執権
「兄様、十兵衛からお聞きになりました?」
「公方の事か?」
「あらっ、お耳が早い」
「公方には目を光らせておるからな、どう動くと思う?」
「間違いなく、朝倉は動きますね。それに合わせて周辺の国も織田に敵対するかと・・・」
「・・・・・・」
「そこで公方に兄様を執権にするように要求致します」
「なに!執権じゃと!」
「はい、鎌倉に幕府が置かれた際、使用された役職です。それを復興させます」
「我は力による天下布武を掲げておるのだぞ!そのような役職など不要じゃ!それに執権とは管領の意味と同意義ではないか!管領ならばもう断っておる!」
「管領と執権は同じ意味で将軍の補佐ではありますが、実際は管領と執権の違いは行われた政治体系で違う事は歴史を見ても明らかでございます。それを利用いたしまする」
「我は義秋如きの下に付くつもりもないわ!」
「飾りの公方であり続ければ、今のままでもよかったのですが、飾りではなく動き出そうとしており、まだ世論としても将軍としての地位と名声は少なからず残って御座います」
「それはそうじゃが・・・」
「今の将軍が動けば、敵にならなくて良い者も敵になりまする!なので執権を使い、将軍の力である地位と名声を吸収します!」
「なっ!吸収じゃと!」
「兄様の意地と天下安寧はどちらが大事なのですか?民を泣かせないと言うのが根本にあるからここまで来れたのです!ならば一時の執権になる事も良いではないですか」
「・・・・・・」
「大義名分も手に入りまする。それを手にした上で敵に回った者を武力にて鎮めます、将軍とて例外ではございません・・・」
「市!お主のしたいようにして見よ!」
「兄様の悪いようにはいたしませぬ・・・ふふふっ」
後日、俺は義秋に会いに行った
「なに?信長を執権にせよと申すのか?執権とは管領の事ではないのか?管領ならば信長は断ったではないか?」
頭を傾げながら俺を見る義秋
「力の無い管領など要りません、力ある執権を望んでいるのです」
俺は馬鹿にしたように義秋に話しかける
「なっ!それは予を飾りにすると言っておるのか!」
「そう聞こえたのならそうとってもらってもよろしいですよ」
俺は口元に扇を当てながら目で威圧する
「そんな事は認めんぞ!断じて認めぬわ!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす義秋
「認めなければ、どうなるのでしょうね?」
俺はキョトンとした顔をして義秋を見る
「予を愚弄するのか!」
「巷では私の事を何と呼んでいるのか、ご存知ですか?」
「なっ・・・」
真っ赤にしていた顔が一瞬で真っ青に変わる
「ご返答は如何に?」
「・・・好きにするがよい、信長を執権の職に就ける」
「ご英断で御座います、公方さま・・・フフフッ」
この人事は直ぐに俺の指示で全国に広まった
「藤孝!今すぐに文を各大名達に送れ!すぐにじゃ!あの女狐と信長に思い知らせてくれるわ!」
真っ赤な顔をして怒りながら指示する義秋
「畏まりました、すぐに手配致します」
足利幕府も終わるのか、それも定めであろう
義秋に平伏しながら藤孝は心の中で思っていた