甲斐の落日
「姫、信玄が駿河に侵攻したがや!」
猿が真っ赤な顔をして俺に伝えに来た
「信玄も必死ね・・・」
俺は鶴と奇妙を膝の上に置いて本を読みながら呟いた
「姫様、戦に参るのですか?」
鶴が俺に話しかける
「叔母上、奇妙も一緒に行きたい!」
「奇妙様、それは姫様が困るので我慢されたほうが良いと思います」
鶴は奇妙に言って聞かせるが
「うるさい!鶴は黙っておれ!叔母上お願いです、戦が見たいのです!」
俺は奇妙と鶴をじっくりと見てから
「そうね、貴方達はいずれ織田の後を継ぐのでしたね、ならば戦とはどのような物か見るのもいいかもしれないわね」
「姫!それは不味いで御座る、初陣すらしていない幼子を武田との戦に連れて行くなどあぶのう御座る!某は反対でございます!」
熊が慌てて止めに入る
「そうですよ!武田は全国でも有数の強兵揃いですぞ!危険です!」
犬も慌てて熊と共に止めに入る
「あたし達の攻める信濃は戦らしい戦にもならないわ。信玄は駿河だけを見ている。織田が信濃に攻め入るとも思ってないでしょうし、駿河の国境を越えた時点で、相手にしてるのが今川ではなく徳川だと気付いた時点で信玄なら全てを悟ると思うわ」
俺は本を閉じて熊と犬を見る
「もし流れ弾で亡くなったとしても、それはこの子達に武運が無かっただけの事、過保護に育てても良き指導者にはなれないでしょう、ならば連れて行くことにしましょう」
俺はそう言って鶴と奇妙を連れて行くことにした
喜ぶ奇妙と真剣に望もうとする鶴
「奇妙、鶴、この戦で何を得て何を失うか、現実の戦を見に行きましょう」
俺は二人を見ながら呟いた
駿河では武田軍侵攻の報告が入ると氏真は重臣達を集めて評定を開いていた
「武田が盟を破り、侵攻してきた。如何にすべきか、皆の意見を述べてくれ」
氏真は重臣達の前でそう話すと
「お館様、武田に降伏をするしかないかと・・・」
瀬名信輝は降伏を進言
「何を言う、薩埵峠にて武田軍を迎撃するのがよいわ!」
朝比奈泰朝が野戦を進言
「北条に援軍の依頼をして館にて篭城が良いと思いまする!」
葛山氏元は篭城を進言
様々な意見が出ていたその時に二人の人物が広間に現れた
「なっばかな!」
「おおっ!!!」
様々な驚きで重臣達から悲鳴のような声が上がる
そして氏真が目が飛び出んばかりに驚きながら声を出す
「父上なのですか!!!」
それを聞いた雉麻呂が話し出す
「ふむ、そうでもあるがそうでもないでおじゃる、麻呂は義元であった事もあるが、今は雉出雉麻呂でおじゃる!」
そういうと重臣達は泣きながら平伏する
「これで今川は救われる!」
重臣達は希望を抱く、しかしそれを雉麻呂は打ち砕く
「徳川に降伏せよ、氏真」
雉麻呂はそう継げた瞬間、重臣達から悲鳴のような怒号が飛び交う
「皆の者!静まれ!父上が考えなしに、そのような事を言うと思うのか!静まれ!」
氏真は皆を静めた後で雉麻呂を見る
「氏真、もはや天下は織田により収まりかけておる。お主はわしと共に織田に仕官せよ。重臣達は徳川に下れ、徳川に下りたくない者は氏真と共に織田に仕えよ。お市様がお前の居場所を用意してくださる」
「・・・・・・」
氏真は泣きながら無言で雉麻呂を見ている
「お主は良く頑張った、武田、北条、徳川に囲まれ駿河一国を今まで守りぬいた。わしはお主を誇りに思う」
そう言うと氏真を優しく抱きしめた
「父上の言に従いまする・・・」
そうして駿河は徳川の支配下になった
武田軍が薩埵峠に差し掛かった時、信玄の元に伝令が走りこんでくる
「お館様、薩埵峠にて今川軍が布陣致しております!」
それを聞き信玄は今川軍に向かい攻撃命令を出す
「皆、武田の力、今川に思い知らせろ!かかれ!」
軍配を今川軍に向け振り下ろす
一進一退の攻防を見ていた信玄が異変に気付く
「何故じゃ!何故!葵の旗印があるのじゃ!」
信玄がそう叫んだ時、旗指物を背負った武者が信玄の前に現れる
「お館様!今川が徳川に降伏したとの事でございまする!」
「何!この信玄が踊らされたのか・・・」
軍配を地面に落とす信玄
「お館様!このままでは織田に大義名分が出来まする!撤退の指示を!」
信春が信玄に進言する
「早く甲斐に戻り、信濃を守らねば、織田が岐阜より攻めてきますぞ!」
幸隆が信玄に進言する
「撤退じゃ・・・撤退せよ!急げ!」
なんという事だ、このわしが手の平で踊らされるとは
武田が撤退を開始すると徳川の追撃を受けながら満身創痍で甲斐に戻ると伝令が走りこんで来た
「織田が岐阜より信濃に侵攻し、砥石城落ちまして御座います!」
信玄はその場によろけながら倒れていた
「降伏の使者を出せ、武田は織田に降伏する・・・」
わしは何に為に義信を殺してまで・・・無念じゃ