さようなら、また会ったね
君のお話を聞いた最後には、僕の話も聞いてね。
そして数日後にうさ吉は旅に出るって言って出て行った。
「じゃぁ今度会った時は俺っちの旅の話し聞かせてやりますからね。ツッキーの旦那ぁ。」
パヤパタと愛らしく手を振って肩から風呂敷を掛けている。風呂敷の中にはご飯を詰めれるだけ目いっぱい詰めた。僕の朝ごはんも入ってるんだ、僕とうさ吉の好きな赤い実と薄いピンクの実も詰めた。ありがとうと感激して泣かれた。
「どれくらいで戻ってくるの?」
「そうでやすね、季節が一つ巡るまでには戻ってくると約束いたしやすよ。」
そう言ってニカッと笑って出て行った。僕はそれを見送っていつものようにニンゲンに見られる退屈な生活が始まった。
草が枯れる秋が来て、全てが眠る冬が来た、恵みをもたらす春が来て、草木の覆う夏が来て一巡りした。それでも君はまだ戻ってこない。
二巡りした。
三巡り、四巡り…君はまだ帰ってこない。
いつになったら帰ってくるの?それとも楽しすぎて帰って来れなくなったのかな?それならそれでいいけど、僕にお話をいっぱい話してくれるっていったのに。…寂しいなぁ。
早く会いたいよ。
六回季節が巡ってたときにすっごいヨボヨボしたメスの兎が僕の所にやって来た。
「始めまして、わたしはパズルと申します。ツッキー殿でよろしかったでしょうか。」
その兎は雌で背中が茶色くて残りは白色で年を取っていた。うさ吉は耳と足が茶色で残りが白いし、何より雄だから目の前に現れた兎はボクが待っていた兎とは違った。
パズルと名乗ったその兎はおかしなことを言い始めた。
「ツッキーさんのお話はあの方から聞いています。…希望を消す様で悪いのですけれども、うさ吉はもう二度とここには来ません。」
来ない。そうはっきりと言われた。どうしてここに来れないのかはよくは分からないけど、良く見たらその兎は泣いていた。
「何で?」
「どうしてもここには来れません。では、私は失礼します。」
そう言ってピョンッとボクの住処から立ち去ろうとするのをあの頃よりもずいぶん大きくなった前足で防ぐ。それでも、パズルはピョンピョンッと飛び越えて行こうとするけれどそれをまた邪魔をして通れなくした。今の僕が触ると本当に壊れそうだから、壊れない様にするのが大変で時折り爪に当たりそうになったのを避けなきゃいけないのが大変だった。そうして疲れたのか次第に息が荒くなっていき僕の近くでグデッと伸びた。
「はぁっ、はぁっ、なにが、したいのですかはぁっ。」
「どうして来れないの?ねぇ、パズルさんボクに教えて。…ううん教えて下さい。」
「ダメです。」
「なんでなの。」
「子供には秘密の事だからです。」
「ボクはもう大きくなったから子供じゃない。」
「子供です。私から見たらずっとずぅっと子供です。」
そんな言い争いがしばらくと続いた。そして、根が折れたのかなんで、うさ吉がボクに会いに来てくれないのか話してくれた。
「あの方は貴方に旅に出るって言った日に倒れて、緑の服を着たニンゲンに連れて行かれて戻ってきません。緑の人は泣いていて、あの方は…死んじゃいました。」
「死んだってなに?」
「だから、もう二度と会えないって事です!!」
パズルは語尾を強く言って怒った。二度と会えない?どうして何が起こっているのかボクには理解が追い付かない。
「大体私は反対でした。夢くらい諦めればいいのになにが、男の夢は追うのが道理ってもんでやんすから。よそれで無茶して消えたら意味ないじゃないのよ。ひっく、ぐすっ。」
「無茶したって。うさ吉は何をしたの。」
「全部貴方のせいよ、ニンゲンに見つからない様にって早く起きて脱走して、ニンゲンに見つかって殴られて。それでも待っているダチがいるからってまた脱走して。そして、今度はニンゲンに叩かれた時に、片方のニンゲンは止めていたけど血を吐いて動かなくなったのよ。」
知らなかった。うさ吉が死んだのはボクのせい…。ボクがまた話を聞きたいって言ったから、ニンゲンがあいつらがうさ吉を殺したの。ボクが寂しいって思ってうさ吉をずっと待っていたのに、待っていたその日から君はもうどこにもいなくなったの。全部、ボクのせいで。ボクが望まなければ君は…違う、僕も一緒に行ったら良かったんだ。そうしたらニンゲンから守ってあげられたのに。檻から出ようとせずにいた弱いボクが悪いんだ。
「ごめんなさい、パズルさん。ボクッボクゥ。」
「今更誤ったって遅いのよ。誤ってもうさ吉は帰ってこない。だから、謝らないでよ。あなたが代わりにいなくなれば良かったのに。」
そこまで言ったパズルさんはダッと走り去って檻の向こうへ消えて云った。それをボクはもう止めることはせずに、ただただ眺めているしかなかった。この、胸にぽっかりと空いた穴は何なんだろう。うさ吉を殺したのはニンゲンで、だからニンゲンの事を考えるとボクの体から黒くてドロドロとしたものを感じる。こんな感覚は初めてだ、そう思っているといつもの緑の服を着たニンゲンが僕の檻にやって来た。ガチャリッと音を立てて、扉が開いた。ボクの友達を殺したニンゲン。そう考えただけで目の前の存在を消したくなった。緑の人間がボクのご飯を持って入ってくるとそのニンゲンに向かって腕を振り上げる。ニンゲンは何かに気付いたようで、ボクの腕が当たらなかった。
『ひっひぃ。』
よく分からない言葉を言うと走って逃げて行った。
扉が開いたままで・・・。
扉から外に出るといつもとは違って長い長い通路だった。他の見た事のない動物が僕と似たような部屋で生活していた。お話をしたいけど、いまはそんな暇はない。ニンゲンがここにいないのなら旅に出よう。うさ吉の代わりにボクが旅に出る、そうしたらうさ吉に自慢してやれるんだ。ボクは君と違って旅に出れたんだぞって。そう考えてボクは外へと飛び出した。
外には何人ものニンゲンがいた。僕に光る物を向けてきた。ボクはそれに触れたら嫌な予感がすると思って逃げたひたすらに、ニンゲンの服が変わって緑が夏の空よりも濃い青色の服を着ていた。そのニンゲンが黒くて茶色いでっかいなにかをボクに向けるとズドンッって音がした。その瞬間に右側の脇のお腹が痛くなった、痛い、イタイ、イタイ、イタイ。もがいても、もがいても体に力がどんどん入らなくなっていって目の前が暗くなっていく。ピクピクッとしか身体が動けなくなって。そこからはもう、ボクには分からなくなった。
次に目が覚めたらそこは白くて青い所にいた。ここはどこだろう?
「おーい、ツッキーの旦那。」
懐かしい声がした。声がした方を振り返るとそこにはうさ吉がいた。耳と足が茶色くてそれ以外が白い。可愛いボクの友達があの日の姿でちょこんと座っていた。
「うさ吉?うさ吉ぃ会いたかった、パズルさんが死んだって言ってバカ、うさ吉のバカァ。」
走ってうさ吉の所まで近づくとボクはぎゅぅと抱きしめた。苦しそうにもがいているけどボクは知らない、そんなこと知らないから。
「げほっ、ごほっ。だっ旦那ぁ、俺っちを殺すつもりですかい。いや、もう死んでますけどね。」
思う存分抱きしめた後にお小言を言われた。でも気にしない、だって大事な友達に会えたんだから。
「まったく旦那は、そうそう。旦那がいない数年間でまたいろんな話がありましてね。お聞きになりますかい。」
その言葉に一も二も無く頷いた。久しぶりのうさ吉のお話だ、今までのお話は僕は全部覚えている。時間はいくらでもあるからいっぱいお話を聞かせてね。
「そうですかい。では、あれは俺っちが死んで1年くらいたった頃に聞いた話なんですけどもね・・・・・・・・・。」
THE END
今回冬の童話祭に参加させて頂きました、もらし たみお、と申します。合計3話という短いお話ですがきちんと童話になれたかどうか心配です。このラストの終わり方がR-15入れた方がいいのか悩みましたがフランダースの犬といった死ネタで終わる物や、ヘンゼルとグレーテルなど誰かを殺す作品が地味にあったので入れませんでした。運営の趣旨に反する、また、これは入れた方がいい。と思われた場合はお手数ですがコメなりなんなり残して頂けると幸いです。
最後は天国へ行って二人でお話をしながら過ごすって言うのが書きたかったので書き切れてよかったです。童話祭の期限に気付いたのが前日の夕方で、仕事に行く前。早く仕事を終わらせて仕事の休憩中ずっとカタカタと、そして誤字脱字チェック。早く仕事よ終われと言いながら、終わってダッシュと自転車を走らせて山道を登って帰り、自宅PCへ猛ダッシュしました。ちなみに、実はパズルとうさ吉は結婚して子供がいました。
さらにちなみに、名前の由来
ツッキー:ツキノワグマだから。
うさ吉:似たようなせんべいから。
パズル:小学校の頃学校で飼っていた兎がパズルだったから(本当に背中の模様がパズルのようだった)。
チョコ:同じく小学校の頃飼育していた兎より
です。
それでは長々としてしまいましたが最後に、見て下さいました皆様方に沢山の感謝を捧げます。見て頂きありがとうございました。