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お市の天下  作者: 女々しい男
30/62

顕如

信長が近畿内の三好方の残存勢力を駆逐していた、そんな頃

「弾正、散歩行こうか!」

「散歩ですかな?それはまたどちらに?」

「石山本願寺まで・・・フフフッ」

「これまた難儀な場所に行かれまするな・・・ホッホッホッ」

「どんな答えを出してくれるか、楽しみじゃない?」

「姫には適いませぬな、ぜひご一緒しましょう!」

丁度良い、私の目に狂いはないか?そこで見極めさせて貰おう


「お初にお目にかかります、織田上総介信長の妹市と申します」

俺は深々と頭を下げた

「本願寺第十一世顕如です、わざわざこの様な場所に何用でしょうか」

やわらかな微笑をしながら問いかける顕如

「単刀直入に言うわ。武器を捨て、本業に戻らない?」

俺は強い視線で顕如を見る

「それはまた難しいことをおっしゃる」

困ったような顔をしているが、目は鋭い視線で俺を見る

「そうね、今すぐは無理でしょうね。この乱世長く続きすぎたもの」

「そこまでお分かりであれば、無理だと承知いただけるのではないですか?」

冷めた顔をして俺を見る顕如

「この石山はまるでお城ね。ここまで通される時に見たけど、質の良い調度品ばかりね。さぞかし儲かってるのでしょうね?」

俺は辺りをキョロキョロしながら顕如に話しかける

「・・・・・・」

顕如は黙り込む

「あなた現状のままでいいの?未来永劫に続く乱世を求めるの?」

俺は顕如の目を見ながら話す

「そのままで良いなど思ってはおりません。この乱世終わるのならば、終わらせたいと思っております」

顕如の目に不安や動揺が現れていた

「それは本音かしら?乱世が続けば、民は安らぎを宗教に求めるわ。あなた達からしたら好ましいことでしょ?」

「・・・・・・」

顕如は目を瞑り、黙り込む

「あなたが本当に民の為に乱世が終わり、平和な安寧が来る事を望むのならば、あたし達の邪魔はしないで頂戴。でなきゃ潰すわよ本願寺!」

俺は顕如を強く見つめる

「やれますかな?仏を敵に回しますかな?そのような天魔の所業を」

顕如は目を開き、俺を睨み返す

「彼が私達の元にいる事が答えかしら?」

そう言って弾正を見る俺

「東大寺を燃やす様な事もする覚悟が有るという訳ですか」

顕如の瞳に不安と怯えが現れる

「神仏を敬わないという気持ちは無いわ。それに仕える僧侶が、数珠を持たずに刀を持てば、それは武士と同じよ。同じ武士なら仏罰なんて無いわ」

「・・・・・・・」

顕如は目を瞑り、黙り込む

「あなた達の中で、本当に民を思う僧侶がいるのかしら?この乱世で傷ついた民を騙し、私服を肥やして、贅沢をして、危なくなれば民を扇動して戦わせる!血と涙を流すのは、何時でも弱い民だわ!あなた達はただ指示して高みの見物!」

「・・・・・・・」

顕如は目を瞑り続け、沈黙している

「本分に戻りなさい。争う術を持たないものは滅ぼされる乱世の為に、あなた達は槍や刀を持った事。それは仕方ない選択だったとあたしも思うわ。あたし達は乱世を終わらせる!それを邪魔するのなら仏敵と罵られ様がかまわない!私は民の末永く続く笑顔が見たいの!」

俺は沈黙する顕如に向かって叫ぶ

「それは夢幻ではございませんか?人はそれぞれの欲があります。あなた方にそれは無いと言い切れるのですか?騙し騙され、この世は地獄。あの世にしか安寧はないかもしれませんよ?」

目を開き強い視線で俺を見る顕如

「この世で幸せとなる努力もしないで、死んで楽になろうなど傲慢だわ!この世が地獄なら、変えて見せなさい!顕如!武力を使わずにやりなさい!それがあんたの本来の仕事でしょ!この日の本の乱世という地獄を、極楽に変える為にあなた達は武器を捨てなさい!あたし達が片付ける!重税に苦しむ民や虐げられた弱いもの達をあたし達は守る!」

俺と顕如の視線が交差する

「そのこと信じられましょうや?」

「信じられないと言って敵対すれば、何万何十万の民を殺した真実の仏敵はあなたになるだけよ」

「・・・・・・・」

顕如は再び目を閉じて、黙り込む

「あたし達の治めた領地だけで、今はかまわない。武器を捨てなさい!ただそれだけを忠告しにきたわ」

「この顕如、良く考えてお答えを出しましょう」

目を開いて俺を強く見つめて話す顕如

「いい返事待ってるわ、あたしあなたの事、嫌いじゃないわよ・・・フフフッ」

俺はそんな顕如を見て微笑みながら話す

「これは参りましたな。あなたの仰る事が誠なら、この顕如いくらでもお力をお貸しいたしましょう」

顕如は俺に微笑みを返しながら話す

「早くあなたを安心できるように、あたしもがんばるわ!」


「弾正、あたしはあなたの信を得られる答えを出せたかしら?」

弾正はびっくりした様な顔で俺を見る

「気付いておりましたか」

「気付くわよ。あんな茶器一個で信用を得られるなんて、思ってもいないわ」

「・・・・・・・」

「あなたは茶器狂いと呼ばれるほど、茶の道に傾倒している振りをしているだけだもの。本質は民の為、そして出来ないと知った時の落胆が、あなたを茶の湯に逃げ込ませる?ちがったかしら?」

俺は弾正に微笑みながら問いかけた

「姫様には適いませぬな」

弾正は綺麗な目をして俺に笑いかける

「あっ早く帰らないと鶴ちゃんが心配するわ!行くわよ弾正!」

「御意!」

二人は笑い合いながら鶴の待つ城に向かっていた

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