売りは生い立ち
イ軍の今年のドラフトは、例年以上に不作、いや凶作と言ってもいい有様であった。
ドラフト1、2位は他球団と競合の末ハズレくじのハズレを引いてしまい、何の力も隠していなさそうな隠し玉を指名。更には3~7位の指名選手は何のかのと理由を付けられて入団拒否。
結局入団したのは、なんちゃって隠し玉の2名と、数合わせの練習要員として育成で指名された高卒一塁手の野田の、合わせて3人のみであった。
「全くどうすんだよこんな状況で…」
例年、新人を華々しく売り出してチケット販売に弾みをつけたい広報部門は、頭を抱えてしまった(新人で売上が大きく左右される事も無いのであるが、それでも負け癖がついたベテランよりはまだマシなのであった)。何のネームバリューもない連中だけでは、チケットをPRするのも非常に苦しい。
…と、嘆いてばかりもいられない。手持ちの札で状況を打開すべく、「パネマジ野郎」こと広報部長(部長と言っても3人しかいない部署である)は一計を案じたものであった。
「今年はこいつで行くか」
新人3名の個人資料を何度も読み込みながら、白井は育成の野田に焦点を絞る決断を下した。
「養護施設出身の子供が、プロ野球選手として活躍するシンデレラストーリー」
白井の描いた絵を一言で表すと、こういう事になる。
生い立ちで苦労した高校生が、プロ入りして世間を見返していく…という、誰にでも分かるお涙頂戴ストーリー。そこに、某プロ入り選手の隠し子説、生き別れの母親、守護霊がどうのこうのと、ある事ない事、白井が過剰に味付けしてみせたのであった。
実際、野田の人生はそこまで劇的でもなく、かといって字面でも一応嘘はついていないという、紳士的なスポーツ新聞とでも言おうか、グレーゾーンすれすれの売り出し方であった。一例を挙げれば、養護施設出身はその通りだが、野田は預けられた子供ではなく、単に施設経営者の実子なのであった。
かように、広報部に滅茶苦茶にやられ放題、半ば球団のおもちゃと化していたような格好ではあったが、これが実力不足で入団した野田には幸いした。本来ならコーチ連中が見向きもしない育成の身分ながら、マスゴミ向けに練習をアピールする必要が生じ、白井の要請でコーチ陣が比較的手取り足取り野田を指導したのである。それに加え、野田自身も非常に努力をした結果、育成上がりながらも、3年後、左投手用の1塁パートタイマーとして、1軍に定着するまでに至ったのであった…。
人生、何が幸いするか分からないものである。




