お濃
今、俺は猛烈に勉強している。
兵書や医学書と呼ばれる物から、ありとあらゆる書物を部屋に広げ読み漁る
領内の寺社にいる高僧や神主を呼び、問答を繰り返し打ち負かし、とうとう尾張の竜玉と影で言われるようになった
平成の学問もそれなりに覚えていた俺は、なんとか嫁に出されないように努力した
そうこうするうちに、尾張の北にある美濃と、同盟が結ばれることとなった
同盟終結の為、兄様と美濃の姫お濃様と結婚した
俺は兄様に呼ばれ、お濃様と会うことになった
「これがわしの妹の市じゃ」
兄様は隣に座る女性に俺を紹介する
「お初にお目にかかります、兄信長の妹市にございます」
俺は兄様の隣に座る女性に挨拶をした
「こちらこそ始めまして、美濃の斉藤道三が娘、お濃にございます」
濃は市を前にそう語りながら頭を下げた
兄様はなにやら恥ずかしいのか、常にもぞもぞ動いている
「兄様、お濃様が美しくて、心穏やかになれないのはわかりまするが、もう少しどっしりなさりませ!」
「なっ!!!」
真っ赤になりながら否定しようとする信長を市は冷めた目で見つめる
「ほほほっ、さすがは尾張の竜玉ですね、マムシと呼ばれた父道三に気に入られた信長様を、こうも簡単にあしらえるとはなかなかできませんよ」
笑いながらそう言うお濃を見て、市はこの女なかなかやると心に刻み込む
「そう言えば、お市様は嫁に行かず織田家の武将になりたいとか?まことですか?」
顔は笑っているが目は笑っていない濃が市に問いかける
「はい、わたしは兄様の覇道を支えたいのです!」
その答えを聞いた濃は言葉を返す
「信長様の助けになりたければ、他国に嫁に行き、信長様の助けとなればよいではないですか。男では出来ない女だけの役目もあるでしょう」
濃はしっかりと市を見つめながら、厳しい視線を向ける
「それもあるかもしれませぬ」
市は少し下を向いてそう答えた、それを好機と見た信長が動き出す
「濃の言うとおりじゃ、市がわしの為にと他国に嫁に行けば、わしも助かるし、それは女子にしかできんことじゃ。ということで武将になるなどと言ってくれるな市」
これでなんとかなるかも、と思った信長に冷たい市の視線が突き刺さる
「たしかにお濃様のお言葉もっともにございますが、わたしは兄様の覇道を一番近くで見て、関わりたいのでございます。他国に、いや嫁などにいきたくはありませぬ」
どうあっても引かない強い意志をもった目で濃を見る市
それを見た濃は優しい目になりこう呟いた
「信長様のおそばに居たい気持ち、濃にはよくわかりまする。もし兄義龍が信長様のようなお方であれば、わたしも兄義龍の武将になりたかったでしょう。これでもマムシの父上に、おまえが男であればと嘆かせたのですよ」
見えないでしょ、とでもいいたげな目で市を見る濃
「でもわたしは女でよかったと思います。信長様の一番近くに居れるのですもの。いつかお市様が、この方と思われる方がいらっしゃるかもしれませんね」
そう微笑む濃に対して市は
「兄様以上の方は天下ひろしといえおりませぬ!!!」
そういう市に信長は何もいえなくなってしまう
「お市様が行こうとなさる道は、信長様の覇道よりも険しいかもしれませんよ」
またしても厳しい目でいう濃に対して市は
「望むところです、お濃様は私の味方になってくれるんですもの、誰にもまけませぬ」
強い視線を濃に向けながら微笑む市
「なんとまぁ剛毅な姫だこと、でもあたしは気に入りました。いつでも遊びにきてくださいね。お市様」
優しげに微笑む濃
市を支援するよき理解者が一人出来た瞬間であった