急転直下
「姫!こういっては何なのですが、某の名前、何とかなりませなんだか」
でかい図体でひげもじゃのむさい男が俺になにやら文句があるようだ
「んっ?熊田熊五郎?いい名前じゃん・・・プッ」
「今、笑いましたな!笑いましたよね・・・シクシク」
むさい男が泣いていた
「熊、あきらめろ!姫付きになった以上、人としては扱われぬ」
何故か悟りを開いたかのような顔をしてむさい男に話しかける犬
「前田殿」
「俺の事は犬で良い、わしもお主の事を熊と呼ぶし・・・プッ」
「ひどい、惨すぎる、俺はあの時死ぬべきだったのか・・・ブッブッ」
熊が丸くなっていじけているがかわいくない、むしろむさい親父だし!
「じゃあたし、兄様に呼ばれてるから、お前達はまだ会えないだろうから犬も熊も留守番!行くよ猿」
「はい!姫様!犬も熊もお留守番・・・プッ」
「「猿殺すぞぉ!」」
猿は逃げるように姫の後を追った
「来たか!皆そろっておるな。北近江浅井家より同盟の使者が来た、長期同盟を望んでおる婚姻同盟じゃ。相手は市、お主を長男長政に娶りたいとの事、どうすべきか?我の前で話し合え」
俺が評定場に入った瞬間、信長はそう言って俺から目を逸らせた
「某は賛成に御座る!浅井家と長期同盟となれば1つ敵が減りまする。過信はならぬでしょうが、浅井長政殿は知友兼備の優れた武将との噂、姫様もそろそろお年頃ですし、良き縁談かと思いまする!」
安藤守就がそう発言するとそれを皮切りに美濃衆は一斉に賛成の事柄を伝える
尾張の古参連中は下を向き、何やら暗い表情を浮かべる
俺は何も発言できなかった。分かっているこの話は織田家にとって良い事であることは美濃衆だけでなく、皆が分かりきっていた
ただ俺がいなくなった時に信長が壊れてしまうのではないかと心配したのだ
そんな時火急の知らせが舞い込む
「お館様!!!平手政秀様、御舎弟信勝様の無礼打ちにてお亡くなりになりましてございます!信勝様そのまま挙兵、城代不在の清洲城を取り囲んでおりまする!!!至急救援を!」
「・・・!!!」
一言も発せず、信長は素早く立ち上がり、怒りを押し殺そうとしていた
「兄様! 御下知を!!!兄様!」
「いっ市に任せる・・・!!!」
「皆、聞いたな!急ぎ兵を集め清洲に向かう!準備出来次第出立、小牧にて待て!急げ!!!」
俺は早口で喋り、自らも評定場を出ようとしたら、そこにはお濃さんがいた
「姉様、兄様を」
「わかりました。あなたはあなたのやるべき事をなさいませ!急ぎなさい」
「失礼!」
言葉も少なく俺はお濃さんに信長を任せる事にした
「殿っ」
「・・・!!!」
怒りのままに立ちすくむ信長の背中を支えるように、濃は泣きながら抱きしめ顔を背中にうずめながら背中越しに呟く
「皆、殿を慕っておりまする。もし殿に背く人達だらけになったとしても、お市や私は殿を支え続けまする。怒りに身を任せるのはおやめください。それは亡き平手様が一番悲しむ事でございましょう」
「・・・」
信長はただ立ち尽くしていた