猿
「犬、散歩いくよ!」
「はい、姫」
「・・・・・・」
無言で犬を見つめる俺
犬は焦りながら周りを見渡し、誰もいないと確認してから
「ワンッ・・・シクシク」
「はい、よく出来ました!行くよ」
俺の後ろを泣きながらついてくる犬
「名古屋もそれなりに栄えてたけど、やっぱ清洲はちがうね」
城を出て、清洲の町並みを犬と共に探索しながら話しかける
「ここは伊勢、美濃、駿河の中継地点で交通の要所なれば、この賑わいぶりもうなずけると言うものです」
おっ犬、お前まともなこと言えるのね。図体だけじゃ駄目だって理解してきたか?
「今日は何処行こうか?」
「あまり遠くに出かけると信長様におこられますよ、姫」
「別に遠くに行こうっていってないじゃん」
「それならよろしいのですが・・・んっ」
犬の視線の先に薄汚れた男がこちらに向かって歩いてくる
「お~い又左!!!」
あっ猿だ、一目でわかる
「なんだ?藤吉郎か!」
「誰じゃこのちっこい、かわいらしい女子は又左の子か?そういえばおみゃ、あのお転婆姫の子守しとるそうじゃにゃ~か、大変じゃのうぉ」
俺は猿の頭を力一杯殴りつけてやった
「うぎぃ~なにするんだぎゃ!!!女子といえどようしゃせんぞぉ!!!」
顔を赤く染めながらわめき散らす猿、唾ものすごく飛び散ってきたないから
「今の俺の主人、お市様じゃ」
犬がどうしょっかって思うような複雑な顔をしながら俺を紹介した
その瞬間、猿の赤い顔は青くなり、震えるような大声でこう言った
「すみませんでした!!!殴るなり蹴るなり踏みつけるなり好きにしてください!」
人の往来が多い道のど真ん中で五体投地をして悟りを開こうとする猿がいた
落差激しすぎて引くわ、マジで
「もういいから、恥ずかしいからやめて!」
この俺に引かせるなんて猿やるな
「はい、姫様」
素早く立ち上がり、何事も無かったかのように振舞う猿
さすが天下取って人臣位極めるだけあるよあんた
「ところで藤吉郎、おぬしなにしてたんだ?」
「今から小牧の方に炭の調達にいこうかとしとったんじゃ、暇なら又左も行くか?」
「いや~わしは姫の散歩に・・」
「うん!!!行く」
犬が返事する前にあたしは猿の行く小牧に行きたくなった
小牧の先は美濃・・・いつかは手に入れなければいけない土地だからだ