家康
「雉麻呂ぉ、竹千代って今はどんな子?」
俺は前の上司だった奴に、いつもの姿で汗を拭きながら話しかける
「中々に才気のある男でおじゃる。あの雪斎も、あやつを買っておったから麻呂の姪を嫁にやったのでおじゃる。そのぐらい用心していたともいえるでおじゃるが姫、ご褒美が目の前にチラチラして、麻呂は、麻呂は!」
めっちゃ血走った目で俺を凝視する雉麻呂、鼻息まで荒い
「姫ぇ、竹千代って、あの竹千代ですか?」
犬が話しに加わってきた
「そそっ、あの泣き虫竹千代!笑えるよね。あの三河武士の棟梁だよ。血筋って怖いよね。あいつがなるんだから!
俺は汗を拭いた布を、その辺に投げ捨てながら犬に話しかけると、雉麻呂が布に飛びつき、口に銜えて消えていった
「まだ小さかったから、仕方ないんじゃないですか?姫は小さい時から今に至るまで、そんな変わらないですが、もう少しお淑やかになられた方がいいと思いますよ。そのままだと婚期逃しますよ」
犬がしれっと俺に喧嘩を売ってきた
「いいんだよこのままで、男はいらねぇの。何度言ったら分かるんだ!駄犬が殺すぞぉぼけっ!!!」
犬がしゃがみこみながら泣いていた
「じゃれるのは終わり、久しぶりの竹千代に会いに行くかね!」
俺は広間に向かって歩いていた
「やっぱ尾張は落ち着くよねぇ、兄様」
俺は隣にいる信長に話しかけた
「うむ、この地であやつとまた会うことになろうとはな」
信長も楽しみにしているような気配を出しながら、竹千代が来るのを待っていた
「お館様、三河より松平家康様お越しになられました!」
菊が信長に報告する
「うむ、入れ!」
「お久しぶりです義兄上。この竹千代、義兄上に会いたくて来てしまいました!」
信長の前まで来て、竹千代は座り込み、頭を下げながらそう言った
「フフフッ、わしではなくお市に会いたかったのであろう?」
信長はからかう様に竹千代に話す
「幼きことの事ですが、なんともお美しくなられましたな!お市様、当時のことを思い出せば、あれが初恋という奴でしょうな。はっはっはっ」
俺を見ながら竹千代はそう言った
「そうですか?いつも泣いていた印象しか御座いませんが?」
「それは手厳しい、一本とられましたなぁ。はっはっはっ」
「用件はそんなことではないのだろ?竹千代いや、松平家康殿」
信長のその一言で部屋の空気が変わった
「従属するか?敵対するか?どっちじゃ?」
信長がそういうと家康は体を硬直させた
「あらっ兄様、対等な同盟は含まれておりませんの?」
俺は助け舟を出す
「ふっ三河殿に何が出せる?出せねば対等な同盟など無理であろう」
信長は問題を提示した
しばし時が流れて家康が答える
「三河武士の魂を出せます!」
「魂とな、それはなんじゃ?」
「織田家の東から敵を一歩も入れさせませぬ。我らの意思で守り抜きまする!」
「つまり指図はされたくはないということか?」
信長が怒気を放つ
「いえ、指示が無くとも守るので御座います!」
家康は信長の目を見据えながら力強く答える
「はっはっはっ、わかった竹千代。手を組もう!東はお主にやるわ!気張れ!」
「はっ有難き幸せ!」
「ぼやぼやしておったら、うちの市が東の敵を倒しにいくかもしれんぞ・・・はっはっはっ」
「肝に銘じておきまする」
こうして信長と家康の同盟がなった。清洲同盟である
追記
この後家康は帰り道に異様なものを発見する
「んっあれは!まさか!!!」
家康はそれを見て驚愕し、恐れおののく
「あっあれ、ちょっとおいたしたから折檻中、テヘッ」
俺は家康にそう言いながら、簀巻きにされて庭に転がされ、泣いている雉麻呂を冷めた目で見ていた
「みなかったことにしたい、みなかったことにしたい、みなかったことにしたい」
家康はそう呟きながら三河に帰って行った