【不二村監督現役時代編①】エア連携
「おい高橋! そこは俺が取る!」
二塁の定位置に就いていた不二村が、ノックマシンからの飛球を追いながら、右翼に向けてがなり立てる。
返事は無い。
不二村は懸命に背走し、微妙な位置に落ちかけた飛球を何とかキャッチ。ふうっと息をついた。
「悪いな高橋。お前の守備範囲だが、俺もアピールしなきゃならんからな」
そう言って二塁に戻る。
返事は無い。
それはそうだ。右翼には誰もいないのだから。
球団に頼み込んでグラウンドは使用させてもらえることになったものの、練習相手がいない…。
周囲を敵視し過ぎる不二村には、こんな時に頼れる人間が誰一人としていなかった。この練習も、コーチが付き合ってくれるわけもなく、時給1000円でホームレスのオヤジをスカウトして、ようやく成立している始末なのだ。
もともと周囲の人間から疎外されて生きてきたせいで、他人との関係を上手く構築できない。また、野球選手としても、過激かつ不穏当な言動で、チーム内では完全に浮いている。不二村の勝利への飽くなき執着は、負け慣れた集団にあっては煙たがられるだけなのであった。
一軍レベルには程遠い技術的な面もさることながら、それ以上に、人間関係についての悩みが日増しに大きくなってしまっている…。だが、それも、野球に打ち込んでいる時には忘れる事ができた。
無人の内外野手に声掛け確認しながらの連携プレー。
バイトホームレスは大爆笑したが(歩く火薬庫と称される不二村相手にそんな真似をして、その後どんな目に遭ったのかは想像に難くなかろう)、もはやなりふりをかまっている場合では無い。
野球選手としての生き残りをかけて、不二村は必死に闘うのであった。




