鶴と虎
「市、この子をお前に預ける。面倒見てやってくれ」
そう言いながら兄様は幼い子供を連れてきた
「また出来たのですか!姉様が泣きまするぞぉ!!!」
「違う!この子は元六角家臣蒲生賢秀の嫡男じゃ。人質で預かったのは良いが中々の器量じゃと思ってな。我に娘が出来たらやろうと思うほどじゃ!」
「何故?あたしに?姉様がいるではないですか?」
「それがのう、濃に言ったらそのようなお子なら市に預けよと言うてな」
いやいや俺、子供とか無理だし、育てたことないし、無理無理
「無理ですよ!あたし子育てなどしたことありませんもの!」
おい、そこの獣達!頷くんじゃねぇよ!あとで折檻な!
「濃がいうには、嫁に行かないというのは母性が不足しておるのやもしれんといってな。そのように賢い子ならば手もかからないだろうから、母性が目覚めるやもしれぬから育てさせろというのじゃ」
困ったような顔をして俺を見る信長、おれが困りたいわ!
「名は何と言うのです?」
「鶴千代と申します。お市様にはご迷惑をおかけするかもしれませんが、ご指導ご鞭撻をお願いいたします」
何この子!転生者?生まれてそんな時は経ってないだろう!ってか蒲生、蒲生、蒲生氏郷じゃん!何この子やばぃ、信長が気に入るはずだわ
「知らないわよ!あたしが育てておかしくなっても責任取れませんからね!」
「ではたのんだぞぉ!」
えっ逃げた!
「じゃ鶴ちゃん、なにしようか?お手玉?追いかけっこ?鬼ごっこ?」
「孫子のお勉強がしたいです!」
こいつ、大物になるわ・・・
それから一緒にお風呂に入ってから寝ていると変な声がすることに気付いた
良く耳を澄ますと
「母様ぁ、母様ぁ・・・」
鶴が泣いていた
「鶴、どうした?泣いておったのか?」
俺は近づいて声をかける
「泣いてなどおりませぬ・・・」
良く考えたら、寂しいよね。知らない場所に連れてこられて一人で寝る。こんな小さい子がしっかりしていたから見落とした御免、鶴
「おいで、お姉ちゃんと一緒に寝よう」
「うぅっ、うぅっ・・・」
鶴は俺に抱きついて泣いていた、良しこの子は俺が面倒みてやると思った瞬間だった
俺は夢の中でガッツポーズする濃さんを見た
「姫、竹千代が遠江を取ったぞ!」
「結構時間かかったね、でもこれで二ヶ国の太守様か」
俺は鶴を膝の上に乗せて犬の持ってきた情報を聞いていた
「姫、遠江からお客様が・・・」
顔色が悪くなった熊が来客を告げる
熊の後ろから男装をした女性がいた
「んっ?誰?男?女だよねどう見ても?」
「お初にお目にかかりまする、井伊次郎法師直虎と申します!男として育てられてきましたが女です!お市様に仕えさせていただきたいと思い、参上しました!」
「えっ!井伊殿?遠江?父上は直盛殿か?」
「はい!そちらの熊田熊五郎殿に討ち取られた父直盛が一子で御座います!」
熊はめっちゃ気まずそうな顔をして天井を見ている
「なんでまたあたしに仕官したいの?一族はどうしたの?」
「松平、いえ徳川様に遠江を取られたため、私は不要の者となりました。出家も考えましたが、お市様の事を家康様よりお聞きしてまかりこした次第」
平伏しながら答える次郎さん、うん綺麗じゃん採用
「うんいいよ、男ばっかでむさいって思ってたから歓迎するわ、虎!」
「有難き幸せ!この直虎、お市様の盾となり御身お守りいたします」
追記
夜の渡り廊下で前の上司である雉麻呂を見てしまい
「亡きお館様、亡霊となりてお市様に害をなそうとなさるとは、この直虎成敗してお心鎮めさせましょう!」
「えっ?なんでおじゃる?ぎゃ~!!!」
直虎に朝まで追いかけられて死にかけた雉麻呂が城のお堀で浮いていた




