【「ワザと捕っている」草加部編①】釣り達者
もはや立っているのも辛そうな三塁草加部。
つい先ほど、打者走者で一塁に駆け込んだ際にカバーに入った投手と交錯し、右脚を痛めたのであった。
普段は怪我に強い選手なだけに、ちょっとの痛がりようでも只事ではない雰囲気が漂う。少々の痛みは決して表に出さない、昔気質の草加部である。かなりのレアさ加減に、観客席も次第にざわめき始める。おいおい、不二村の野郎は何で草加部を下げねえんだ。現に、三塁線へのファールにまるで反応出来ていない。これは重傷なのでは…。
微妙な雰囲気になりつつ、試合は進む。
1点差で勝っているとはいえ、相原が珍しく四球を連発して1死満塁のピンチ。次打者には不振を囲っている5番関口。
もうスクイズ一択しか考えられない場面である。
三塁を替えねえと同点にされちまうぞ。
そう、怨念を込めた視線でベンチを睨む相原。しかし不二村は無表情に戦況を見詰めるのみである。
草加部は「すまんなあ」と相原に声を掛けるが、相原は答えない。自覚があるなら自分からグラウンドを降りろってんだ全く! もはや、自分で捕る覚悟を決めている。
果たして、第1球。
高めに外し気味だったにも関わらず、関口が何とかバットを合わせ三塁線を頃がる絶妙のバント。相原も登板過多で酷使された体を懸命に鞭打つものの、間一髪間に合いそうにない…!
と、思いきや、三塁から猛然とダッシュしてきた草加部が軽やかに素手キャッチ。捕手の綿貫に送球し、綿貫から一塁へ転送してお手本のようなスクイズ阻止の併殺完成。
見れば、草加部は相手ベンチを指さしながら腹を抱えて爆笑しているものである。そして、ベンチに戻るや不二村監督とハイタッチの嵐。
要は、相原が不調と見て、絶対に勝ちに行く為の実に手の込んだトリックプレーだったという種明かしなのであった。
ふざけるんじゃねえ!
と、内心憤懣やるかたない相原ではあったが、もはや後の祭り。
「悔しかったらもっといい球を放りやがれ」2828顔で挑発する不二村を、いつか頃そうと改めて誓うのであった。




