分岐点四
「姫様、甲斐武田が揺れておるがや!」
「信玄と義信が不仲にでもなったのかしら?」
俺が猿にそう伝えると猿は驚きの表情のまま話し出した
「なっ!どうしてそう思ったがや!この情報は極秘に近い内容だったはずぎゃ!手に入れるのにどれだけ苦労したきゃ、姫様にはもうかなわんだぎゃ・・・」
「ちょっと考えたらわかるわよ、信玄は裏切りの常習者よ、この乱世の申し子とも言える位にね、弱った敵に情けなどかけない!」
「・・・・・・」
「どうせ弱った今川を潰そうとしたのでしょ?それに息子が反抗したってところかしら?」
「そうだぎゃ、姫様には分かってたのきゃ?」
「わかるわよ、武田の領地で暮らす民は貧しいわ、それに海も無い、喉から手が出るほどに海を塩を欲してる、日本海方面の海は上杉がいて簡単に手に入らない、ならば駿河を取ろうと信玄が考えるのは直ぐに読めるわよ」
「海が欲しいなら三河や遠江でもいいんでないきゃ?」
「徳川には織田がついてる、信玄はもう織田には敵わないと悟ってるわ」
「なるほどだぎゃ・・・」
猿がそう言って納得している所に雉麻呂が現れた
「姫様、麻呂と虎が徳川の助勢に行ってもいいでおじゃるか?」
「いいけど、徳川に駿河取らせる気ね」
俺は雉麻呂を見ながらそう呟いた
「駿河を武田に取られると面倒でおじゃる、徳川も武田と織田に囲まれてどうにもならなくなるでおじゃる、それなら徳川に取らせた方がましでおじゃるよ」
「わかってるだろうけど、武田が今川との盟を破って駿河に侵攻してから手を回して頂戴ね、あと無いとは思うけど、信玄が義信にやられて当主が変わったらすぐに駿河を手に入れさせなさい!」
「それも考慮してるでおじゃる、そんなへまはしないでおじゃるよ」
「信用してるわ、雉麻呂!行ってらっしゃい、信玄の驚いて焦る顔が見れないのが残念だけど、でもいいの?今川が滅ぶ事になるわよ・・・」
「いいでおじゃる!氏真の器量が及ばなかっただけでおじゃる、もし姫様の情けがあるなら捨扶持をどこかにもらえて、家名だけでも繋がるでおじゃろう?」
そういっておどける雉麻呂
「当たり前じゃない!氏真の領地運営は評価してるのよ、捨扶持なんて言わず、織田の領地運営の中枢の役職を与えるわ!」
俺は微笑みながら雉麻呂を見る
「ほっほっほっ、流石姫様でおじゃるな!よい手土産ができたでおじゃる!では姫様行ってくるでおじゃる!虎、行くでおじゃる!」
「はっ雉麻呂様!では姫様、私も行って参ります!」
そういって二人は家康の下に向かった
「じゃ、あたしは長政の所に挨拶に行くとしますか・・・」
少し影を見せながら俺は立ち上がり呟くと、猿が顔を上げて俺を見ながら話し出す
「それは駄目だぎゃ姫様、長政殿の父である久政殿に不穏な兆しがあるだぎゃ、危険だぎゃ!姫様に何かあれば大変だぎゃ!よすだぎゃ!話すなら呼びつけた方がいいぎゃ!」
猿は慌てて俺を行かせない様に忠告する
「呼び出したら不信感を煽っちゃうわ、これで分からなかったら、あたしも覚悟が出来るもの・・・」
「それならおらも付いて行くぎゃ!それと護衛を増やして欲しいぎゃ!でないと信長様に怒られてしまうぎゃ!」
必死になって俺に話す猿
「護衛は熊と犬だけでいいわ、猿は奇妙と鶴の面倒見てて」
「なっ!」
「それとあたしに何があっても兄様を暴走させないでね」
「承知出来ないぎゃ!姫はどれほど危険か、わかった上でやるのきゃ!」
猿は泣きそうな顔で俺を見る
「任せたわよ猿・・・」
俺はそういって微笑んだ
城を出て暫く行くと大きな石の上に座って銃を背負った男がこちらを見ていた
「姫さん、あんまり無用心すぎじゃないかぁ?」
そういって俺に向けていた視線をそらした先には、事切れた数人の男達がいた
「あんたがやったの?鴉・・・」
「姫さんを狙ってたからな、姫さんの安全は上人さんからの願いでもある」
「あんたまで来ちゃったら、長政が警戒するわ」
鴉は頭をかきながら照れた様に俺に話し出す
「俺が好きでしてることだ、それに姫さんの回りには伊賀と甲賀の忍びがいるぜぇ!姫さんは気付かないだろうが、そこの二人は気付いてたんだろうけどな」
俺は驚き、回りをきょろきょろするが全然わからん
「姫さん、あんた一人の命じゃもうないんだぜぇ」
少しの静寂の後、俺は鴉、犬、熊を順番に見てから話し出す
「あんた達しっかり、あたしを守りなさいよ!」
「「「御意!」」」
俺は空を見て誰にも聞こえないような小さな声で悲しく呟く
「長政、あんたはどちらを選ぶのかしらね・・・」