4話・「いい子。とにかくいい子」
SSSが去っていって、気づくと安西さんが呆然としてた。まぁ、その気持ちはわかるけど・・・
「・・・っ」
安西さんと目があって、彼女はオレに近づいてくる。
「・・・すいません。昨日、お会いしましたよね?」
「あっ・・・そそっ、その・・・あのときは・・・あっ、ありがと」
突然だったから戸惑う。失礼だろうけど、彼女の顔を直視することができなかった。
「どういたしまして。同じ学園の方だったのですね。最近転校してきました。安西くるみです」
自己紹介しながら、彼女はオレに手を差し出す。
えっ、オレが、彼女の手を・・・どうしよ・・・どうしよよどうしよどうしよ・・・どうするんだ、オレ・・・
「たっ、たたっ、たたたっ、高橋光弥です! グレート生徒会の書記してて・・・!」
パニクりながら、オレも手を差し出す。安西さんは、気軽にその手を握った。
「一緒ですね。私もSSSの書記なんです。これから、仲良くしてくださいね」
そんなぁ、仲良く・・・だなんて・・・ヘヘッ♪
「それで、今回お伺いした用件なのですが・・・」
安西さんは、挨拶を済ませるとすぐに事務的な態度でオレに1枚の紙を渡してきた。・・・そうだよな。うん、そうだよ。別に泣く事じゃないのに・・・あれ、目から汗が・・・
「SSSでは、部活動予算の効率化を図るために、校内で活動しているグループの状況を再確認するんです。お手数ですが、お渡しした用紙に部員の名前を書いて、私に提出していただけませんか?」
「へぇ、神藤誠をいじめてるだけじゃなくて、ちゃんと生徒会らしいことしてるんだ、SSSは。ウチではそんなことしたことないのに。ねっ、融?」
「うっ、それは違うぞ、りさくん。これからやろうとしていたんだ」
「はいはい。言うだけなら誰にでも出来るわよ」
「では、お願いします」
安西さんは、初めて会った道端のときのように、清楚に生徒会室から出て行った。
オレは彼女が出て行ったあとも、安西さんに見惚れてて、そんなオレにりささんが可笑しそうに声をかける。
「すごく可愛くていい子だったじゃない。確かに、私が男だったら惚れちゃうかも。ねっ、光弥?」
「なっ、なんでオレに話を振るんですか!」
「あの子のこと好きなんでしょう」
「それは・・・可愛い子だと思うだけで・・・仲良くなって、2人きりで映画見たり、買い物したりして遊びたいなぁって思うだけで・・・」
「それを、『好き』っていうのよ。・・・ったく、光弥、恋愛は全くじゃない。しょうがないなぁ。りさセンパイが一肌脱いであげる♪」
「それは却下させてもらう!」
突然、融会長が話に入ってくる。
「状況は全然つかめてないが、ピクニックが迫って時間がない中で私的なことは控えてもらおう! 我々には、世界を救うという重大な使命があるのだから、人生をかけてその尽力にひたすら万進すべきではないの―――」
ブスッ―――「うっ!」―――バタッ―――
融会長の腹部にめがけて、りささんのボディーブローが決まった。融会長はうずくまって倒れたまま、ピクリとも動かない。
「よしっ♪ うざい奴も寝てくれたことだし、話の続きね。まずは、あの子の情報が必要ね。じゃないと作戦も立てられないし・・・なら、助っ人がいたほうがいいかな。光弥、ちょっと待ってて」
「あっ、ちょっ、りささん!」
オレの声も聞かずにりささんは飛び出していった。
―――十分後
「光弥ぁ! 頼もしい助っ人連れてきたわよ!」
「お話はりさお姉さまから伺いました。お姉さまの頼みとあらば、お手伝いしましょう」
りささんが連れてきたのは、メガネをかけた凛とした女性―――
私服に着替えてるけど、栗矢天美だった。
・・・薬と間違えて毒を飲んでしまった気分―――
「栗矢、お前どうして着替えてるんだ?」
「それは・・・服を汚してしまったんです・・・真っ赤に」
・・・流血・・・したのか、お仕置きC・・・救急車呼んだほうがいいかな・・・
「まぁ、制服は神藤会長が現在進行形で洗濯してくれていますからいいのですが。それより、高橋くんのことです」
「そう、本題はそっちよ。で、実際くるみちゃんってどんな子なの?」
「純粋で礼儀正しくて、お嬢さまのような子ですね。りさお姉さまとは正反対のタイプです」
「悪かったわね」
「ですが、恋愛には無頓着のようです。彼氏がいるような雰囲気ではなかったですし、転校してきたばかりで男友達はいないようですし」
「っということは、アタックのチャンスはあるってコトね」
「だからっ! 勝手に話を進めないでくださいよ!」
オレが叫ぶと、2人は不敵な笑みを浮かべて、そっとオレの肩を叩いた。
「大丈夫だって。私たちがカンペキな作戦を立ててあげるから」
「私たちに任せてください。高橋くんを失望はさせません。だから・・・ね、わかりますよね?」
床に倒れてる融会長の姿が、ふと目に入った。確実に、意識不明の様子。
文句言ったときのオレの未来が、目の前に広がっていく。
「・・・はい、スイマセン」