小さな死神さま
その日は、異様なほどに暗く曇っていた。その曇りがちの空から、ふいに小さな小さな粒が一粒、また一粒落ちていく。一粒、また一粒、アスファルトに落ちて来ては染み込んでなくなっていく。ひどく苦しく、ひどく切なくて、悲しみの涙はアスファルトを深く冷たく包み込んでいた――。
「っ――!」
はははっ、ざまあないな……。
まあ、今まで好き勝手やってきた天罰ってやつだろう……。
あーあ、全くもってだりぃわ。
そう思ってため息を吐いてみたその横に、誰かがいた――。
女の子――?
顔は黒のフードをかぶり伏せてしまっているので、分からない。がしかし、女の子のように見えたのは、やはりスカートを履いているからだった。
終始、彼女はブツブツと何かを呟いていた。何を言っているのかは、分からない。まるで分かるはずもない。……いや、何も聞こえないわけではない。聞こえないのではなくて、本当に何を言っているのかが分からないのだ。
ホントに、何を言っているのか――
「まただ――」
彼女は、そう何回も繰り返していた。まるで自分を呪うかのごとく……。
何を、言っているんだ――?
心の中が、もやもやと霧のように霞みがかっていく。息をするのがひどく億劫で苦痛になっては、荒々しくなってしまっていた。考える力すら、もはや残されてはいないのかもしれない。頭がぼぅっとして来てしまい、何だか感覚すらも麻痺してしまったようだった……。
死ぬ――?
ふいに頭に浮かんだ『死』と言うものに、俺は別段疑問すらも何も感じてはいなかった。むしろ、ああそうなってしまうのだなぁっとしか、思いもしなかったし出来なかった。ただ――ふと気になって彼女の顔を覗いてみると、彼女はどうしてだかとても哀しそうに涙を流していた。
何故、哀しむ?
何故、泣いている?
何故、泣くのだ?
何故――?
その疑問ですら、もはや彼女の耳にはもう届かないだろう。いや――もう、届くはずもない。
もはや、届くはずも……。
「さようなら――」
彼女はそう囁き涙を流すと、口づけをしてきた。
その刹那――、身体が眩い光を放ったかと思うと
まるで蝶のように、身体がバラバラと散っていく。
「……っ!」
それを彼女は、優しく見守ってくれていた。
ああ、そうなのか。ありがとう……。
そうして俺は、逝ってしまった――。
一人その場に残された彼女は、被っていたフードを脱ぎ涙を流している空を見上げ
こう言い放った。
ハレルヤ――。