空で永遠に
ある村に、夫婦がいました。とても仲良しな夫婦でした。
その仲の良さは村でも評判で、あんな夫婦になりたいという人がたくさんいました。
その夫婦は、何をするにもいつも一緒でした。買い物をするときも、畑仕事をするときも、夜寝るときも、いつも一緒です。でも、嫌な感じはまったくしません。
その夫婦は、みんなに等しく優しかったのです。
ある日、事件は起きました。その村に、悪い魔法使いが襲ってきたのです。
その魔法使いは、その夫婦に目を付けました。
「ひっひっひ、仲のよさそうな夫婦だねえ。」
魔法使いは、仲のよさそうな夫婦が羨ましかったのです。そこで、こんなイタズラを考えました。
「お前ら仲良さそうだからなあ、2人仲良く海に沈んで死んでいくのと、離れ離れになって空で永遠に暮らすのと、さあどっちがいい?好きな方を選ばせてあげよう。」
それを聞いた夫婦は、質問をひとつしました。
「空では、永遠に会うことはないのですか?」
魔法使いは、ふむ、と考えてから答えました。
「そうだな。年に一度、ワシがこの村を襲いに来た日の一日だけ、お前らを会わせることにしよう。ひっひっひ。お互いを完全に忘れて、新たに暮らそうとしたって無駄さ。年に一度だけ会わせ、今日のことを思い出させることで、会えない辛さを引き立てるのさ…ひっひっひ。」
それを聞いた夫婦は、すぐに答えを出しました。
「では、空で永遠に暮らします。」
あっさり答えを出した夫婦が気に入らないらしく、魔法使いはすぐさま魔法で2人を空へ飛ばしてしまいました。
「そんなに言うならお望み通り、2人バラバラに川を隔てて永遠に空で暮らすが良い!!地上から村人にあわれみの目で見られながらなあ!!」
しかし、夫婦に後悔はありません。むしろ、空で永遠に暮らすことを喜んでさえいるようでした。
「海に沈んでしまったら、いくら一緒でも死んでしまってすぐにお別れ。地上にいても、いつかは死んで別れてしまう時が来る。でも、空はどうだい。永遠に暮らせると言うじゃないか。なんて素敵なことなんだろう。1年に1度しか会えないことを、不幸だと思うかね。私達は、いつも一緒にいれなくていいから、ずっと一緒にいたかった。」
こうして仲良し夫婦は、永遠に空で暮らすのでした。
年に一度だけ、会うことを許された日を楽しみに。