【城戸編⑨】帳尻の鬼
今季中の2000本安打が確実視されていたイ軍城戸であったが、あまりの不振によるスタメン落ちが長期化し、シーズンも残り少なくなっている状況の中で、雲行きが怪しくなってきた。
しかし、何とか今年名球会入りして箔をつけ、引退後の収入を確保したい城戸に、ついにチャンスが訪れた。
これまで打撃好調だった左翼手の赤田が故障してしまい、首脳陣も城戸を起用せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのである。
2000本安打まで残り25試合で55安打、1試合で2安打以上、イチローばりのペースで打たねば追いつかない計算であったが、ここで1番に座った城戸が執念――恐ろしいまでの帳尻力を発揮する。
ホーム球場でグラウンドキーパーを買収し、内野でボールが引っ掛かるポイントを作らせ、そこを狙ってバント連発。あからさまに内野安打を稼ぎに走ったのである。
これを何度か成功させて相手を逆上させたあとは、バントと見せかけてヒットゾーンを広げた上で軽打に徹して守備の穴を抜きにかかる。フォアボールを選ぶつもりもなければ確実性が落ちる長打を狙う事も無い、とんでもない自己中心的プレースタイルではある。
だが、1番という打順の性質上、ヒットが出てりゃあそれなりの貢献度ではあり、クリーンアップに座り勝負所で全く打てなかった時期と比較すると、FA移籍後7年目にして初めて戦力として機能したと言えなくもないのであった。




