顕如の決断
先ほど来た、姫さんの言葉が胸に残っている
私は気付かないうちに、現世で幸せになる事を諦めていたのかもしれない
この乱世が終わることなどないと、姫さんの言う通りや
うちらは迫害を受け、その時、その時の権力者に翻弄されてきた
自らの気持ちを押し殺し、服従し、そして嫌になり武器を持った
始めは自らを、そして弱い民達を守るつもりで武器を持った
弱い我らはただ搾取されるだけだったからだ
誰も守ってくれなかった。そんな我らを守ると言い切った、あの姫がどうしても気にかかる
何故だかあの姫に賭けてみたい。そう思ってしまう、不思議な方よ
しかし武器を捨てる事を私一存では決めれない
この乱世で私服を肥やし、その甘みに快楽に溺れてしまっている僧侶達が邪魔だ
いかにすべきか、下手をすれば本願寺は割れる
もっとあの姫と腹を割って話がしたいものだ
これほど私が悩んでいる事も、あの姫さんならすぐに答えを出して、行動しそうなのが目に見えるようで笑えてくる
「上人さん、なんかいい事でもあったのかい?久しぶりにそんないい笑顔を見た気がするよ」
背中に火縄を背負った男が顕如の前に現れた
「孫市はんか、なんか憑きもんでも落ちたかのように気分がいいんや」
顕如は孫市を見ながら笑顔で話す
「そうかい、そんなに織田の姫さんはお気に召したんか?」
孫市は顕如の笑い顔を優しく見つめながら話す
「夢を見させてくれそうな方やったで・・・フフフッ」
「そら俺も会ってみたいな!」
「孫一はんの好きそうな方やったで、えらい別嬪さんじゃったしの」
顕如は孫市を茶化すかのように話す
「ほぉ~そんな別嬪さんかい!」
孫市はびっくりするような顔をして話す
「そうや、観音さんの生まれ代わりって言われても納得してしまうほどやで」
「そら大層なほめ言葉じゃのう、上人さんがそこまで言う女子か!かなり手強そうじゃのう」
「そやな、敵に回せば本願寺消えるやろな・・・」
顕如は不安な顔をして孫市を見る
「怖いなぁ、観音さん裏返れば羅刹とはねぇ。まっうちら雑賀は上人さんについてくだけや、地獄まででもな」
孫市は真剣な顔をして顕如を見る
「ちぃとばかり、大掃除しなきゃならんのだけど、手伝ってもらえるやろか?孫市はん」
真剣な顔で孫市を見る顕如
「ええょ、まかせときな!」
おどけたような顔をしながら目は真剣に顕如を見ている孫市であった
「市、石山本願寺に行ったらしいの?」
「はい兄様」
「お前の目に顕如はどう映った?」
「乱世を憂えてる人だったよ。生臭坊主じゃないねあいつは、不器用そうだけど」
「そうか、矢銭でも取ろうかと思ったんだがな」
「止めた方が良いかと、それより民に施せと言ったほうがいいわ。彼らに道や水路、橋とか作らせた方がいいと思うわ」
「本願寺内部で反発もあるだろうな」
「それはあるでしょうね、乱世で甘い汁吸った者達からいえばね」
「割れるぞ、本願寺」
「割れたら生臭坊主を潰すだけ、潰すもの残すもの考えないとね。敵ばっかになっちゃうもん、兄様は不器用だからねぇ。あたしが補うだけよ」
「フフフッ、偉そうに言いよるわ」
俺たちはお互いに笑いあっていた