信玄
思った以上に家中が騒いでおる、義信すまぬ
我はお主よりも民を取ってしまった、甲斐は貧しい、侵略する事で奪う事で生きながらえてきた
織田がもうそこまで来ておる、今までのやり方では武田は潰される、今の織田に太刀打ちは出来ん、ならば譲歩を引き出すためにも駿河は必要だったのじゃ
信濃、上野は召し上げられても、駿河があれば甲斐は生きながらえる事が出来る
どうしても駿河を取らねばならぬ
時間がない、信長が北陸に行っている間に駿河を取り、織田に臣下の礼を取って甲斐、駿河の所領安堵を勝ち取らねば、義信を切った意味が無くなる
最後まで義信には我の心は伝わらなんだ、それが悔やまれる
「お館様、皆集まりまして御座います」
信春が信玄に話しかける
「皆集まったか、大儀である、これより兵を集め駿河を取る」
「お待ちくださりませ!まだ家中が騒いでおりますれば、いま少し待たれたほうが良いかと」
「馬場殿の言う通りに御座います!お館様、ご再考を」
幸隆が信春の言に追従する
「某も同意で御座います、今しばらくお待ちくださりませ!」
信春、幸隆、そして昌景までも同じ考えか、時間があればそうしたいが時間が無いのだ・・・
「お主等の言もっともじゃ、じゃが時間が無い、織田が来る前に駿河を取らねば武田にいや、甲斐に未来は無いのじゃ、わかってくれ」
そういって頭を下げる信玄
「「「・・・・・・」」」
三人は下を向いて体を震わせていた
すまぬな、信春、幸隆、昌景
「よいな!兵を集め駿河に侵攻致す、この一戦は武田の命運がかかっているとしれ!」
こうして三国同盟は決裂し、武田が駿河に侵攻を開始した
「これ門番、元康いや家康殿に会わせてもらいたいでおじゃる」
笏を口元に当てながら話す雉麻呂
「んっ?誰じゃお前は、怪しい奴じゃのう・・・」
門番は雉麻呂を見ながら話す
「雉麻呂様、そのような言い分では通して貰えませんよ。すまぬな、お役目ご苦労ではあるが、織田のお市様の使者が来ていると、家康様に伝えてはもらえぬか?」
そういって虎が代わって門番に話す
「えっ・・・織田、お市様!!!っしばしおまちを!」
門番はすごいスピードで走って城に向かっていった
「すごい速さじゃのう、さすがは姫様の名前よのう、麻呂はもう過去の人かのう」
そう言って雉麻呂は少しへこんでいた
雉麻呂達が案内された場所に徳川家の重臣達が居並んでいた
そして重臣達に動揺が走る
「あっあれは!」
「まっまさか!」
「そっそんな!」
口々に出る驚き、雉麻呂を見て目を合わさない様にする重臣達
「久しぶりでおじゃるな、家康殿」
そう言って家康の前に座る雉麻呂
家康は上座から降りて雉麻呂に席を譲ろうとするが
「家康殿、そのような事はしなくて結構でおじゃる、お市様の使者ではあるが正式には助勢に来ただけでおじゃる、気遣い無用におじゃる」
ものすごく気まずい顔をしながら家康は座り直した上で話し出す
「おっお元気そうで何よりで御座います、よしっ、いや雉麻呂様」
「そんなに構えなくても良いでおじゃるよ、重臣方も困るであろう?それに麻呂に様はいらないでおじゃるよ」
笏をフリフリしながら話す雉麻呂
そんな雉麻呂を見ながら皆は思う、お前が居れば皆困るわと
雉麻呂がその気になれば今川は復活する、そう思えば緊張してしまうのは仕方ないことであろう
「ご用件はなんでございましょう?」
家康は気持ちを切り替えて雉麻呂に話しかける
「武田が動いておじゃる」
笏を口元に当てて話す雉麻呂を見て家康の顔が真剣になる
「駿河を取りに動きましたか・・・」
「そこはまだ分からんでおじゃる、そちの手の者は仕入れてないでおじゃるか?」
「半蔵を呼べ」
「ここにおりまして御座います・・・」
雉麻呂の隣に突如あらわれた半蔵に雉麻呂は内心ビビッていたが悟られないように顔を作っていた
「探れ!」
「御意」
半蔵は家康からの命令に従い動き出した
「武田が動いたら麻呂も動くでおじゃる。信玄が義信を殺して駿河に侵攻すれば、麻呂が家康殿に駿河を取らせて進ぜよう。もし義信が信玄を倒したら、すぐに駿河を差し上げるでおじゃる。どちらにしても家康殿には損はないでおじゃろ?」
そう言って家康の顔を見る雉麻呂
「それでは今川が滅びまするぞ、それでも雉麻呂殿はよろしいのか!」
その言葉を聞いて雉麻呂はこう答えた
「麻呂は姫に惚れ込んでおじゃる、それに一度は死んだ身、今川などどうでも良いでおじゃる」
そう言って笏をふりふりする雉麻呂
「左様でございまするか・・・」
お家を第一と考える家康はその言葉を聞いて少し影を落とす
「家康殿、姫は弱い民を大切にされるお方でおじゃる。もし姫様の敵となるのであれば、容赦なく潰すでおじゃる」
雉麻呂は家康に殺気を放つ
「肝に銘じておきましょうぞ・・・」
そして家康の下に武田が駿河に侵攻したとの知らせが入る
武田の命運が揺れ動いていた