【城戸編⑥】ナンパ術
さて、イ軍の三大お荷物の一人、「チャンス以外では最強打者」の城戸である。
得点圏での39打席連続無安打という、あまりの勝負弱さから、ついにベンチスタートとなった昨夜の試合。いつになく厳しい顔つきでグラウンドを睨んでいると思いきや、
「今日は不作だな」
と、対面のスタンドにいる美人を物色しているだけなのであった。
試合が佳境に入り、常に一方的に押しまくられるイ軍にしては珍しく緊迫した展開になったところで、城戸も動く。ベンチの連中の目がグランドに集中している隙に、何事かを密かにボールボーイに命じる。狙った女性ファンに渡りをつけるため、あらかじめ携帯番号を要求するナンパメッセージをしたためたサインボールを、ボールボーイに届けさせるのである。
城戸の不自然過ぎるあからさまな動作に、長森ら一部の真面目な若手は「せめてバレないようにやれよこの野郎」といきり立った。しかし、彼らが抗議しようとするのをベテラン草加部が押し留め、一計を案じたものである。
草加部は、城戸がスイングチェックと称してベンチ裏へ間食に向かうタイミングを見計らって密かに先ほどのボールボーイを呼び寄せ、ボールを受け取ると、サラサラと丸文字で何事かを書いて寄越して「このまま城戸に渡してくれ」と、言付けたのであった。
果たして翌日、城戸は欠場。
マネージャー情報によれば、尻痛で病院に行くとの事である。
「ニューハーフに人気のある奴ぁ、大変だねえ」
城戸欠場の報を受けた草加部――昨日、タチのニューハーフの電話番号をボールに書いた――のすっとぼけたコメントに、ベンチ内では大爆笑が起こったのであった…。




