退!徳川軍追撃し武田軍被害甚大!」
「武田信玄、砥石城に滞在していたお市様宛に降伏の使者が参ったようです!」
次々と来る、各伝令達の報告を聞いて、最後の報告を聞くと信長はため息をつく
「はぁ~あやつは、我が戦いたくないと思っていた、あの信玄すら手玉に取りよったか」
その顔は誇らしげな顔をして近くにいた十兵衛を見る
「信長様の妹君であれば、可笑しくはないかと」
「はっはっはっ、言うわ!あやつが男だったら、今頃我は市の下で働いておるやもしれんぞ!」
「またご冗談を、して武田の仕置き如何されまするか?」
十兵衛は信長を見ながら話しかける
「市に任せるとな、こちらも市に負けぬように気張らねばな!」
「御意!」
信玄は僅かな共を連れて俺に会いに来た
「お初にお目にかかる、武田徳栄軒信玄に御座います」
下座から土下座をして、深々と頭を下げて俺に挨拶する信玄
「信長の妹市よ、武田の仕置きは私に一任されてるわ」
そう言って信玄を見る俺
「沙汰を下すわ、信濃、上野は没収!甲斐一国のみ所領安堵!以上よ」
「くっ・・・」
下を向いたまま体を震わせる信玄
「でもそれじゃ、心穏やかにはなれないでしょ?」
俺がそう信玄に伝えると信玄が思わず、頭を上げた
「そっそれはどういう意味ですかな・・・」
「越後切り取り次第でどうかしら?」
「なっそれは!我に長尾を討伐せよと仰せか!」
「助勢はするわ、あたしね貴方の事、嫌いじゃないの・・・フフフッ」
「・・・・・・」
「貴方が行った裏切り行為や侵略は全て甲斐の貧しい民の為、それが分かってるから譲歩してるのよ」
「・・・・・・」
「本当は領地移転も考えたんだけどね、甲斐離れたくは無いでしょ?越後は飛び地になるけど、それでいいなら越後取るの手伝うわよ」
「何故、我らにそのお役目を下される?」
「将軍の御内書で動いてるし、織田の上洛要請も無視してるし、一番はあたし謙信嫌いなの!侵略して攻めた先の住人を奴隷にして連れ帰る。そのくせ、権威や義だのなんだと言いながら外面気にして、下の民を見ていない戦馬鹿ってのがあたしの見立て。信玄あんたは不器用だけど、ちゃんと人を見てる、人が大切だと知ってるだから手を貸すの」
信玄はそれを聞いて笑いながら話す
「はっはっはっ!越後の長尾は生涯の宿敵。その決着がつけれるとあらば心残りも御座らん。この年になり、誠の仕える人物に出会えた気がしますぞ、如何様にもこの武田お使いくだされ!」
「ありがと、信玄」
するとそこに二人の男が入ってきた
「信玄、その姫は人使いが荒いから気をつけるでおじゃるよ」
「そうで御座る、人として扱われないで御座るぞ」
そう言いながら雉麻呂と熊が入ってきた
「なっ!義元!それに義龍か!お主ら生きておったのか!それでか・・・納得したわ」
「すまぬのう、お主に駿河を取られると臣従しても危ういから策を弄したでおじゃる」
納得したのか信玄は頷いていた
「確かに駿河を手に入れていれば、心服することはなかったやもしれぬ」
俺は思いついたような顔をして信玄に語りかける
「それとね、信玄の子供にこの位の年の女の子いない?」
俺は膝に抱いていた奇妙を撫でながら話す
「はて?おりまするが、いったいその子は?お市様のお子ですかな?」
「あっこの子は兄様の嫡男で奇妙丸って言うのよ、よかったらこの子の嫁さんに貴方の子貰えない?」
「なっ!そのようなこと!勝手にお決めになってよろしいのですか!」
信玄はうろたえながら話す
「いいのよ、あたしは貴方を買ってるの!駄目かしら?」
信玄は深々と平伏し
「松という娘がおりまする、その子を奇妙丸様に嫁がせまする」
俺は頷きながら笑顔で話しかける
「じゃ松姫は頂いて帰っちゃうからいいわね!」
「御意!」
こうして奇妙の嫁さんも貰って岐阜に戻ったのだった