分岐点三
上洛しようとした今川軍は、義元や重臣の多くを田楽狭間で討ち取られ、軍が崩壊し敗走。最前線で戦っていた三河勢は、織田軍に追撃され無かった為、そのまま岡崎城に入り、松平元康は今川家からの独立を宣言
美濃侵攻を企てた武田軍は岩村城を取り囲んでいたが、田楽狭間の一件が伝わると包囲を解き、信濃に退却
美濃尾張で決起した一向宗は、信長の訴えで謝罪し、矛を収めて静かになった
清洲を攻めようとした北畠軍は信長、長政の率いる北近江勢に急襲され、壊滅。そのまま信長は軍を纏め、伊勢に雪崩れ込み、伊勢を制圧
織田家は美濃尾張伊勢三ヵ国を有する大国となった
「姫、麻呂の名前もう少し何とか。ならないでおじゃるか?」
下を向き笏をもじもじと動かして、たまに上目遣いをするお歯黒
「なに、雉出雉麻呂いい名前じゃない・・・プッ」
「今、笑ったでおじゃろ!ひどい、なんという仕打ちじゃ、前田殿もそう思うじゃろ」
「あきらめろ。雉麻呂、もうそれがお主の名前じゃ。姫の元に来た時点で、人とは認識されん。それとわしは犬でよい・・・プッ」
もう涅槃すら体験したのかと思うように、悟りきった顔をした犬が雉麻呂に話しかける
「おぬしら、鬼じゃな!でもなんでこの名前なのじゃ?前の呼び方とかなら、お歯黒なんたらしゃんとか、なんたらしゃんお歯黒とか、つけそうなものでおじゃるが?」
「なに?そっちがよかった?変えよっか?」
「いや!麻呂は雉出雉麻呂で嬉しいでおじゃる・・・シクシク」
そう言いながらうずくまり、熊に頭を撫でられる雉麻呂
「納得するならいちいち言いにくんな!ボケッ!」
「麻呂はもう死んでる!全てにおいて・・・シクシク」
「もうあんたたちと喋るの飽きたから兄様のとこ行って来る!」
「「「ひどっ」」」
「菊、兄様いる?」
「あっお市様。お館様ならお部屋におられまするので、ご案内いたしまする」
「来たか」
「なにしてるの?兄様?」
「三河の竹千代からの文じゃ見るか?」
そういいながら文を渡そうとする信長。それを拒否しながら俺は言う
「手を組みたいって言ってきた?」
「そうじゃどうする?組むか?それとも潰すか?」
「う~ん、会わないとわかんないわ。どうせもう呼びつけてるんでしょ竹千代」
「お前には隠し事はできんな」
苦笑いをしながら俺を見る信長
「でも来るかしら?怖がって来ないかもよ。兄様を怖がってたからねぇ、あの子」
「来なければ潰せばよい」
そういいながら外に出て空を見上げる信長
「忙しくなるぞ、市」
「ここから本番かしら?」
「そうだな。付いて来い市、高みはまだまだ先ぞ」
「兄様の御心のままに」
青く澄み切った空の下、俺たちはそう言って微笑みあった




