マムシの涙
背中に何本もの旗指物をつけた兵が足早に駆けてきて信長の前に来る
「お館様!岩倉の信安軍、義龍軍の側面に奇襲のような形で交戦を開始いたしました!」
「うむ、五郎左急げ!主が先行して墨俣を先に押さえておけ!」
伝令からの報告を聞きながら長秀に指示を出す信長
「急げ、お館様の軍は迅速を尊ぶ!目指すは墨俣だぁ!出立ぁ!!!」
長秀は騎馬だけで構成された軍を動かして墨俣に向かう
「ではお濃、茶の途中であったが美濃を取ってくるわ、稲葉山にて我と道三、市でお茶でも飲むぞ!」
そう言いながら具足に身を固めた信長がどかどかと歩いていく
「はい、皆で飲む茶を楽しみに待っております」
その頃にはすっかり落ち着いて信長の背中を見つめるお濃がいた
信長本隊が墨俣付近に差し掛かると次から次に旗指物をつけた兵が信長の前に現れる
「明智が参戦、道三軍と合流した模様!義龍軍を押し返しておるとの事!」
「義龍軍の安藤寝返り、それに呼応するかのように稲葉、氏家の西美濃三人衆が寝返り!義龍、軍の体制整わず、稲葉山に向かい壊走中との事!!!」
「はやいわっ!市はせっかちじゃのう我に急げと催促しておるわ!五郎左に急ぎ伝えよ!急ぎ稲葉山を抑えよとな!義龍より先に抑えねば我もお主も市からなんと言われるかわからんぞとな!」
市の奴、明智を手駒に持っておったか!西美濃三人衆まで諜略しておったとは抜け目の無い奴じゃ何手先まで読んでおることやら、あやつが男であれば喜んで奴の配下となっても良い
信長の目の前に図体がでかく髭もじゃでむさい男がいる、義龍だ
「義龍、踊らされたのぉ」
冷めた目で義龍を見る信長
「・・・・・・・」
義龍は大きな体を丸めて下を向いた
「敗者は何も語らずか?義父からは何か言う事はないのか?」
信長の後ろで義龍を見ていた道三が動き、義龍の前に座った
「愚かよのうぅ」
「クッ!」
義龍が顔を上げ道三を睨む
「しかしもっと愚かであったのは我よ!すまぬ義龍、我はお主の事を考えなんだ、謀反を起こされるのは当然の成り行きじゃ!お前は見かけによらず優しすぎたそれが歯がゆくもあったのじゃ、我はお主の為に死んでやれなんだ、すまぬ義龍」
道三は泣いていた、それを見た義龍もまた泣いていた
俺は信長と共にその場を離れた
「兄様、義龍助命なりませぬか?多くの助命嘆願も出ております」
義龍について負けた武将達や西美濃三人衆、明智、竹中達まで義龍の助命嘆願が出ていたが、無理であるのは俺でもわかっていた
「無理じゃ」
信長は俺に背を向けて吐き出すように言葉を出した
「・・・・・・・」
俺はそれ以上何も言えなかった
「早く戦の無い世の中を作りたいものだな」
信長は空を仰ぎ見つめながらそう呟いた
斉藤義龍斬首、美濃は信長の手に収まった