幸せを願う
また会えるその言葉をボクは信じてる
ボクとうさ吉が出会ってから何回かの夜が巡ってまた朝が来た。
「おはようでやんす。ツッキーの旦那。」
「ん、おはよううさ吉。」
あの日から何度かまた脱走しては度々ボクの居る所へと来てくれる。それがこの淡々とした生活の中で唯一の潤いだった。うさ吉は今日はどんな話をしてくれるのか毎日楽しみだった。昨日は同じ家に住んでいるいけ好かないイケメンうさぎのチョコとその腰ぎんちゃくの茶太郎がうさ吉の片思いしていたパズルという女の子と良い関係になっていたと泣いていた。良い関係?というのは良く分からないけど仲がいいのはいいことだよって言ったらこの裏切り者~と更に泣かれた。意味が分からない。それでも今日も来てくれる事に心が弾む。
「今日は何の話をしてくれるの。」
「今日はどんな話が聞きたいですかい。」
「この間の冒険譚っていうのがいい。海をザァザァ渡った奴。」
「海賊の話ですか。いいですよでは、あの続きをしましょうかいね。ディリボが海賊の下っ端になり日々を苦行で過ごしているとこまでは話しましたね。」
「うん、たぶん船長に復讐するかして船長になるんだよね。」
そう言ったらうさ吉の動きが止まった。
「俺っちはネタバレしてましたかいね。」
震える声でありえない物を見るかのように見られた。おかしい考え方かな?
「だって、虐げられて嫌だったら成り上がるって考えるのは当然だと思う。」
だって、嫌な事をされたら嫌だから抵抗するのは普通だと思う。聞いてて、向上心もあるし主人公はかっこ良くならないとだから多分船長になるというボクの予想はうさ吉の反応で分かった。
「でしたら何を話しましょうかね。そうだ、話すといって思い出しだしましたよ。聞いてくださいな旦那。この間話したパズルちゃんがあんの糞野郎にぃぃぃ。」
何かを思い出したのか、急に泣き出してボクの毛皮にボフッと顔を埋めた。ポフポフと背中を軽く叩いて今日のお話のお礼に取っておいたバナナを渡すと少し落ち着いたのか未だに顔を埋めているけどひっくひっくと涙を流して渡されたバナナをチミチミと食べている。そうやって食べるとボクの毛につくんだけど。まぁ、今日だけはしょうがないか傷心の可哀想なうさぎに貸してあげようと思う。
泣いているうさ吉と泣き付かれながら残ったバナナを食べるボクなんかのんびりした時間だな。泣き止むまで暇だし、いい加減うっとうしくなってきた。たかだか片思いの相手に彼氏ができたくらいでうだうだと。
「ねぇ、うさ吉。」
「ひっぐっ、なんですかい旦那。」
「うざい。」
その一言で涙が止まってうざったいひゃくり声も聞こえなくなって静寂が訪れた。
「…。」
「旦那呼び止めてって前から言ってる。それに、君のいいところはボクがいっぱい知ってる。そんなのを知らないやつは目が腐ってるよ。だから、もう泣かないで。毛が濡れて冷たいんだよ。」
「その最後が本音かツッキー。」
何日も一緒にいると考えが少しばれているのかもしれないな。
「うん。ママが言ってた、子供は泣くのが仕事。大人は働くのが仕事。だからボクの為に働け大人。」
そう、働いて楽しいお話をいっぱい聞かせて欲しい。
「あなたも大人ではないんですかい。」
「ボクまだ1歳だよ。子供だし。」
僕の年を聞いたうさ吉はまた黙った。黙るのが好きな兎だな。喋ってると煩いからちょうどいい感じでバランスが取れていると思う。
「えっ、でもでかい。」
「種族違う。ボクのママはもっとおっきかった。」
「さいですか。」
コクリと頷くとうさ吉は体を地面に投げ出して世の中の理不尽って奴を呪っている。
「そういえばさぁ、うさ吉ってこんなに離れてても大丈夫なの。ここなら外からでも見えないと思うけどまた人間に見つかったら大変だよ。」
そう、泣いていたからいつもより時間が経っていて、外にちらほらと変な色をした“ヒト”という存在が歩いてきている。いつもならとっくに帰っている時間なのに。
「いいんですよ。いつもの事なので呆れられてますし。俺っちの目標の為には慣れないといけません。」
「目標?」
「そうでさぁツッキー、俺っちはこんな狭い籠から出て広い広い所へ出て行く。それが俺っちの目標でさぁね。」
広い所に出て行く。そう言って笑ったうさ吉の顔がとってもまぶしいと思った。僕は一緒に行くことができないからここで、うさ吉の帰りを待ってよう。それで、戻ってきたうさ吉のお話をいっぱい聞きたい。ボクはそう思った。
「ツッキーは来ませんかい。」
「ボクが抜け出たらすぐにばれちゃうから。それに、戻ってきたうさ吉のお話を沢山聞きたい。」
来ないかと差し出された手を僕は取る事はできない。戻ってきて沢山のお話をしてくれる事を楽しみに待っている。そう告げるとうさ吉は少し照れたように笑っていた。いつか消える日が来てもまたこんな風に笑って過ごせるんなら一時の別れなんて怖くないなって思ってた。
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