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お市の天下  作者: 女々しい男
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決断

俺たちは小谷に着き、城の中に入ったが、どうやら招かれざる客のようだ

以前、来た時と雰囲気が全然違うし、俺たちを見る視線に不安や殺気が混ざっている

家中が割れている、俺はそう感じた

「お犬に会いたいのだけど会えるかしら?」

俺はまず、犬に会って長政の様子を聞こうと思っていた

「お犬様は体調すぐれず、お会いできません」

俺たちを評定の間まで案内した男がそう言った

「ならば余計にお見舞いしたいのだけれども駄目かしら?」

俺は男を睨むように話す

「流行病にて、お市様に病がうつると大変でございますので、お連れする事は出来ません」

そういって男は拒否した

「そう、ならしかたないわね・・・長政殿はいついらっしゃるのかしら?もう随分と待たせられてるんだけど?」

「お館様は公務中にてお忙しく、代わりに前当主久政様がお相手されるとの事です」

そう男が俺に話した時に、初老の男が入ってきて上座に座る

「織田の姫がわざわざ、小谷までいらっしゃるとは何用ですかな?」

初老の男が威圧しながら俺を見る

「同盟国であり、妹お犬の嫁ぎ先である浅井家に、用件など無ければ来てはいけないのですか?」

俺は男を済ました顔で相手にする

「ほう、同盟国とな、織田はまだこの浅井を味方だと思っておるのか?」

男はにやりと笑いながらそう話す

「あらっ?違いましたか?」

「浅井は信義を重んじる!織田が朝倉に対して敵意を示している以上、織田との盟など無いに等しいわ!」

そう言いながら怒りをあらわにする久政

「勝てるとお思いか?」

俺は済ました顔で答える

「勝てるか勝てないかではないわ!多大なる恩が朝倉にはある!武士とは受けた恩は返さねばならぬ!女子供には分からぬ事よ!」

そういって俺に殺気を放つ久政

「なんて自分本位な言い草ですのね、あなた達はそれで満足でしょうが、それで弱い民がどれだけの苦しみを背負う事になるのか?考えた事がありますの?」

「民など我らの決めた事に従っておればいいのじゃ、我らは武門と信義を重んじる!お主の口車には乗らぬわ!さっさと織田に帰れ!盟は破棄いたす!」

久政は立ち上がり、顔を赤くして怒鳴るように俺に叫んだ

「それは長政殿も同じ考えと思ってもよろしいのですね?」

そう話した時に男が入ってきた

「そうです、お市様・・・」

そういいながら長政は俺を見た

「そう、残念だわ、あたしも兄様も見る目が濁っていたわね、長政殿は民を取るお人だと思っていたのに・・・」

俺はやはりそうなるのかと思っていた

「信義、武門を重んじればこその決断に御座います」

「ふっ、信義?武門?そんなの方便よ!ただの自己満足よ!己の事しか考えていない!民の事など考えていない!そんな奴らとの同盟など、こちらから願い下げよ!やっぱりあんたにお犬を渡すんじゃなかったわ!」

俺の目から涙が流れていた

「・・・・・・」

長政は俺を静かに見ていた

「ありがとう、あんたのおかげで、私はお犬や甥っ子すら殺さなければならなくなったわ、織田は味方であった者の裏切りに容赦しない!民を踏みにじる者は身内であっても容赦しない!そうしなければ民は納得しないのよ!民の為に動くからこそ今の織田がある!乱世が終わるまでそれは変えられない!」

長政は驚愕した顔で俺を見る

「なっ!」

「甘く見るなよ、長政!今度はどんな異名があたしに付くかとても楽しみだわ!せいぜい足掻きなさい!民意を失ってまで選んだ貴方の信義とやらの為に付き合わされた泣き叫ぶ民を見て・・・そして後悔しろ!」

俺は長政を睨みながら席を立とうとした

「お市様、今しばらく・・・いましばらく返答はお待ち願えないか・・・」

長政は俺を見て話し出す

「そんなに待てないわよ、でもぎりぎりまでは待ってあげる、いい返事を期待してるわ・・・」

多分長政はお犬や子供達を何処かに逃がすつもりなのだろう、そのための時間が欲しいのだと

「長政!何を言っている!今すぐその者らの首を切れ!皆の者!こやつ等を切り捨てよ!」

久政が喚く、そして浅井の家臣たちが俺たちを取り囲んだ

「姫!」

そういって熊が俺の前に出て守ろうとする

犬も鴉も俺の周りを囲む

そこに一人の男が割り込んでくる

「何と愚かな!お主等、浅井を滅ぼすつもりか!長政様、やはり情に負けたのですか!お市様いや織田は民の為ならば親族すら容赦しませぬぞ!民の笑顔を見るためにも織田に付かねばなりませぬ!今一度お考え直しくださいませ!」

「直経・・・」

「今しばらくの猶予をお市様より頂いたのは、お犬様やお子等を逃がす時間でしょう、そのような事ではなく、しっかりと考えてくださりませ!皆の幸せになる事を選んでくだされ!」

直経は長政の前で土下座し深々と頭を下げていた、暫く長政は悩んでから話し出す

「わかった直経、父上を捕らえよ・・・皆の者、刀を鞘に収めろ!」

「御意!」

長政は直経に久政を捕縛するように伝える

「なっ長政!お前は父を浅井の信義を捨てるのか!ながまさぁ!」

久政は直経に縛られて連れて行かれた

「お市様、数々の無礼申し訳御座いませんでした」

長政は上座から降りて土下座をして頭を下げた

「いいのよ、貴方達を皆殺しにするよりましだわ・・・ふふふっ」

そう言って俺は笑った

「正直この長政、肝が冷えまして御座います」

そう言って俺を見る長政

「これより浅井は織田家に臣下の礼をとり、織田家に臣従いたしまする」

長政はそう言って頭を下げた

「有難う、長政・・・後悔はさせないわよ」

こうして浅井も織田に服従した


「市、手をかけさせたの」

そういって信長が俺に話しかける

「いいえ、お犬を悲しませたくはなかっただけですわ」

そう言って俺は庭に出た

「朝倉はもう終わりじゃ、後は西国、四国と武田だな・・・」

そう言いながら信長も庭に出た

「もう少しですわね、それから天下を治めたらどうします?」

おれは信長を見ながらそう話す

「そうじゃのう、市と共に世界を見て回ろうかのう」

「それはいいですね、でもその時はお爺さんとお婆さんかもですよ」

「それもいいではないか・・・はっはっはっ」

「そうですわね・・・ふふふっ」

俺たちは久しぶりに心から笑っていた

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