欠場工作
打率2割前後をうろうろする極度の不振ながら、球団首脳部側としては、契約上の問題でスタメン出場「させざるを得ない」イ軍城戸。
チャンスで凡退を繰り返すその大ブレーキ振りもさる事ながら、常時出場の密約を知らない若手選手たちの中で、
「全選手横一線てのは口だけで、不二村も結局ベテランに気を使ってやがる」
と、監督不二村に対して不信感が募り出すに至って、いよいよ事態は切迫してきたのであった。
「何とか城戸の野郎をスタメンで出さずに済む方法はねえかなあ…」
スコアラー竹浦との打ち合わせで、不二村の口から思わず悩みが吐露されたものである。
「うーむ…。奴自身が出たくないと言やあいいんだろ? 俺に任せろや」
果たして、本日のスタメン表から城戸の名前は見事に消えていたのだった。
竹浦が相手チームの先発予想で、ここ数年城戸が全く打てていない中継ぎ左腕投手を報告。それを聞いた城戸が打率低下を嫌って、
「監督悪い、ちょっと俺今日膝痛くて出れねえわ」
と、自ら欠場を申し入れたのである。
城戸欠場を目論む偽情報を前提としているので、そう何度もかませるワケではないにしても、どうしても勝たねばならない試合では使い手がある…。
なりふり構わない事に定評のある不二村采配に、またしてもスレスレの方法論が加わったのであった。




