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7話・「融会長の正しさ」

 あの日から数日して。


 オレは、安西さんと会うこともなかった。彼女もオレを避けてるだろうし、オレだって彼女に会いたくなかった。


 けど、ピクニックの予定日には確実に近づいていってるから、自然にグレート生徒会の仕事は増えていく。


 書記のオレは、大量の書類を整理しなければいけなくて。けど、一向にペンが進まない。

 安西さんのことと、気持ち悪い感情がグチャグチャに混ざって、とてもじゃないけど集中できなかった。


「うんうん! 今日もみんな頑張ってるな! それでこそ我等が選ばれし者、グレート生徒会の一員だ! ピクニックまであと一息! 必ず我等がピクニックを成功させ、邪悪なSSSの野望を打ち崩す! しいては、その勢いで世界平和まで実現させようではないか!」


「それよりも、融が消えてくれれば世界は平和になるんじゃないの?」


 いつもみたいに熱弁を奮う融会長に、いつもみたいにりささんが鋭いツッコミを入れる。けど、りささんにも雑務が山ほどあって、それに集中したいみたいで、すごく融会長が鬱陶しそうな口調だった。


「りさくん、それはどういう意味だね。まるで、我が悪の親玉のような言い方」


「少なくとも、トラブルメーカーじゃない」


「そっ、そうなのか・・・そうか・・・トラブルメーカーか・・・今まで我は、迷える子羊たちのために粉骨砕身・・・身を尽くして貢献してきたと思っていたが・・・その結果が、トラブルメーカーか・・・ははっ・・・」


「あぁ、もう! 鬱陶しい! あんたも自分の仕事ちゃっちゃと終わらせなさいよ」


「ふんっんだ! もう終わってるもん! 8月31日に宿題を始めるりさくんとは違うんだからね!」


「気持ち悪いから可愛い子ぶるのはやめろ、バカ! あと私はちゃんと計画的に宿題はやるわよ・・・ホント鬱陶しい」


「うわぁーん光弥くん、りさくんの我への扱いが酷いんだよ―――って、ん? 光弥くん?」


「・・・えっ、わぁ! 何ですか融会長!」


 急に融会長が話を振ってきたのをオレは気づかなくて、つい声を上げて驚いてしまった。


「どうもこうも、手が止まってるじゃないか。気分でも悪いのか?」


「光弥、最近様子がおかしいわよ。何か悩みでもあるの?」


「・・・別に、悩みってほどのことでもないですよ。何かあったら、ちゃんと言いますから。ありがとうございます」


―――悩み、なのか・・・これは・・・


 先輩たちはどこか納得してないようで、首をかしげながら自分の仕事へと戻っていった。


 ふぅ、気を取り直して始めないと。


 もう一度強くペンを握り締めたら、バタバタと人が走る音が部屋の外から聞こえた。その音はどんどん大きくなって、「コンコンッ」と少し強いノックの音。


「すいません! くるみどこにいるか知ってますか!」


 生嶋の奴が、焦ってるように息を切らしながら生徒会室に入ってきた。


「くるみちゃん? さぁ、私たちは知らないけど。どうかしたの?」


「それが、あいつ突然神藤かいちょーに退会届出したんです。それでそのままSSSの生徒会室飛び出して」


 えっ―――安西さんがSSSを・・・


「それで、何もせずにあの子を止めなかったの!」


 りささんが立ち上がって、生嶋を責めるような口調で尋ねた。


「だから、今こうしてくるみを探してるんです。天美もかいちょーも手分けしてくるみを探してるはずです。何か、心当たりはありませんか?」


「そうは言われても・・・光弥、心当たりある?」


「・・・わかりません。けど、オレは何も言えないです。安西さんがSSSをやめたのは、多分オレのせいだから・・・」


「それって・・・どういう意味だよ・・・」


 生嶋は俺の言葉を疑うように問い返す。融会長もりささんも、心配そうにオレを見つめる。


「・・・本当にごめん。オレ・・・安西さんのこと傷つけた。安西さん、前の学校で仲の良かった会長を交通事故で失って・・・けど、オレはそんなこと気づかなくて・・・最低だ」


「光弥・・・」


「だから、オレに安西さんを止めるなんて言えないんだよ・・・」


「・・・けど、お前はそれで納得できるのか? 本当に後悔しないのか? 天美から話は聞いてる。あの子のことが好きなんだろ?」


 生嶋は、心配そうにオレに問いただす。


「・・・もう、わけわかんないんだよ。オレが本当に安西さんのことが好きなのかも、一体どうすればいいのかも!」


 オレは自暴自棄になって、全部否定するみたいにただ叫ぶだけ。そんなオレは、きっとみんなからは格好悪く映っただろうな。


 叫び終わってもモヤモヤした気持ちは残ってて、オレは疲れたように、虚ろなため息をつく。


「――――自分の心に正直に。じゃないのか?」


 今まで黙ってた融会長が、ボソッと呟いた。


「えっ?」


「答えは、もう出ているのではないのか? 取るべき行動は、すでにわかっているのではないのか? 無意識のうちに答えを出しているのに、それを受け入れようとしない。光弥くんの悪いクセだ。『自分の心が命ずるままに』。己すら満足できないで、他人を幸せにできると思うか? そんなおこがましい偽善は、我がグレート生徒会には必要ない。光弥くんはどうするべきか、わかっているだろう」


「そうだよ光弥。やって後悔するより、しないで後悔するほうが何倍も後悔するでしょ?」


「融会長・・・りささん・・・」


 答え・・・答えって、何だろう・・・


 オレは、何も言えない。言い訳する資格なんかない。実際、安西さんを無意識のうちに傷つけてるから。


 けど・・・安西さんが後悔するのは、どこか違うような気がする。オレを責めて自分を正当化すればいいのに・・・安西さんは優しすぎるから・・・


 間違ってる。想い人が亡くなって、苦しいのもつらいのもわかる。けど、だからといって後悔するのは安西さんじゃない。安西さんがSSSを抜ける理由なんてない!


―――本当に、ごめんなさい。


 あのとき、安西さんはオレに謝ってくれた。けど、そうじゃない。安西さんが謝る必要なんてない。悪いのは全部オレだから・・・


 ・・・けど、オレは何も言えてない。謝らないとっ!


「すいません、後はお願いします!」


 頭よりも先に、身体が動いていた。オレは部屋を駆け出していく。


 早く、探さないとっ! 見失ったら遅いから。謝る機会があるのは、今日しかないっ!


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